【解説】18の国と地域が“ロシア制裁の抜け道”の可能性か

欧米の経済制裁が強まるなか、友好的な旧ソビエトの国々を通じて軍事侵攻を続けるための物資を入手しているとされるロシア。

制裁の「抜け穴」と指摘されている国のひとつは、ロシアと長い国境を接するカザフスタンです。
欧米の懸念を払拭(ふっしょく)するため対策を進める一方、ロシアとの関係も引き続き維持していく立場で、難しいかじ取りが続いています。

「国際報道2023」油井秀樹キャスターが詳しく解説します。

(8月4日の「国際報道2023」で放送した内容。
動画は7分40秒。データ放送ではご覧になれません)

旧ソビエトの構成国で、いまもロシアと結びつきが深いカザフスタン。
ロシアが主導する経済同盟の加盟国で、欧米の制裁には加わっていません。

カザフスタン政府によりますと、2022年ロシアへの輸出額は88億ドルで、前の年に比べて25%増加。軍事侵攻が始まって以降、むしろ、ロシアへの輸出が大幅に増えているのです。

カザフスタンが制裁の「抜け穴」になっているのではないか。
欧米側は懸念を示してきました。

独立系メディアなどは、侵攻前には輸出されていなかった洗濯機の輸出額が1年間で3000万ドル近くまで増加したと伝えています。

制裁の対象となっている半導体や電子部品などを入手するため、ロシアが家電製品さえ利用していると指摘しました。

ことしに入り、欧米の高官が相次いでカザフスタンを訪問。

4月に訪問したEU=ヨーロッパ連合のオサリバン特使は「異常な貿易の流れが見られる」として、カザフスタンに直接、懸念を示しました。

ロシアとの関係を継続する一方、カザフスタンは欧米に協力する姿勢も見せています。

そのひとつが、ロシアへの輸出品の流れを追跡する電子監視システムの導入です。輸出する品物に関する情報や送り先、運送業者などを入力しているといいます。

専門家は、カザフスタンはこれからもロシアと欧米の間でバランスをとっていかざるをえないと指摘しています。

制裁の抜け道となっているのはカザフスタンだけではありません。
アメリカ政府は去年、こちらの18の国と地域が制裁の抜け道になっている可能性があると警告しました。

懸念しているのは、欧米や日本の電子製品や半導体などが、こうした国々を経由してロシアに渡り、ロシアのミサイルなどの兵器に組み込まれている実態です。

ことし7月に発表された調査報告書によりますと、ウクライナで使用されたロシアのミサイルや無人機など58の兵器や装備品を調査した結果、1057の外国製の部品が発見されたということです。

主なものはマイクロチップ。プロセッサー。それにトランジスターといった電子製品が主に外国製だったとしています。

これを国や地域別で見ますと、最も多かったのはアメリカ製。全体のおよそ3分の2。そして2番目に多いのが日本製。続いて3番目がドイツ製だったとしています。

日本製ですが、75の部品が見つかりましたが、企業の数にすると日本企業19社の部品だったとして、報告書には全ての日本企業の名前も記載されています。

制裁の抜け穴をふさぐために、欧米は外交だけでなく捜査機関も動いています。

こちらはアメリカが逮捕したロシア人の男ですが、その容疑は、バルト3国のエストニアにフロント企業を作って、アメリカ製の電子部品や半導体それに弾薬などを調達し、エストニア経由でロシアに輸送した疑いなのです。

さらに、アメリカの捜査機関は、この男がロシアの情報・治安機関FSBのスパイか協力者の可能性が高いとしています。

制裁の抜け道を見つけて欧米の製品を調達する。軍事侵攻が消耗戦となる中で今や、抜け道の開拓こそがロシアのスパイの重要な任務になりつつあるようです。