「SPring-8」大幅改修 “世界最高性能目指す” 文科省が報告書

放射光と呼ばれる特殊な光を使って物質の細かな構造などを解き明かす、兵庫県にある大型実験施設「SPring-8」について、文部科学省は、能力をおよそ100倍に高める大幅な改修を行って世界最高性能の実現を目指す方針を固め、報告書にまとめました。

兵庫県にある「SPring-8」は直径が500メートルほどの円形の大型施設で、放射光と呼ばれる特殊な光を使い、物質の細かな構造などを解き明かすことができます。

26年前に当時、世界最高性能の装置として運用がはじまり、翌年に起きた和歌山市の毒物カレー事件で証拠資料の「ヒ素」の鑑定に用いられ、注目を集めたほか、小惑星探査機の「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルの分析でも成果をあげてきました。

大型の放射光施設をめぐっては半導体の検査や燃料電池の開発など産業分野でも活用され、イノベーションを支える重要な研究基盤にあたることから、アメリカやヨーロッパ、中国などで「SPring-8」の性能を上回る研究施設の運用開始や新計画が相次ぎ、国際的な競争が激しくなっています。

こうした状況を踏まえて文部科学省は、特別作業チームを設けて検討し、このほど報告書にまとめました。

それによりますと、「SPring-8」の放射光の明るさを現在のおよそ100倍に高める大幅な改修を行い、世界最高性能を実現する取り組みを来年度から始めるべきだとしています。

また、今後、試作機による動作実証を行い、整備・建設期間を経て、2029年度に運用を始めたい考えが示され、次世代の半導体開発などの国際競争力の強化や経済安全保障の観点からも改修が不可欠だとしています。

科学捜査や身近な製品開発にも

「SPring-8」は基礎研究だけでなく、科学捜査や身近な製品開発にも役立てられています。

運用を開始した翌年の1998年に起きた和歌山市の「毒物カレー事件」では、証拠資料の「ヒ素」の鑑定に用いられ、注目を集めました。

また、自動車のタイヤの研究開発では、放射光でタイヤのゴムの内部構造を詳しく調べたことで、摩擦力を大きくしている部分を特定し、燃費の性能に優れたタイヤの開発につながったということです。

このほかにも、コンタクトレンズやシャンプー、それに虫歯予防につながるガムなど、身近なさまざまな製品の開発を行ううえで重要となる研究データを得るために活用されています。