高校野球 クラーク国際が前橋商を突き放し 甲子園初勝利

夏の全国高校野球、大会3日目の第2試合は、北北海道のクラーク記念国際高校が群馬の前橋商業に7対1で勝ち、甲子園初勝利で2回戦に進みました。

クラーク記念国際は3回、チーム初ヒットで出たランナーをバントで送り、1アウト二塁で1番の鈴木凰介選手がライトにタイムリーヒットを打ち、1点を先制しました。

その直後に同点とされたクラーク記念国際は7回、相手のエラーで1点を勝ち越しました。

さらに8回、ヒット3本と相手のエラーもあって一挙5点を追加し、突き放しました。

投げてはキャプテンでエースの新岡歩輝投手が、スリークオーターやサイドスローから140キロ台の速球に加え、多彩な変化球を繰り出し、前橋商業打線を1点に抑えました。

クラーク記念国際が7対1で勝って、春夏通じて甲子園初勝利で2回戦に進みました。

一方の前橋商業は、先制された3回に3番の小池絆選手のレフトへのタイムリーヒットですぐさま追いつき、中盤まで同点で粘りましたが、相手を上回る10本のヒットを打ったものの、相手の新岡投手から追加点を奪うことはできませんでした。

クラーク国際 新岡投手「冷静に丁寧に投げることを意識」

1失点完投でチームを甲子園初勝利に導いたクラーク記念国際高校のキャプテンでエース、新岡歩輝投手は「大きな目標である初戦突破が達成できてうれしいです。ランナーが出ても自分のピッチングができて、1点に抑えられたのがよかったと思います。前橋商業は打線をつないでいく野球という印象だったので、ランナーが出て相手の流れになるのかという不安も感じましたが、冷静に丁寧に投げることを意識しました」と話しました。

また、8回の攻撃で一挙5点を奪ったことについては「下位打線の2年生が打って点を取ってくれたので、すごく助かりました」と話していました。

クラーク国際 佐々木監督「少ないチャンスを結びつけてくれた」

甲子園初勝利を挙げたクラーク記念国際高校の佐々木啓司監督は「クラークに来て10年、いろんな方に支えていただきながら勝てた1勝なので、うれしさと感謝でいっぱいです」と笑顔で話しました。

試合については「新岡投手中心に守って、少ないチャンスを点数に結びつけてくれたと思います」と話しました。

そして、2回戦で対戦する岩手の花巻東高校については「われわれよりもうまい試合をしますし、いいピッチャーを出しているチームという印象です。なんとかいい試合の流れになるように頑張ります」と話していました。

前橋商 真藤主将「笑顔で楽しむことできた」

前橋商業のキャプテンで3本のヒットを打った真藤允宗選手は、「初回から自分が先頭に立って笑顔で楽しむことができました。6点差になっても、2イニングあれば自分たちの力なら逆転できる自信があったので、仲間にミスが出た場面でも明るく声をかけることを意識していました。ベンチに入れない選手が自分たちのために投げ方まで変えて練習に付き合ってくれて、そのおかげで3安打できたので、感謝しかないです」と話していました。

前橋商 坂部投手「悔いはない」

前橋商業の先発で、7回まで投げた坂部羽汰投手は「初回から制球が定まらない場面もありましたが、球場の雰囲気にも徐々に慣れてきて、全力で楽しめました。自分の持っている力は最大限出せたので悔いはないです。7回にエラーが出てリードを許してしまいましたが、まだまだ逆転できると信じて投げきることができました」と話していました。

前橋商 小池選手「武器のミート力 生かせた」

3回の同点タイムリーを含むヒット2本を打った、前橋商業の2年生で3番の小池絆選手は「曲がりの大きな変化球が来ると思って待っていました。体重が少し前にいってしまいましたが、自分の武器であるミート力を生かすことができました」と振り返りました。

一方で、終盤にセカンドの守備でエラーが出てしまったことについては「甲子園ということで気持ちに焦りがありました。全部打球を捕れるように練習して、来年、甲子園に戻ってきたいです」と話していました。

クラーク国際 エース 投球フォームを“変幻自在”に操り勝利

「変幻自在のピッチング」。

チームの甲子園初勝利に貢献したクラーク記念国際高校のエース、新岡歩輝投手には、そのことばがぴったりです。

バッターの構えや狙い球などに応じて、スリークオーターやサイドスロー、アンダースローと投げる腕の角度を変える新岡投手。

140キロ台の速球に加え、多彩な変化球を繰り出すピッチャーです。

8日の初戦、新岡投手は、チーム打率が4割に迫る群馬の前橋商業打線に対して、フォームを自在に変え、キレのある変化球や力のある速球を投げ込み、121球、1失点で完投しました。

試合後、新岡投手は「相手が粘り強く振ってきてつなぐ野球をしてきたので、不安もありましたが、冷静に丁寧に投げることだけ意識しました。ランナーがいても焦らず投げられました。対戦できて楽しかったです」と笑顔で話しました。

実は、新岡投手、中学生の時はアンダースローで投げていて、徐々にスリークオーターになっていったということです。

投球フォームを変えながら投げることになったきっかけについて、「1試合を投げ抜くことを考えた時、工夫をしていかないといけないと思って、フォームを変えれば球の軌道も変えられたので」と話しました。

2回戦で対戦するのは、今大会注目の強打者、佐々木麟太郎選手を擁する岩手の花巻東高校。

新岡投手は「気持ちで負けず強気で投げたい。北北海道大会でもずっと投げてきたので体力には自信があり、不安はありません」と力強く話しました。

キャプテンとして、エースとしてこの夏、1勝で終わるつもりはありません。

クラーク国際 負傷した選手から受け継いだバット

クラーク記念国際高校3年の坂本劣陽選手は、特別な思いでアルプススタンドから声援を送りました。

チームの主力メンバーの1人として、ことしの春のセンバツに出場した坂本選手は、地方大会の予選を直前に控えた5月、練習中に右足頸骨を骨折し、夏の甲子園出場は絶望的となりました。

坂本選手は当時の心境について「夏の大会に間に合わないとわかった時は何も考えられませんでした」と振り返ります。

ともに寮生活を送り、夏の甲子園の登録メンバーに入った麻原草太選手は、坂本選手が使っていたオレンジ色のバットを受け継ぎ、地方大会に臨みました。

坂本選手は準々決勝でソロホームランを打つなどの活躍を見せ、チームは春夏連続の甲子園出場を決めました。

甲子園初勝利を目指して臨む初戦。

麻原選手は7日の前日練習で「坂本選手の思いも込めてバッティングをしたい」と決意を話しました。

そして8日、坂本選手がアルプススタンドで大きな声援を送るなか、チームは8回に一挙5点を奪い、麻原選手も受け継いだバットで9回にヒットを打ち、勝利を収めました。

「打席に入る前、バットを見て坂本選手のことを考えていました」と麻原選手が話せば「打ってくれてうれしいし、一安心という気持ちです。次の試合ではきょう打てなかったホームランを打ってほしい」と坂本選手。

甲子園のバッターボックスに立つのは1人でも、バットに込めた思いは2人分です。

前橋商 打撃支えたバッティングピッチャー 相手エースもまね

「たとえ肩が壊れても」。

群馬の前橋商業は登録メンバーに入れなかった3年生の投手が対戦相手のエースをまねたサイドスローに取り組んで、打撃練習を支えました。

前橋商業のアルプス席で応援団長を務めた、3年生の白石光輝投手は最速139キロの右投げのオーバーハンドのピッチャーで、秋や春の大会ではベンチ入りすることもありました。

しかし、140キロを超える投手がそろう投手陣の中で、夏の大会では登録メンバーを勝ち取ることはできませんでした。

野球は高校で辞めるという白石投手は、たとえ肩が壊れてもという覚悟でチームの勝利に貢献しようと、打撃練習では常にバッティングピッチャーを務め、多い日は200球以上投げてきました。

バッターの要望を受けて、ストレートと変化球を織り交ぜたり、苦手なコースを中心に投げたりと腕を振り続け、その甲斐あって群馬大会ではチーム打率が4割に迫り、13年ぶりの甲子園出場を決めました。

白石投手は初戦の相手が、北北海道のクラーク記念国際高校に決まると相手のエース、新岡歩輝投手の投球フォームや変化球をまね、チームが関西入りした後の練習ではサイドスローに取り組み、バッティングピッチャーを務めました。

8日の試合前、白石投手は「サイドスローは初めてで体は筋肉痛などでばきばきですが、応援団長として全身を使って応援します。練習の成果を生かしてたくさん打ってほしいです」と話しました。

試合は1対7で敗れましたが、前橋商業は新岡投手から相手を上回る2桁10本のヒットを打ちました。

試合のあと、3安打を打ったキャプテンで4番の真藤允宗選手は「ベンチに入れなかった白石投手が自分たちのために投げ方まで変えて練習に付き合ってくれて、そのおかげで3安打できたので感謝しかないです」と話しました。

甲子園のマウンドには立てなかったものの、仲間のために投げ続けた1球1球がありました。