【なぜ】高齢者の身元保証サポート事業 総務省が初の実態調査

身寄りのない高齢者が入院や施設への入所をする際に身元保証などを行う民間のサポート事業について、総務省は、契約の際に重要事項を説明する資料を作成していない事業者が80%近くにのぼり、契約手順の公正さなどに課題があるとする調査結果をまとめました。事業の健全性を確保する必要があるとして、総務省は関係する省庁に対しルール化を検討するよう通知しました。

身元保証サポート事業 総務省が初の実態調査

高齢者などに身元保証などのサービスを提供するサポート事業をめぐっては、単身の高齢者の増加で需要が高まる一方で直接監督する省庁や法律がなく、総務省行政評価局が初めて実態を調査しました。

調査は身元保証のほか、日常生活の支援や、葬儀や遺品処分などの死後の事務サービスを実施している事業者で、把握できた400社余りのうち204社を対象としています。

79%の事業者 費用など重要項目を説明する資料作成せず

それによりますと、サービスの提供にあたり契約書を作成していたのは90%でしたが、費用や解約時の対応など重要な項目を説明する資料を作成していない事業者が79%に上っています。

また、契約時に弁護士やケアマネージャーなど第三者が立ち会うことにしている事業者は68%でしたが、軽度の認知症の高齢者が内容を十分に理解しないまま契約を結んでいた事例もあったということです。

このほか、預託金としてサービスに必要な費用をあらかじめ徴収していたのは77%で、事業所内の金庫や代表者の個人口座で管理している事業者もあったということです。

総務省は、契約手順の公正さなどに課題があるほか、サービスや費用体系も複雑なため事業の健全性を確保する必要があるとして、厚生労働省や消費者庁、法務省に対し、ガイドラインの策定など改善に向けたルール化を検討するよう通知しました。

岸田首相「省庁横断的な視点で取り組み検討」

岸田総理大臣は7日、独り暮らしの高齢者の割合が全国的にも高いとされる東京・豊島区の区役所を訪れ、支援活動を担う社会福祉協議会の担当者らと対話しました。

この中で、出席者からは「入院や介護施設への入所が必要となった場合に、身元保証人になる人がいないという不安を抱える人が多い」とか「経済的にゆとりがない人は、身元保証を支援する民間団体と契約することも難しい」などといった実情が伝えられました。

岸田総理大臣は、このあと記者団に対し「豊島区の課題は高齢化が進むわが国で避けては通れず、政治として寄り添わなければならない課題だ」と述べました。

そのうえで「安心して民間事業者による身元保証などのサポートを受けられる仕組みづくりや、十分な資力がない高齢者への相談体制の整備など省庁横断的な視点で取り組みを検討していきたい」と述べました。

民間の身元保証サポート事業とは

民間の身元保証サポート事業は、身寄りのない高齢者などを対象に主に入院や入所時の債務保証や緊急時の連絡対応といった「身元保証サービス」のほか、買い物支援や病院の付き添いといった「日常生活支援サービス」、それに亡くなったあとの葬儀や遺品の処分などの「死後事務サービス」を行っています。

高齢化や単身世帯の増加などを背景に、認知症や知的障害の人の財産管理などを行う「成年後見制度」や「介護保険制度」といった既存の制度では補いきれない部分のニーズを引き受けるかたちで身元保証サポート事業者や利用する人が増えているとみられています。

契約トラブルも 消費者庁など契約前のチェック呼びかけ

一方で、監督する官庁や法令はなく、預かった預託金を流用した大手事業者の経営破綻なども起きているほか、総務省によると全国の消費生活センターなどには契約をめぐるトラブルの相談が年間100件程度寄せられているということです。

このため消費者庁などは、「身元保証」サービスを利用するうえでの注意として契約前に次のような点をチェックするよう呼びかけています。

▽要望の整理:
自分が何をしてほしいか明確にする(生活支援・身元保証・死後事務など)

▽支払い能力の見極め:
利用期間を想定して総額を計算し、支払えるか検討する

▽サービス内容の確認:
自分の希望を事業者に伝え、できないことを確認、納得したうえで書面に残す

▽今後のことを考えて:
誰と何の契約をしているのかを書面に残し、緊急連絡先とともにわかりやすいところに保管する

サービスを利用する人は

茨城県龍ケ崎市で長年一人暮らしを続けている中杉正典さん(84)は今月、県内の身元保証サポート事業者「しんらいの会」と契約を結びました。

きっかけは、1年半ほど前に「解離性大動脈りゅう」という血管の病気で意識障害を起こして救急搬送され、要介護の認定を受けたことだといいます。

今後の日常生活で頼ることができる人や再び入院が必要になった際などに身元保証人になってくれる人もいないと悩み、担当のケアマネージャーと相談して決めたということです。

利用者は預託金を支払い、契約した事業者では入院や入所の際の身元保証のほか買い物などの生活支援、葬儀などの亡くなった後の事務手続きまでのサービスを受けることができます。

中杉さんにサービスの内容を正しく理解してもらうため、契約の際には弁護士が立ち会い、途中解約ができることなど重要事項を読み合わせながら説明していました。

「支えてくれる人がいると思うと安心感があります」

中杉さんは「兄妹はいますが、離れたところに住んでいてみんな高齢で頼れません。これからは支えてくれる人がいると思うと安心感があります」と話していました。

「しんらいの会」の青木規幸理事長は「兄弟や親せきなどがいても支援を受けられずお困りの方が年々増えていてます。高齢者がさらに利用しやすくなるよう、今後、行政による指導や監督が必要になると感じます」と話していました。

事業者が命に関わる場面への対応求められることも

身元保証事業者が提供するサービスの中には病気や事故など命に関わる場面への対応が求められることもあり、事業者からは国によるルール作りを求める声があがっています。

都内の身元保証事業者「OAGライフサポート」の代表、黒澤史津乃さんは1人で暮らす91歳の男性の自宅を定期的に訪れ、買い物などの支援を行っているほか、月に1回は高齢者施設で暮らす男性の妹の面会にも付き添っています。

ふだんはこうした生活支援が中心ですが、緊急時には連絡をもらうことにしていて、男性が以前、自宅前で転倒した際には、連絡を受けて救急車に同乗しCT検査にも立ち会ったといいます。

このときは大事には至りませんでしたが、こうした場面で輸血や手術の判断を求められることもあるため、この事業者では、契約の際に終末期医療や最期を過ごしたい場所などの本人の希望を確認しているということです。

「どこまで身元保証事業者が行うのか 規制やルール検討を」

黒澤代表は「入院や施設への入所時などの身元保証人以外にも求められる役割は無数にあり、介護保険などで対応できないことを引き受けているのが現状です。社会にとって必要な事業や業界だと認知してもらったうえで、今後、どこまでを身元保証事業者が行うのかや規制やルールなどを国に検討してもらいたいです」と話していました。

専門家「善意の事業者頼みではない業界つくる必要」

身元保証サポート事業に詳しい日本総合研究所の沢村香苗研究員は「家族を頼れない人が増える中で広がっている“家族代行”とも言えるサービスだが、ルールや定義がないものを事業者が独自にサービスを作り上げてしまっている。利用者側から見て複雑で選びにくいだけでなく、一部では金の流用など経営面の問題についての指摘もあり、善意の事業者頼みではない業界をつくる必要がある」と指摘しています。

そのうえで「老後は何を自分たちで行い、何を誰に頼むのか整理しておくことが大事だ。そのうえで、人にお金を払ってまで頼む必要があれば、それこそが身元保証事業者が担うべきことで、サービスの規格を統一して比較できるようにし、国や自治体が契約や運営方法などをチェックできるようにしていく仕組みが重要だ」と話していました。