“改造”で簡単に 自動運転EVバス

ことし4月に解禁された自動運転の「レベル4」。
ルートや速度など特定の条件のもとでドライバーが不要となるいわば“無人運転”ができるようになったものの、日本ではまだ街なかで目にする機会は少ない。
大手自動車メーカーも開発を加速させているが、今その実用化を主導しているのはスタートアップ企業だ。
ゼロからすべてを作り上げるのではなく、従来の車を改造する手法で劇的に開発と生産のスピードを高めることを実現したあるスタートアップ企業の現場を取材した。
(経済部記者 當眞大気)
ルートや速度など特定の条件のもとでドライバーが不要となるいわば“無人運転”ができるようになったものの、日本ではまだ街なかで目にする機会は少ない。
大手自動車メーカーも開発を加速させているが、今その実用化を主導しているのはスタートアップ企業だ。
ゼロからすべてを作り上げるのではなく、従来の車を改造する手法で劇的に開発と生産のスピードを高めることを実現したあるスタートアップ企業の現場を取材した。
(経済部記者 當眞大気)
わずか2~3か月で完成したEVバス
神奈川県平塚市にある特殊車両メーカーの工場。
定員30人ほどのEVバスの前方部分に、自動運転に使う高性能センサーを取り付ける作業が進められていた。
定員30人ほどのEVバスの前方部分に、自動運転に使う高性能センサーを取り付ける作業が進められていた。

中国メーカーから調達したEVバスの車両をベースに、自動運転への“改造”を施していた。
このプロジェクトを企画したのは、自動運転システムの開発を手がける日本のスタートアップ企業「ティアフォー」。
自動運転の基本ソフトを開発し、自動車メーカーなど世界各国の企業と提携を広げている注目の企業だ。
このプロジェクトを企画したのは、自動運転システムの開発を手がける日本のスタートアップ企業「ティアフォー」。
自動運転の基本ソフトを開発し、自動車メーカーなど世界各国の企業と提携を広げている注目の企業だ。
ソフトウエアに強みを持つ企業がハードウエアの車の生産にも乗り出す。
そのわけを加藤真平社長に尋ねた。
そのわけを加藤真平社長に尋ねた。

ティアフォー 加藤真平社長
「国の期待に応える意味でも、既存のバスを自動運転化してしまうのが、当面は一番有効な手段だと思っているので、スタートアップが率先してやるべきだ。10台、100台という規模感でどんどん社会実装していって、課題もしっかり発掘し、改善に生かしていく」
「国の期待に応える意味でも、既存のバスを自動運転化してしまうのが、当面は一番有効な手段だと思っているので、スタートアップが率先してやるべきだ。10台、100台という規模感でどんどん社会実装していって、課題もしっかり発掘し、改善に生かしていく」
大手自動車メーカーが実用化にこぎ着けるまでの間、スタートアップ企業が先んじて社会としての経験値を高める。
そのスピードを上げるためにみずから車も作ることにしたというわけだ。
大手自動車メーカーによる車両の開発は、数年間の期間が必要とされているが、今のところ、レベル4に対応するモデルが発表される明確な時期は示されていない。
一方、政府は、2年後の2025年度をめどに、全国の50か所程度で自動運転の移動サービスの導入を目指し、この目標を達成するには高度な自動運転技術を搭載した車両が不可欠だ。
ティアフォーは、開発・生産した自動運転EVバスを自治体などにいち早く供給するために“改造”の手法を戦略として選んだという。
そのスピードを上げるためにみずから車も作ることにしたというわけだ。
大手自動車メーカーによる車両の開発は、数年間の期間が必要とされているが、今のところ、レベル4に対応するモデルが発表される明確な時期は示されていない。
一方、政府は、2年後の2025年度をめどに、全国の50か所程度で自動運転の移動サービスの導入を目指し、この目標を達成するには高度な自動運転技術を搭載した車両が不可欠だ。
ティアフォーは、開発・生産した自動運転EVバスを自治体などにいち早く供給するために“改造”の手法を戦略として選んだという。
消防車などの改造を手がける会社と提携
この“改造戦略”でティアフォーが提携先として選んだのが特殊車両メーカーの「トノックス」だ。
既存の車をベースに消防車やパトカーなどの緊急車両に改造する業界大手で、長年、ノウハウを蓄積し、実績を積み重ねてきた。
車の改造は自動化や機械化できない作業が多く、技術者が1台1台を手作業で作り込んでいくため、車の構造に関する専門的な知識や経験が必要だという。
既存の車をベースに消防車やパトカーなどの緊急車両に改造する業界大手で、長年、ノウハウを蓄積し、実績を積み重ねてきた。
車の改造は自動化や機械化できない作業が多く、技術者が1台1台を手作業で作り込んでいくため、車の構造に関する専門的な知識や経験が必要だという。

トノックスとしても、いずれ緊急車両でもEVシフトや自動運転化が進むことを見据えると、新たな時代に対応した改造のノウハウをいち早く蓄積する必要があると考えたという。
これまでの改造とは違う“電気コードの数”
従来の改造と大きく違っていたのは、電気などのコードのとりまわしの多さだったという。

電気の力で走るEVはもちろん、自動運転のシステムもそれぞれの機器をつなぐコードを複雑に張り巡らせる必要があり、試行錯誤を続けてきたという。

トノックス 殿内崇生 常務取締役
「これまでは部品を取り付けたり塗装したりというのが中心でした。しかし自動運転のEVというのは電子制御されている車なので、やはりエンジン車を扱うのとは全く違う技術が必要になり、本当に新しい分野へのチャレンジです。これからの時代は、EVや自動運転にシフトすると思っているので、今回の事業を通して知見を得たい」
「これまでは部品を取り付けたり塗装したりというのが中心でした。しかし自動運転のEVというのは電子制御されている車なので、やはりエンジン車を扱うのとは全く違う技術が必要になり、本当に新しい分野へのチャレンジです。これからの時代は、EVや自動運転にシフトすると思っているので、今回の事業を通して知見を得たい」
そして完成へ 自動運転EVバス
試行錯誤の末、自動運転EVバスの1号車はことし9月末に完成する。

完成までの期間を2か月から3か月程度に短縮する開発・生産体制を整えたという。
まずは地方の自治体向けに販売し、さらにタクシー向けなど異なるタイプの車両も含めて2025年までに300台規模の生産を目指している。
まずは地方の自治体向けに販売し、さらにタクシー向けなど異なるタイプの車両も含めて2025年までに300台規模の生産を目指している。
さらに生産を簡単に
ティアフォーの加藤社長にはさらに次のビジョンがある。
自動運転車の生産のハードルを一気に下げようというものだ。
その方法や考え方を独特な言い回しで説明した。
自動運転車の生産のハードルを一気に下げようというものだ。
その方法や考え方を独特な言い回しで説明した。

ティアフォー 加藤真平社長
「ちょっと分野は違いますけど“組み立て家具”と非常に近い。例えば、バスを作るのも自動運転ソフトウエアを作るのも非常に難しいんですけども、これはすでにできている。さらに、この2つを組み合わせるのも簡単ではないですが、“説明書”があることによってみんなができるようになっていく。開発そのものは非常に難しいのですが、それをガイドラインで整理したり、工程を簡略化することによって、作ること自体を簡単化することはできると思うので、ここをどんどん進めていきたい」
「ちょっと分野は違いますけど“組み立て家具”と非常に近い。例えば、バスを作るのも自動運転ソフトウエアを作るのも非常に難しいんですけども、これはすでにできている。さらに、この2つを組み合わせるのも簡単ではないですが、“説明書”があることによってみんなができるようになっていく。開発そのものは非常に難しいのですが、それをガイドラインで整理したり、工程を簡略化することによって、作ること自体を簡単化することはできると思うので、ここをどんどん進めていきたい」
既存の技術を“組み合わせる”方法をさまざまな企業の間で広く共有し、ガイドラインとして皆がそれに基づいて開発や部品などの生産を進めることで、さらにスピード化が図れると考える。
取材後記
自動運転車が大量生産時代に入るころには、そのための技術を大手自動車メーカーが確立しなければならない。

いわばその前さばきとしてスタートアップ企業には重要な役割があると考える加藤社長の姿勢は、自動車業界におけるスタートアップ企業のこれまでの印象を変えるかもしれない。
先行するアメリカや中国では、すでに自動運転車が客を乗せて走る光景が見られるようになっている。
それは試行錯誤の段階から社会実装をいち早く進めていくという当局の考え方の違いもあるが、日本でもこうしたスタートアップ企業の取り組みや考えはそれに近い効果がありそうだ。
将来の自動運転社会の覇権の布石となる競争はすでに佳境を迎えている。
これから数年の加速力が試されている。
先行するアメリカや中国では、すでに自動運転車が客を乗せて走る光景が見られるようになっている。
それは試行錯誤の段階から社会実装をいち早く進めていくという当局の考え方の違いもあるが、日本でもこうしたスタートアップ企業の取り組みや考えはそれに近い効果がありそうだ。
将来の自動運転社会の覇権の布石となる競争はすでに佳境を迎えている。
これから数年の加速力が試されている。

経済部記者
當眞大気
2013年入局
沖縄放送局、山口放送局を経て現所属
當眞大気
2013年入局
沖縄放送局、山口放送局を経て現所属