社会

国立科学博物館 クラファン初日に目標金額の1億円に達する

動植物や化石など、国内外のさまざまな標本を収集し、国内最大規模のコレクションがある国立科学博物館。

財政のひっ迫を改善するために、クラウドファンディングで1億円を募ると発表しました。

国立の博物館が、なぜクラウドファンディングに踏み切ることになったのか。
その背景と現状を詳しくお伝えします。

目次

「膨大なコレクションを守りたい」

7日に都内で開かれた記者会見。

国立科学博物館の篠田謙一館長は、
▼光熱費の高騰などを受けた支出の増加や、
▼新型コロナウイルスの感染拡大に伴う入場料収入の減少などで、
財政的にひっ迫していると説明しました。

中でも1年を通して温度や湿度を一定に保つ必要がある収蔵庫は節電が難しく、今年度の光熱費は3億8000万円ほどと、2年前と比べて2億円近く増える見込みとなり、標本などの収集や管理が危機的な状況にあると強調しました。

この状況を改善するため、クラウドファンディングで1億円の資金を募ることを決めたということです。

篠田館長は「今回は過去最大の挑戦になります。科博が持つ膨大なコレクションを守り、国内に点在する貴重なコレクションの収集活動の継続に対する私たちの思いにご支援をお願いします」と話していました。

午後5時20分に目標金額の1億円に達する

7日午前9時からの記者会見で発表された国立科学博物館のクラウドファンディング。

発表直後からホームページにアクセスが集中し、一時、閲覧しにくい状況になりました。

国立科学博物館などによりますと、標本を収集・管理する資金への協力を呼びかけるクラウドファンディングは7日、募集を呼びかけるページが開設されたあと、次々に支援が集まり、午後5時20分に目標金額の1億円に達したということです。

午後5時半現在のウェブサイトの画面では、支援をした人は5000人以上で、「大切なコレクションをこれからも守っていってください」とか「大好きな場所です。頑張ってください」といった応援のコメントが寄せられていました。

博物館では、支援に対するお礼として、研究者が収蔵庫を案内するバックヤードツアーや標本作成の体験のほか、オリジナル図鑑などを用意していて、準備していた枠が埋まったものもありましたが、一部の枠については引き続き募集するということです。

目標金額は達成したものの、当初の予定通りことし11月5日までは募集を続けるということです。

国立科学博物館の篠田謙一館長は、「これだけ早く目標金額を達成できたことに驚いているとともに、多くの国民の皆様にご支援いただけたことに感謝しております。また、博物館が行う基礎研究に対し、多くの方から賛同を受けたことにも、大変心強く思います」とコメントしています。

クラウドファンディングに踏み切ったわけ

今回のクラウドファンディングについて国立科学博物館は会見で「過去最大の挑戦」だと危機感をにじませました。

担当者は国にも、ことあるごとに予算の増額の要望と陳情を繰り返しているが、国の財政状況も厳しく、自分たちで事態の打開に向けて努力しなければならないとしてクラウドファンディングに踏み切ったと説明しました。

貴重な昆虫標本 求められる繊細な管理

自然史博物館のコレクションの保管を巡っては、動物や植物の標本ならではの取り扱いの難しさがあります。

国立科学博物館が管理する500万点を超える「ナショナルコレクション」の大部分は、茨城県つくば市にある自然史標本の収蔵庫で保管されています。

現状を知ってほしいと、動物研究部グループ長で昆虫が専門の野村周平さんが、通常は公開していない収蔵庫での取材と撮影に応じました。

「200万点ほどになる昆虫標本のほぼすべてがこの部屋のなかに収蔵されています」と案内された収蔵庫には、いくつも棚が並び、それぞれ20段にわたって世界各地から集められた標本が入った標本箱がおさめられています。

たとえば「ミヤマクワガタ」の仲間だけでも、国内各地で採集された多くの標本に加えて、伊豆諸島の一部の島にしか生息していない日本固有種の「ミクラミヤマクワガタ」、それに台湾やヨーロッパに生息する種まで数多くの標本があります。

これについて野村さんは「どの種なのかを正しく分類するには、たくさんの標本を並べて違いを明らかにする必要があります」と話しています。

また、標本のなかには「タイプ標本」と呼ばれる、その種を新種として命名する基準となった、種の分類上、重要なものが含まれています。

国立科学博物館が保管する甲虫の「タイプ標本」はおよそ2000点にものぼりますが、代表的なものとして、世界でも沖縄本島北部の「やんばる地域」にのみ生息する固有種「ヤンバルテナガコガネ」があります。

ヤンバルテナガコガネの標本

カブトムシよりも大きい、国内最大のこの甲虫は絶滅のおそれがあるとして国内希少野生動植物種や天然記念物にも指定されています。

およそ40年前「ヤンバルテナガコガネ」を新種として記載する根拠となった標本がこの「タイプ標本」です。

国内外のどこかで似たような昆虫が見つかった場合は、同じ種なのか別の種なのかをつきとめるためにこの標本と比較する必要があり「同じグループの甲虫を研究するなら、世界中どこからでもここに見に来なければならない」と説明してくれました。

こうした貴重な標本を適切に管理するため収蔵庫には窓がなく、標本の劣化につながる日光が入らない作りになっていて、温度や湿度は一定に保たれています。

虫食いやカビの発生を抑えるために昆虫標本を収める収蔵庫の温度は、夏は23度、冬は18度、湿度は50%の一定の範囲で管理されており、その範囲を超えるとアラートが出るようになっています。

昆虫の標本は大きいほど、温度や湿度の影響を受けやすく「ヤンバルテナガコガネ」のような大型の昆虫標本では特に繊細な管理が求められるということです。

野村さんは「収蔵庫は“博物館の心臓部”であり、空調のための予算が少なくなると、どうしても管理がおろそかになり湿気や害虫を呼び込んでしまうので、そういうことは何としても避けたい」と訴えていました。

“100年後、1000年後に引き継ぐ気持ちで管理”

夏には高温・多湿になり、冬は乾燥する日本において、数多くの標本を抱える巨大な収蔵庫の温度と湿度を一定に保つためには1年を通して多くの光熱費がかかります。

収蔵庫の空調に関する電気代を抑えるため、昼間は空調の使用を控え、単価が安い夜間電力を使って部屋の温度を下げるといった対応を取っていますが、設定温度自体は大きく変えられないため節電には限界があるといいます。

そこで収蔵庫があるつくば市の施設全体でも節電の取り組みが進められ、昨年度の電力消費量は前の年を下回ったものの、電気代はエネルギー価格高騰の影響を受けて前の年の1.5倍余りに上昇したということです。

国立科学博物館全体の今年度の光熱費は3億8000万円ほどと見込まれ2年前と比べて2億円近く増える見込みだということです。

“博物館の心臓部”にあたる収蔵庫の光熱費を確保するため展示などに使う事業費の削減や職員に渡した研究費の返金まで求めざるをえない状況まで追い込まれました。

研究費の返金に応じた1人が、哺乳類が専門で、動物のはく製を管理している動物研究部研究主幹の川田伸一郎さんです。

その理由について川田さんは半袖のTシャツにひざ丈のハーフパンツというカジュアルな格好で取材に応じ「好きで子どものような格好をしているわけではありません。電気代を少しでも節約するため夏を過ごすのに1番いい格好をしています。自分が作業するだけならどんな温度でも我慢すればいいですが、標本は耐えてくれません。実際に空調の調子が悪くて破損した標本もあり、そういう経験をすると冷房や暖房をつけている場合ではないという気持ちになります」と話していました。

川田さんに案内してもらった動物のはく製が並ぶ収蔵庫には、大型の「ヒグマ」や「トド」、国の特別天然記念物に指定されている「アマミノクロウサギ」や「カモシカ」などのほか、過去の台帳の記録から100年以上前から保管されているイタチの仲間の外国で作られたはく製など、歴史的に貴重なものも含まれるといいます。

川田さんは「100年後1000年後にはく製を引き継ぐ気持ちで管理をしています。そのころにはいくつかの種は絶滅しているかもしれませんし、科学技術の発達によって新しい発見につながる可能性もあります。大切に次の世代に引き継いでいくことが重要だと思います」と話していました。

「博物館は過去と未来をつなぐ組織」

一方、標本の収集には終わりはなく、国の博物館の使命の1つには高齢化などで個人が維持できなくなった貴重な標本の寄贈を受け付ける“最後のとりで”の役割もあり、10年前(2013年)は420万点余りだったコレクションの数は、昨年度(2022年度)は500万点を超えて1.2倍になっていて、今後も増え続けることが見込まれています。

国立科学博物館の篠田謙一 館長は「標本を捨てるということは集めた人たちの努力を一切無にすることにつながります。博物館というのはあくまで標本を集めて保管してつないでいく、過去と未来をつなぐような組織だということをご理解いただきたい」としたうえで「国立科学博物館はアジアを代表する自然史の博物館だと考えていますが、世界に目を転じるとロンドンの自然史博物館は8000万点、アメリカを代表するスミソニアンの博物館はその倍のおよそ1億6000万点の資料を持っています。その中から研究を行い展示を作っており、ここで止まってしまったら世界からどんどん遅れるばかりです」と話しています。

そして、クラウドファンディングを行うことについて「新型コロナウイルスで来館者が減った上に、光熱費の値上がりで追い打ちをかけられ、これ以上予算を削るところはないという段階まで追い込まれています。博物館の活動を広く知ってもらい、多くの人の協力を得ることが将来にわたって維持していくために必要だと考えています」と述べ理解を求めました。

朝ドラ「らんまん」主人公在籍した植物園も資金難

資金が十分でない中で標本を管理する難しさは国立科学博物館にとどまらず、多くの施設にとって共通する課題です。

東京・文京区にある東京大学の研究施設「小石川植物園」です。
植物を押して乾燥させた標本が80万点以上、収蔵されています。

この施設は、現在放送されているNHKの連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルとなった植物学者、牧野富太郎が長年在籍したことでも知られ、標本のなかには1879年に収集され、その後、牧野が論文で発表して命名したキンモクセイもあります。

キンモクセイの標本

140年以上前に収集されたこともあり、この標本は葉が虫に食われたり、台紙にカビのあとが残ったりしています。

繊細な植物標本にこうした被害が広がらないように植物園の収蔵庫は温度が20度以下、湿度は50%以下に保たれています。

しかし、予算が潤沢ではなく、築84年の建物の老朽化が進み、去年には空調設備が壊れたほか、建物は一部が雨漏りして湿度の管理が難しくなるなど、標本の保管に影響が出るおそれがあるということです。

さらに、研究のために各地で収集した標本の数は年々増えるため、収蔵庫のスペースが足りなくなっています。

この施設では標本が入った棚が所狭しと並べられ、なかにはほかの棚が邪魔になって扉がすべて開かないものがあり、標本を取り出すときにぶつかったり曲がったりして傷む原因になっているということです。

こうしたことから、施設では、ことし4月から新たな建物を建設する資金などに充てるための寄付の呼びかけを始めたということです。

タヴァレス・ヴァスケス・ジエーゴ 特任助教は「予算がなく、湿度や温度の管理や、標本の整理をする人材も今は自分1人しかいない。管理ができなければ資料が失われるおそれがあり、将来の研究者が標本にアクセスできなくなるのではないかと心配している」と話していました。

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