日航機墜落事故 通信網整備し 慰霊の様子など確認できるように

520人が犠牲となった日航ジャンボ機墜落事故から8月12日で38年となります。ことし初めて墜落現場の山の尾根などに衛星を使った通信網が整備され、慰霊登山に参加できない人たちが尾根の慰霊の様子などをリアルタイムで確認できるようになります。

38年前の昭和60年8月12日、日本航空のジャンボ機が群馬県の御巣鷹の尾根に墜落し、乗客乗員520人が犠牲となりました。

墜落現場の尾根には毎年、多くの遺族たちが慰霊登山を行っていますが、年月がたつにつれて、登山を断念せざるをえない人が増えています。

尾根は標高およそ1600メートルにあり、電波がほぼ通じませんでしたが、遺族からの働きかけをうけてことし初めてアメリカの宇宙開発企業、スペースXが手がける「スターリンク」と呼ばれる衛星通信網を活用した機器が整備されることなりました。

具体的には、今月11日から13日までの間、「スターリンク」の電波を受信するアンテナが御巣鷹の登山口と墜落現場の慰霊碑「昇魂之碑」の近くに設置され、無線通信が利用できるようになるということです。

これにより当日、登山できない人たちは現場にいる家族などとスマートフォンやタブレットなどでつないで、現場での慰霊の様子を確認できるようになります。

整備を担うKDDIは「ご遺族の思いにお応えしたいという思いから協力しました。少しでもご遺族が現場を身近に感じられるお手伝いができればと思います」とコメントしています。

“行けない悔しさ 少しでも緩和されれば”

今回、働きかけを行ったのは、事故で父親の謙二さんを亡くした山本康正さん(42)でした。

山本さんは、高齢化で慰霊登山を断念せざるをえない遺族が相次いでいる現実や事故自体を知らない世代が増えていることを気にかけてきました。

このため、これまでも1歳上の兄の昌由さんとともに、現場の様子を定期的にカメラで撮影し、画像をネット上で公開するなどしてきました。

そんな山本さんがよりリアルタイムで墜落現場の尾根と通信でつなげたいと考えた大きな理由の一つが、自分たちを育て上げてくれた母親の啓子さんの存在です。

78歳の啓子さん。かつては子ども3人を連れて尾根に登っていましたが、5年前からは慰霊登山の参加を断念しています。

足の調子が悪くなったことなどがその理由です。

母親のような人のためにできることはないか。

アメリカのIT大手に勤めた経験があった山本さんは、通信会社に働きかけ、今回、衛星通信網「スターリンク」を受信できる設備の設置が実現しました。

母親の啓子さんは、尾根に登れなくなったこの5年、墓標の前で夫にいろいろな報告ができなかったこと、そして、自分だけが生き残っていることに申し訳なさが募っていたといいます。

ことしは、尾根に登る長男にリモートでつないでもらう予定で画面越しから手を合わせて亡くなった夫、謙二さんに子どもたちの近況や孫の成長を報告できるのを心待ちにしています。

啓子さんは「私のように足の調子が悪くなって山登りが無理になった方も御巣鷹の山や昇魂之碑の様子が画面で分かるとその場に行った気分になれます。息子には本当に感謝しています」と話しています。

働きかけを行った山本康正さんは、12日は海外にいて慰霊登山ができないうえ、これまでも仕事でやむをえず登山を断念したこともあったということで「母のように高齢というほかに、仕事などで登れない人もいます。私自身の罪滅ぼしというか、同じ年代で行けていない方も結構いると思うんです。行けない悔しさが少しでも緩和されればと思います。それぞれの場所でより臨場感をもって手を合わせられるようになればいいです」と話しています。

衛星通信網「スターリンク」とは

今回、活用される衛星通信網「スターリンク」は、イーロン・マスク氏が率いるアメリカの「スペースX」が開発しました。

現在、4000基以上の人工衛星が宇宙空間に配置され、地球全体をカバーしているとされています。

国内では、おととし9月KDDIがスペースXと提携し、「スターリンク」を自社の携帯電話の回線と組み合わせることで、離島などの携帯電話が圏外となるエリアの解消を進めてきました。

こうした中KDDIは、今回、遺族からの提案をうけて日本航空や地元の自治体と協議し、御巣鷹の尾根の登山口などへの受信設備の設置を決めたということです。

これにより、現場では無線通信とKDDIが展開する携帯電話会社の回線が利用できるようになります。

KDDIは「スターリンクを使うことで現場の圏外エリアを解決できる方法が見つかり、ぜひご遺族の思いにお応えしたいという思いから協力しました。少しでもご遺族が現場を身近に感じられるお手伝いができればと思います」と話しています。