パラ競泳世界選手権 木下あいら16歳 女子200m個人メドレーで銀

イギリスで開かれているパラ競泳の世界選手権は女子200メートル個人メドレー知的障害のクラスの決勝が行われ、初出場で16歳の木下あいら選手がみずからが持つアジア記録を更新する2分24秒32をマークして銀メダルを獲得し、日本は来年のパリパラリンピックの出場枠を獲得しました。

イギリスのマンチェスターで開かれているパラ競泳の世界選手権は大会5日目の4日、女子200メートル個人メドレー知的障害のクラスの決勝などが行われました。

決勝は初出場の16歳、木下選手が最初のバタフライと続く背泳ぎでは4番手でしたが、このあと磨いてきた平泳ぎで2番手に追い上げました。

そして、最後は得意の自由形でトップのイギリスの選手と競り合い、みずからが持つアジア記録を2秒54縮める2分24秒32をマークして銀メダルを獲得しました。

木下選手は世界選手権で初めてのメダルで、日本はパリパラリンピックの出場枠を獲得しました。

金メダルは、この種目の東京パラリンピック銀メダリストでイギリスのべサニー・ファース選手でした。

また、男子50メートル自由形の運動機能障害のクラスは、東京パラリンピックの銀メダリスト、36歳の鈴木選手が38秒63のタイムで銅メダルを獲得しました。

鈴木選手は今大会出場した3つの種目すべてでメダルを獲得しました。

金メダルはイスラエルのアミオメル・ダダオン選手で、自身が持つ世界記録に0秒01及ばず、36秒26のタイムでした。

このほか、▽女子50メートル自由形、視覚障害のクラスは辻内彩野選手が27秒74のタイムで4位、▽女子50メートルバタフライ、運動機能障害のクラスは西田杏選手が38秒06で5位でした。

▽女子100メートル自由形、視覚障害のクラスは、石浦智美選手が1分12秒19で6位、▽女子100メートル平泳ぎ、運動機能障害のクラスは由井真緒里選手が1分59秒71で7位でした。

木下あいら「次はいちばんいい色のメダルを」

みずからが持つアジア記録を更新して銀メダルを獲得した木下あいら選手は「2秒くらい縮めてベストが出て、メダルも取れてうれしいが、ほんの少しの差で負けてしまったのは悔しい」と振り返りました。

苦手としていた平泳ぎで2番手に順位を上げたことについて「予選でも全体的にベストは出ていなかったが、平泳ぎのタイムは1秒くらい上がっていたので、そこは自信になった。ふだんよりもいい平泳ぎができたと思うがそこで追い越していたら逃げ切れたと思うが、追いかけるような感じになってしまった」と話していました。

また、最後の自由形については「負けているのに気がついていたので頑張って体を動かした。すごいちょっとの差で負けてしまったなと思った」と話していました。

来年のパリパラリンピックに向けては「来年までに強くなって次はいちばんいい色のメダルをこの種目で取れるように頑張りたい」と意気込みを示しました。

憧れは池江璃花子

木下あいら選手は大阪 吹田市出身の16歳。

知的障害のクラスです。

2歳から水泳を始め、東京パラリンピックの後、本格的にパラ競泳の大会に出場するようになりました。

四條畷学園高校の2年生で、水泳部に所属して健常の選手と練習を重ね、力を伸ばすと有望選手を発掘する国のプロジェクトに応募し、前半から積極的に仕掛ける泳ぎや、水の抵抗を受けにくい姿勢を保ちながら水をとらえる上半身の動きに磨きをかけてきました。

去年9月、初めて出場したジャパンパラ大会では200メートル自由形や200メートル個人メドレーなど4種目で日本記録を更新。

さらに、去年11月、初出場の国際大会で200メートル自由形と200メートル個人メドレーのアジア新記録をマークしました。

池江璃花子選手が憧れだという木下選手は、初めての世界選手権で個人種目としては日本勢最多となる5種目に出場。

今大会はこれまで2種目でアジア記録を更新するなど存在感を示し、来年のパリパラリンピックに向けて、大きな一歩を踏み出しました。

鈴木孝幸「出場枠取ることに貢献できなかったのは悔しい」

男子50メートル自由形の運動機能障害のクラスで銅メダルを獲得した鈴木孝幸選手は「泳ぎのテンポもそんなに悪くないと思っていたし、水をつかめている感じもあったのでタイムはいいかと思ったが、ちょっと遅かった。何がいけなかったのか確認する必要がある」と冷静に振り返りました。

今大会出場した3つの種目すべてで銅メダルを獲得したことについては「3つとも表彰台に上れたのでよかったと思うが、初めて出場枠を取ることに貢献できなかったのは悔しい」と話していました。

来年のパリパラリンピックに向けて「まわりの選手も速くなっているので、そこに自分もついていきたいしそうしないと逆に危なくなってくると思う。2年がかりでベストコンディションに持っていこうと思っていて、その1年目としてはまずまずだった。1つでもメダルをいい色に変えていけるように、トレーニングしていきたい」と話していました。

辻内彩野「来年はメダルを」

女子50メートル自由形、視覚障害のクラスで4位に入った辻内彩野選手は「スタートのときに足がばらついた感覚があったので、ベストが出なかったのはそこかなと思うが、久しぶりにこうやった舞台で27秒台を出せたのはすごくよかった」と笑顔で振り返りました。

その上で「この種目にしっかり照準を合わせて来年はメダルをねらえるようスプリントの練習をもう少し頑張っていきたい」と話していました。

石浦智美「きょう一日はいい日に」

女子100メートル自由形、視覚障害のクラスで6位だった石浦智美選手は予選、決勝と続けて自己ベストを更新し「今までなかなか持病の薬の影響などもあって、思うようなレースプランができていなかったが、うまくコントロールして準備できるようになった。最後の15メートルくらいは落ちてしまったが、結果的にタイムを上げることができたのできょう1日はいい日になった」と振り返りました。

その上で次の100メートル背泳ぎに向けて「あすの種目は専門外だが、最近調子が上がってきているので、スピード力に自信を持ってパリパラリンピックにつながるようなレースがしたい」と意気込んでいました。

由井真緒里「後半でもう少し粘ることができれば」

女子100メートル平泳ぎ、運動機能障害のクラスで7位だった由井真緒里選手は「決勝では絶対にベストを出そうと思って臨んだが、思ったとおりに泳げずすごく悔しい。課題としている後半でもう少し粘ることができればよかったかなと思う」と悔しさをにじませました。

次の200メートル自由形に向けて「やっぱり後半が弱いのが浮き彫りになっているので、あしたはペース配分をしっかりとして今自分が出せるベストをしっかり出したい」と気持ちを切り替えていました。

16歳の木下選手 涙を笑顔に変えて

パラ競泳界の新星、16歳の木下あいら選手は初めて挑んだ世界の大舞台で流した悔し涙をバネに、初めてのメダルを手にしました。

大会初日、200メートル自由形でみずからのアジア記録を更新する2分10秒83をマークして5位に入り、上々の滑り出しに見えました。

ところが決勝のあと、木下選手は得意種目で世界の壁に阻まれ、「今まででいちばん悔しいベストになった。気持ちを切り替えて頑張りたい」と悔し涙を見せました。

大会5日目は、アジア記録を持つ200メートル個人メドレー。

最も自信を持つ種目ですが、苦手は平泳ぎです。

そこで、世界選手権に向けておよそ1年かけ、姿勢を水平に保って抵抗を減らしたり、キックで水をかく感覚を体に染みこませたりする反復練習を繰り返してきました。

4日の決勝では、「やってやるぞ」と気持ちを高めスタート台に立った木下選手。

最初のバタフライと続く背泳ぎは4番手につけて、残り100メートル。

平泳ぎでは練習どおりに姿勢を保ち、力強いキックでぐんぐんとスピードに乗って2番手に追い上げました。

最後は得意の自由形。

「負けているのに気がついていたので、頑張って体を動かした」とさらに追い上げます。

トップのイギリスのべサニー・ファース選手にはわずかに0秒15及びませんでしたが、みずからが持つアジア記録を更新する2分24秒32をマーク。

初出場の世界選手権で自身初のメダルとなる銀メダルを獲得しました。

木下選手は銀メダルを胸に掲げ「ふだんよりいい平泳ぎができた。終わった直後は負けて悔しかったが、今の全力を出し切った結果なので喜びたい」と笑顔を見せました。

そして「来年までに強くなって次はいちばんいい色のメダルをこの種目で取れるように頑張りたい」と今後のさらなる活躍を誓っていました。

パリパラリンピックの開幕までおよそ1年。初日の涙を笑顔に変えた16歳の挑戦は続きます。

ウクライナ選手が躍進「国を励ますため、国のために」

ウクライナへの軍事侵攻によって、ロシアとその同盟国のベラルーシの選手の国際大会への出場が認められないなか、躍進を遂げる選手たちもいます。

今大会、ここまで金メダル2つを含む4つのメダルを獲得しているのはウクライナのオレクシー・ビルチェンコ選手です。

4日、男子50メートル自由形、運動機能障害のクラスで金メダルを獲得したあと、ビルチェンコ選手は「僕にとっては最高の勝利だ。今はあまりにも厳しい時期なので、僕の国にとっても、大きな励みになる。僕たちは今、ウクライナを励ますため、ウクライナのために勝とうとしている」と喜びを語りました。

同じ視覚障害のクラスには、東京パラリンピックで5つの金メダルを獲得し、パラリンピックでは通算16個の金メダルを持つベラルーシのイハル・ボキ選手がいますが、今大会出場していません。

これについてビルチェンコ選手は「ボキ選手と一緒に戦うとか、ボキ選手抜きで戦うという問題ではない。僕には勝つという目標があるので、あらゆる国のすべての選手たちと戦ってベストを尽くしたい」と話していました。