近づきたくてもちょっと待って!大けがすることもあります

「イルカに注意!」

海水浴場に掲げられた看板です。

水族館では華麗なジャンプを披露したり、優雅に泳いだり。

あのイルカがまさか…と感じる人も少なくないと思いますが、海水浴客が野生のイルカにかまれたりぶつかられたりしてけがをするケースが福井県内で相次いでいます。

海水浴場で野生のイルカに…

被害があった鷹巣海水浴場

今月1日の午後2時すぎ。

福井市の鷹巣海水浴場近くの海岸で、海水浴客の20代男性が野生のイルカにかまれました。

近づいてきたイルカをなでて海から上がろうとした時のことで、手や足を複数回かまれてふくらはぎに10針縫うけがをしたということです。

地元の海上保安署は、海でイルカを発見した場合は近づかず、すぐに海から上がるよう呼びかけています。

同じ海水浴場で4日前にも

この海水浴場では、被害が出た4日前の7月28日にもイルカが目撃されていました。

SUPのボードの下に姿を見せる

福井市のボードショップオーナーの男性がボードの上に立ち、パドルをこぎながら水面を進むマリンスポーツ「SUP」の講習の下見をしていたところ、1頭のイルカが近づいてきて、ボードの周りを泳いだり、下に潜り込んできたりしたということです。

ことし10人がけが 中には大けがの人も

警察によりますと、ことしに入って福井県内の2か所の海水浴場でイルカによる人への被害が相次ぎ、今月3日の時点で少なくとも10人がけがをしています。

イルカにかまれたケースが多いですが、中にはぶつかられてろっ骨を折る大けがをしたケースもあったということです。

福井県では去年も被害が相次いでいて、けが人は少なくとも21人に上ったということです。

美浜町の水晶浜海水浴場には看板が

被害が出たのは福井市の鷹巣海水浴場と、約50キロほど離れた美浜町にある水晶浜海水浴場。

2つの海水浴場では、去年に続いてさまざまな対策を講じています。

そのひとつはイルカが嫌う超音波を発する装置を海中に設置。

超音波を発する装置

イルカが遊泳区域に現れた際は遊泳客に海から上がるよう呼びかけていますが、素早く誘導して被害を防ぐためのマニュアルも策定。「もしも」の事態に備えています。

現地調査始まる

なぜ、イルカが人をかんだり、ぶつかったりするのか。

4日、イルカの生態に詳しい三重大学大学院生物資源学研究科 附属鯨類研究センターの森阪匡通教授が現地を訪れて調査を始めました。

森阪教授は過去に三重県の海水浴場でイルカが居ついた時に、地元の自治体と調査した経験があり、4日は海水浴場を管理する観光協会の担当者から、イルカが現れる場所や頻度、それに被害防止のための対策などを聞き取っていました。

そのあと、イルカの行動や種類などを把握するために海水浴場全体を見渡せる高台に上り、遊泳区域よりも沖合にいるイルカの姿を確認していました。

現地調査を行う森阪教授

ことし、福井県内で2か所の海水浴場に現れたイルカが同じ個体かどうかなど、詳しいことはまだわかっていません。

森阪教授にこの点についてたずねると、実際にイルカを近くで見て体のキズなどの特徴を確認する必要があると答えたうえで、次のような見方を示しました。

森阪匡通教授
「美浜町で見られなくなってから、福井市で見られるようになった時間的な間隔を見れば、同じ個体の可能性はあります。また、イルカが人に慣れるまで時間が必要なことから、いきなり近寄るということはどこかで人と接触してから来ているように思います」

そして、被害を防ぐ方法については。

「まずは、イルカがいる場合は危険があるということを認識する必要があります。泳ぎが苦手な人はできるだけ沖のほうまで出ないといったことや、イルカのほうから近寄ってきた場合にはとにかく触らない、できるだけ口の前にいかないことなど、リスクを避ける行動を徹底してほしいです」

「人に興味、関心か」

もう1人、専門家に話を聞きました。

東京海洋大学 鯨類学研究室の中村玄 助教に福井市の鷹巣海水浴場で先月、目撃されたイルカの映像を見てもらいました。

中村玄 助教
「人に近寄りたい、スキンシップを取りたいとして寄ってくる感じが見受けられた。イルカは知能が高くて多くの興味を持っていたずらしたり遊んだりといろいろな行動をするが、今回の個体は特に人に興味や関心を持っているなと感じます」

危険性については、次のように指摘しました。

「イルカは唇があって可愛く見えてしまうので、どうしても水族館で見ている姿のイメージで愛くるしいと思ってしまいがちだが、体重は200キロ以上になり泳げば時速40キロ以上の速さで泳ぐので、ぶつかれば大けがをする」

コヨーテには手を出さないのにイルカには…

ここで中村さんは、わかりやすいようにコヨーテの頭骨とイルカの頭骨を並べて説明してくれました。

イヌ科のコヨーテの頭の骨 鋭い犬歯が

「こちらがコヨーテの頭骨です。いわゆる犬の仲間で、野犬とかオオカミに近い。私たちはもしコヨーテがいたとしたら、うかつに手は出さないと思う。それはこのような犬歯とか尖った歯が怖いという意識があるからだと思いますが、なぜかイルカだと手を出してしまう。でもイルカも非常に鋭い歯が並んでいまして…」

ハンドウイルカの歯

「ハンドウイルカというイルカの頭骨です。見ていただくとわかるんですけど、コヨーテとほとんど変わらない犬歯状の歯が上下に並んでいる。彼らの歯は魚を逃がさないように非常に鋭利になっていて、さらにたくさん同じ円錐状の歯が生えている。もし口を開けているところにパッと手を入れたりすると大けがを負います。水の中で人間の体はふやけますので、その状態で歯に触れてしまうとそれだけでスッパリと切れてしまう。こういったものを口の中に持っているということを認識しておく必要があります」

イルカと共存するために

そして、被害を防ぐために必要なことは。

東京海洋大学 中村玄 助教

「イルカと共存するために人間の側が気をつけていればいいことなので、イルカを発見したら距離を取るということをすれば、けがは避けられる。海水浴場などでイルカが出現した際は一時的に海から上がり、近づかないほうがいい。安全なところから見守ってあげるのがいいと思う」