自民 秋本真利議員の事務所など捜索 収賄容疑 東京地検特捜部

脱炭素の実現に向けて政府が導入拡大を目指している洋上風力発電をめぐり、自民党の秋本真利 衆議院議員が東京の風力発電会社側から多額の資金提供を受けていた疑いがあるとして、東京地検特捜部は収賄の疑いで秋本議員の事務所などを捜索し、強制捜査に乗り出しました。特捜部は秋本議員の国会での質問などから資金提供は国会議員としての職務に関する賄賂に当たる可能性があるとみて捜査を進めているものとみられます。

東京地検特捜部 議員会館の事務所や地元事務所などを捜索

捜索を受けたのは、東京 千代田区の衆議院第一議員会館にある秋本真利議員(47)の事務所や、千葉県佐倉市にある地元事務所、千葉市若葉区の秋本議員の関係先などです。

関係者によりますと、秋本議員は政府が導入拡大を目指している洋上風力発電をめぐり、東京 千代田区に本社がある風力発電会社「日本風力開発」側から多額の資金提供を受けた収賄の疑いがあり、会社側から提供された資金はおよそ3000万円に上るとみられるということです。

「日本風力開発」は、政府が3年前からおととしにかけて入札を実施した秋田県沖の2つの海域で行う洋上風力発電のプロジェクトなどへの参入を目指していましたが、落札することができなかったということです。

この入札結果について秋本議員は去年2月に国会で質問し、次のプロジェクトの公募から入札の評価基準を見直すよう求めていました。

また日本風力開発は、政府が「準備区域」に指定している青森県の陸奥湾での事業への参入も目指していますが、秋本議員は4年前の2019年に国会で質問し、青森県の海域で、洋上風力発電の設備が防衛関連の施設に及ぼす影響については、柔軟に対応して過度な規制をかけないよう求めていました。

特捜部は秋本議員が洋上風力発電の事業への参入を目指す日本風力開発が有利になるような国会での質問などから、資金提供は国会議員としての職務に関する賄賂に当たる可能性があるとみて捜査を進めているものとみられます。

日本風力開発側の弁護士が4日、報道陣の取材に応じ「秋本議員側に賄賂を贈った疑いがあるという指摘は全く事実と違う」と主張しています。

また秋本議員は3日夜、海外の訪問先から帰国しましたが、報道陣の問いかけには応じませんでした。

日本風力開発社長の弁護士 賄賂贈ったという疑惑否定

4日、日本風力開発の社長の弁護士が報道陣の取材に応じ、多額の資金のやりとりは「競走馬の馬主仲間」としての経費などの支払いだったとして、秋本議員側に賄賂を贈ったという疑惑を否定しました。

弁護士によりますと、社長と秋本議員は競走馬の馬主仲間で、2021年秋に「パープルパッチレーシング」という馬主組合を設立しました。

この組合は、2人が実質的に45%ずつ権利を持ち、馬の購入代金や運営に係る費用は共同で負担していたとしています。

日本風力開発の社長は、組合設立からこれまでに20回ほどにわたってあわせておよそ3000万円を支出しましたが、それは秋本議員個人に対するものではなく、組合の運営経費や馬の購入費用に充てられたとしています。

弁護士は、特捜部が組合をめぐる税務処理の実態などに着目し、この組合は100%秋本議員のものだととらえているとしたうえで、こうした認識をもとにおよそ3000万円が賄賂だったというのは「全く事実と違う」と否定しました。

その理由として、資金の一部を使った馬の買い付けは、秋本議員が行ったものの名義は組合や社長で、その他の支出も秋本議員ではなく組合の経費の支出先などに対して行われたものだったとしています。

さらに「秋本議員も運営にかかる相当の額を負担しているはずで、組合の運営費用の足りない額をそれぞれが出しているだけなので、賄賂にはあたらない」と主張しました。

秋本真利議員とは

自民党の秋本真利衆議院議員(47)は、比例代表南関東ブロック選出で当選4回。千葉県富里市出身で法政大学を卒業後、2003年から地元の富里市議会議員を2期・8年務め、2012年の衆議院選挙で千葉9区から立候補し初当選しました。

2014年と2017年の衆議院選挙でも千葉9区から立候補し、いずれも当選したほか、おととしの衆議院選挙でも比例代表で復活当選しました。

「脱原発」の推進派で、同じ大学出身の菅前総理大臣や、将来的な「脱原発」が持論の河野デジタル大臣と近いことで知られています。

2017年8月から2018年10月まで国土交通政務官を務め、2019年4月に施行された再生可能エネルギーの活用拡大に向けて洋上風力発電の導入を促進する「再エネ海域利用法」の法案の作成に関わりました。

去年8月からは外務政務官を務めています。

秋本議員「再エネ推進」を強く訴え

秋本議員は、自民党の「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」の事務局長を務めるなど「再エネ推進」を強く訴えています。

2017年8月から翌年の10月まで国土交通政務官を務めていた際には、洋上風力発電の導入を促進する「再エネ海域利用法」の法案作成に関わり、去年2月の衆議院予算委員会の分科会では「安倍総理大臣(当時)や菅官房長官(当時)にお願いをしてこの洋上風力の法律を作るために国交省に政務官として行かせていただいた。政務官の間に法律は成立しなかったが、まさにこの法案を作っている時の国交省の責任者の1人だった」などと発言しています。

また、政務官当時、新エネルギー専門の情報誌に寄せた記事では「洋上風力の普及拡大のために必要な制度設計に尽力したい。そう遠くない未来に発電事業者が事業展開しやすい環境をつくりたい」と述べていました。

政治資金収支報告書によりますと、秋本議員が代表を務める「自民党千葉県第九選挙区支部」は複数の再生可能エネルギー関連企業から2021年までの6年間にあわせて2500万円余りの献金を受けていますが、「日本風力開発」からの献金は記載されていません。

秋本議員 国会での質問は

秋本議員は洋上風力発電の促進について国会でたびたび質問していました。

2019年2月の衆議院予算委員会の分科会では、青森県の海域で洋上風力発電の設備が防衛関連の施設に及ぼす影響について質問し「過度な、必要でもない規制をかけて、そこには一律建てさせませんというのでは、やはりこれは違った意味での国益を損ねます」などと発言しています。

また、去年2月17日の衆議院予算委員会の分科会では、次のプロジェクトの公募から入札の評価基準を見直し、稼働時期の早さに重点を置くよう求めていました。

この中で秋本議員は「今、公示している2回目の公募から評価のしかたというのをちょっと見直していただきたいというのが私の中での結論でございます」「第2ラウンド以降、早く運転開始しようというところにインセンティブをもう少しきちっと与えないと、政府が掲げている再生可能エネルギーの比率だったり、カーボンニュートラルの数字を達成できない可能性が私は高いんじゃないかというふうに思っています。非常に大事なファクターなので運転開始時期に対するウエートづけを私はちょっと見直すべきだろうというふうに思っています」などと発言しています。

これに対し当時の萩生田経済産業大臣は次の公募となる秋田県の「八峰町・能代沖」のプロジェクトについて「去年の12月にスタートしちゃってますので試合のルールを決めて公示しちゃって、そこに参加している人たちがいらっしゃる以上は、やはり途中でルールを変えるというのはどうかなと私は思っているんです」などと答弁しましたが、秋本議員は「第2ラウンドの見直しというのは私はこれは政治判断だと思うんです」などと評価基準の見直しを繰り返し求めています。

そのうえで「あまり地元が鑑みられないということになると、これは次から次へと手が挙がってくるという状況にならないんじゃないか」「第一ラウンドについてはもう少し定性面にウエートを置いてもいいんじゃないかと言ったんですが」「決まったことにはもちろん従います。しかし(法案の)策定段階に関わっていた人間としては、自分の主張していたことが通らなかったわけなのでじくじたる思いがある」などと発言しています。

秋本議員の国会質問のあとの去年3月、政府はすでに始まっていた「八峰町・能代沖」のプロジェクトの公募をいったん停止し、去年10月に稼働時期の早さに重点を置くなどとする新たな入札基準を決めていました。

秋本議員の著書やホームページは

秋本議員は、2020年4月に出版した著書の中で、風力発電などの再生可能エネルギーを普及し「脱原発」を進めるべきだと訴えていました。

この本の帯には、当時行政改革担当大臣だった河野太郎氏が「俺よりすごい、自民党一の『脱原発』男だ」というコメントを寄せています。

この本の中で秋本議員は「私は自由民主党の国会議員ですが、党内の主流派とは異なり、原子力発電の新増設や建て替え、核燃料サイクルには明確に反対しています」とか、「風力発電は再生可能エネルギーの主力電源となる可能性を秘めており、導入を推進することは、国益にも大きくかなうものと考えています」などと述べています。

また、現在「リニューアル中」として内容が非公開になっている秋本議員のホームページには、先月中旬時点では「再生可能エネルギーはCO2を排出せずエネルギーを得ることができる唯一の純国産電源であり、わが国を支えるエネルギーが、CO2フリーで安価な再生可能エネルギーであったらこんなに素晴らしいことはありません」などという「未来への思い」が記されていました。

日本風力開発とは

東京 千代田区に本社がある「日本風力開発」は1999年に設立された風力発電の開発や売電事業を展開する企業です。

ホームページによりますと、これまでに国内外で293基、あわせて570メガワット以上の風力発電を開発したとしていて、国内では北海道や東北、北陸や九州など全国34か所で陸上の風力発電所を運転しています。

近年は、政府が導入に力を入れている洋上風力発電への参入も目指していて、政府が3年前からおととしにかけて入札を実施した秋田県の「能代市・三種町・男鹿市沖」「由利本荘市沖」などの海域で行う洋上風力発電のプロジェクトへの参入を目指していましたが落札することができませんでした。

また、政府が「準備区域」に指定している青森県陸奥湾などの事業への参入も目指しているということです。

「洋上風力発電」とは

海上に風車を設置して発電する「洋上風力発電」はヨーロッパを中心に普及が進んでいます。

障害物がなく強い風が吹く海で陸上よりも大型の風車を使うため、安定して大規模な発電ができることや、コストも下がり大きな経済効果も期待できることから、日本政府も「洋上風力発電」を再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札と位置づけています。

政府は発電能力を2040年までに3000万から4500万キロワットまで拡大すること目指すとしていて、これは大型の火力発電所に換算すると30基分以上になる計算です。

洋上風力発電 入札の経緯は

洋上風力発電をめぐっては、2019年4月に導入を促進する「再エネ海域利用法」が施行され、政府が重点的に整備する海域をあらかじめ指定し、入札によって選ばれた事業者が最長30年間、指定の海域を利用して洋上風力発電を行うことが可能になりました。

政府は2019年から翌年にかけて秋田県と千葉県、長崎県の沖合の4つの海域を重点的に整備する「促進区域」に指定し、3年前からおととしにかけて
▽秋田県の「能代市・三種町・男鹿市沖」と
▽「由利本荘市沖」
▽千葉県の「銚子市沖」の3つのプロジェクトについて入札を実施しましたが、2021年12月、圧倒的に低い供給価格を示した大手商社「三菱商事」を中心とする企業連合がいずれも落札しました。

こうした中、政府は2022年10月、多様な事業者の参入を促して関連する産業を育成するためとして、入札で事業者を選ぶ評価基準を見直しました。

新たな基準では電力の安定供給を確保するためには早期の稼働を促す必要があるとして、▽これまでと比べて稼働時期の早さに重点を置くことや、▽1つの事業グループが落札できる発電の規模に上限を設けること、それに▽事業者が提案する価格が一定の基準を下回っていれば評価を同じにして、価格の面だけでなく事業全体を見て評価するとしました。

そして去年12月、入札評価基準の見直しのためいったん公募を停止していた秋田県の「八峰町・能代市沖」を含む長崎県や新潟県などの沖合の4つのプロジェクトで新しい基準での入札の公募が始まり、ことし6月に締め切られました。

政府は現時点で▽あわせて8つの海域を重点的に整備する「促進区域」に指定しているほか、▽候補地である「有望区域」には北海道石狩市沖や青森県沖の日本海など10の海域、▽「準備区域」に青森県陸奥湾や福井県あわら市沖など6つの海域をそれぞれ指定しています。

【政府・各党の反応】

岸田首相「国民の疑念招くような事態 大変遺憾」

岸田総理大臣は記者会見で「捜査機関による捜査が進んでいる状況なので、今の時点では政府としてコメントすることは控えなければならない」としたうえで「国民の疑念を招くような事態となったことは大変遺憾なことだ」と述べました。

そのうえで「岸田政権のエネルギー政策は、国際的なエネルギー状況の変化の中で、日本の未来に向けての活力と持続可能な経済を考えた上で進めており、政策は、これからも揺るぎはないと確信している。国民の未来のためにしっかりとエネルギー政策は進めていかなければならない」と述べました。

松野官房長官「現時点で報道に関して報告は受けていない」

松野官房長官は記者会見で「現時点で報道に関して秋本政務官から報告は受けていない。捜査機関の活動内容に関わる事柄であり、本人に報告を求めることは考えていない」と述べました。

西村経済産業相「コメントは差し控えたい」

西村経済産業大臣は4日、経済産業省で記者団の取材に応じ「事実関係を承知していないのでコメントは差し控えたい」と述べました。

その一方で、洋上風力発電について入札で事業者を選ぶ基準が去年10月に見直されたことについて「秋本議員が事務局長を務めている再エネ議連から提言をもらったことはあるが、見直しのプロセスは外部有識者を含む審議会で議論をして、パブリックコメントを経て決定したものだ」と述べ、基準の見直しは適切に行われたという認識を示しました。

西村環境相「風力発電事業に課題示されたものではないと認識」

脱炭素の実現に向けて政府が導入拡大を目指している洋上風力発電をめぐる東京地検特捜部による強制捜査について、再生可能エネルギーによる脱炭素を推進している環境省の西村大臣は4日の会見で「捜査に関するコメントは差し控える」としたうえで「本件において風力発電事業そのものに対して課題が示されたというものではないと認識している。政府としては2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現に向けて風力発電を含む再生エネルギーをしっかりと進めていきたい」と話していました。

立民 泉代表「説明責任を果たすべきだ」

立憲民主党の泉代表は記者会見で「説明責任を果たすべきだ。何が違法で違法でないかなどは今後、捜査が進んでいくと思うが、せっかくクリーンなエネルギーなのに、ダーティーな話が出てくるのは何なのかと思う。自民党の議員にお金が集まる、おかしい構図ができていることを考えなければならず、党に関係なく共通のルールとして企業・団体献金を禁止していかなければならない」と述べました。

公明 石井幹事長「事態の進展と本人の対応見守りたい」

公明党の石井幹事長は記者会見で「捜査当局が捜査をしているという報道があるが、まだ正確な動きは承知していないので、今後の事態の進展と本人の対応を見守りたい」と述べました。

共産 小池書記局長「議員の資格にも関わる問題」

共産党の小池書記局長は記者会見で「事実であれば極めて重大だ。外務政務官の辞任だけでなく、秋本氏の議員としての資格にも関わる問題になってくる。政務官を辞任させて、あたかも疑惑にフタをするようなことになれば、自民党や岸田政権全体の責任に発展する。本人の口からきちんと説明し、政府や自民党が真相解明の責任を果たすことを強く求めたい」と述べました。

国民 榛葉幹事長「罪認め辞めるなら議員を辞めるべき」

国民民主党の榛葉幹事長は記者会見で「いまだにこんなことをやっている議員がいるのかとがっかりした。『自分は無実だが、政府に迷惑をかけたので辞める』などと、お決まりのセリフを言うのなら、その前に本人が説明すべきで、自分の罪を認めて辞めるのなら、大臣政務官ではなく議員を辞めるべきだ」と述べました。