パラ競泳 山口尚秀が世界選手権3連覇 パラリンピック代表内定

イギリスで開かれているパラ競泳の世界選手権は男子100メートル平泳ぎ、知的障害のクラスで、東京パラリンピック金メダリストの山口尚秀選手が1分3秒71の大会新記録で金メダルを獲得して、大会3連覇を果たしました。今大会、日本勢初の金メダルで、競泳としては初のパリパラリンピック代表内定となりました。

イギリスのマンチェスターで開かれているパラ競泳の世界選手権は大会3日目の2日、男子100メートル平泳ぎ、知的障害のクラスの決勝などが行われました。

決勝はこの種目の東京パラリンピック金メダリストの山口選手が、身長1メートル87センチの体格を生かしたダイナミックな泳ぎで前半を2位で折り返しました。

後半、伸びのある泳ぎで前半トップのオーストラリアの選手を抜き、1分3秒71の大会新記録をマークして、金メダルを獲得し、大会3連覇を果たしました。

山口選手は今大会、日本勢初の金メダルで、競泳としては初のパリパラリンピック代表内定となりました。

また、男子100メートル平泳ぎ、視覚障害のクラスの決勝は、東京パラリンピックのこの種目の銀メダリスト、木村敬一選手が1分13秒51のタイムで銅メダルを獲得しました。

木村選手は今大会出場した3種目すべてでメダル獲得です。

このほか、
▽男子50メートルバタフライ、運動機能障害のクラスは、この種目を得意とする19歳の田中映伍選手が34秒68で5位、17歳の日向楓選手が35秒55で6位でした。

▽女子100メートル平泳ぎの知的障害のクラスは、16歳の木下あいら選手が1分19秒74で5位、22歳の芹澤美希香選手が1分20秒32で6位でした。

▽パリパラリンピックでは実施されない種目の女子100メートル自由形、視覚障害のクラスは辻内彩野選手が4位でした。

山口尚秀「持っている力を十分発揮できた」

山口尚秀選手は大会新記録で3連覇を果たしましたが、みずからが持つ世界記録には0秒96及ばず、「ホテルの部屋が乾燥していて、のどがいがいがした状態で、いいパフォーマンスが出せるか不安だった。過去の自分を超えるというのはまたお預けだが、大会記録という結果で、自分の持っている力を十分発揮できたと思う」と振り返りました。

来年のパリパラリンピックの代表に内定したことについて、「パラリンピックが100年ぶりにパリで開催されるが、自分にとっては桁違いの数字で、そうした大会に出場できるのはとても光栄だと感じている。自分が有する能力を最大限発揮し、金メダル、そして世界記録をねらいたい」と意気込みを示しました。

東京大会で世界記録更新し金メダル獲得 100m平泳ぎで連覇目標

山口尚秀選手は愛媛県今治市出身の22歳。

保育園に通っているころに、知的障害をともなう自閉症と診断されました。

小学4年生の時から水泳を始め、2017年、本格的にパラ競泳に取り組み始めました。

1メートル87センチの長身と30センチの大きな足、そして、肩甲骨周りの柔軟性を生かしたダイナミックな泳ぎを武器に、初めて出場した2019年の世界選手権で男子100メートル平泳ぎの世界記録を更新し、金メダルを獲得しました。

さらに、初めてのパラリンピックとなった東京大会の100メートル平泳ぎで、自身が持つ世界記録を更新して金メダルを獲得。

ことし3月には、静岡県で行われた世界選手権の代表選考会で、みずからが持つ世界記録を0秒99更新する1分2秒75をマークして、今大会の代表に内定しました。

来年のパリパラリンピックは100メートル平泳ぎでの連覇を目標にしています。

木村敬一 3種目すべてでメダル「大きな変化をもっと出したい」

木村敬一選手は「バタフライに注力していたので、平泳ぎはあまり練習できていなかったが、しっかりとメダルにからむことができたし、去年のこの大会よりも僕自身の記録は上がったので、体力的なベースのところは去年よりも高いところで泳げていると確認できてよかった」と振り返りました。

出場した3種目すべてでメダルを獲得したことについて、「総括すると半分くらいの出来かなと思う。バタフライで自己ベストを出せば、パリパラリンピックで勝てるだろうという甘いところがあった。パリ大会はどの種目でねらうのかを考えつつ、バタフライの技術的な改善はしていきたい。どこまでたどり着けるかわからないが、大きな変化をもっと出していきたい」と話していました。

そして、ともに100メートル平泳ぎの決勝に出場し、銀メダルを獲得したウクライナのダニーロ・チュファロウ選手とミックスゾーンで健闘をたたえ合いました。

チュファロウ選手は2日、100メートルバタフライの決勝で木村選手を破って金メダルを獲得しています。

木村選手は「今、ウクライナ出身のチュファロウ選手は僕らには想像しきれないものを背負っていると思うし、そういう中で戦っている。彼の活躍はウクライナにとってすごく勇気を与えることだと思う。だからこそ、われわれは同じスタートラインに立って、レースを戦うものとして全力で戦わないといけないし、世界最高峰の舞台を盛り上げる義務があると思う。きょうは負けたが、いつでも全力でぶつかっていく気持ちや彼らへのリスペクトを忘れてはいけない」と話しました。

「よき友 よきライバル」田中映伍と日向楓

男子50メートルバタフライ運動機能障害のクラスは、19歳の田中映伍選手が17歳の日向楓選手とのライバル対決を制しました。

子どもの頃から刺激を与え合い、「よき友であり、よきライバル」と認め合う2人。

2人で挑む初めての世界選手権の開幕前夜は「気合いを入れよう」と、ともに頭を丸め、大会初日を迎えました。

すると、ライバルをリードしたのは田中選手でした。

男子50メートル自由形の予選で日向選手の持つ日本記録を更新し、33秒80をマーク。

決勝は8位でしたが、一方で日向選手は予選敗退。

16歳で東京パラリンピックに初出場するなど、これまで日向選手が常にリードし、その背中を追い続けてきた1学年上の田中選手にとって大きな一歩となりました。

大会3日目に臨んだのは互いの得意種目、50メートルバタフライ。

決勝は優勝したブラジルの選手や2位と3位に入った強豪、中国の選手に3秒以上離され、田中選手が5位、日向選手は6位の結果となりました。

レースのあと、日向選手は「出し切ろうと思っていたが、前半からスピードを出すことができなかった。予選よりもかなり遅いタイムで終わり、悔しい気持ちだ」と話しました。

そして、「今回は映伍くんのほうが努力していたということ。もう負けられない」と語り、目標だった自身の持つ日本記録更新に届かなかった結果を厳しい表情で振り返りました。

一方、田中選手は「持ち味のスピードは出せたと思うが、途中からコースロープ寄りになってしまった。まっすぐいけていれば、もう少しよい結果になったと思う」と悔しさをにじませました。

そして、「日向選手に勝つことはできたが、世界で勝つためにはもっと2人で練習しないといけない」と語りました。

しのぎを削ってきたライバルと臨んだ大舞台で世界の高い壁を痛感した2人。

世界選手権の前、2人にパリパラリンピックへの思いを尋ねると、「ワンツーフィニッシュで、僕がもちろん1位」と、ともに同じ目標を語った田中選手と日向選手はこの経験を糧に、さらなる成長を遂げる覚悟です。

辻内彩野「タイムに悔しさ残る」

辻内彩野選手は決勝の1分0秒34のタイムについて、「1分を切りたかったので悔しさが残る。パリパラリンピックでは実施されない種目だが、ほかの国のレベルが上がっていると実感した」と振り返りました。

そのうえで、大会5日目の50メートル自由形に向けて、「遅くても27秒台を出していかないといけない」と話しました。