米トランプ前大統領起訴 “虚偽の主張 議会乱入につながった”

アメリカのトランプ前大統領はおととし、連邦議会に支持者らが乱入した事件をめぐり大統領選挙の結果を覆そうとしたとして起訴されました。事件を捜査してきた特別検察官はトランプ氏の虚偽の主張が議会への乱入につながったとして、「民主主義に対する前代未聞の攻撃だ」と指摘しています。

アメリカではおととし1月に連邦議会議事堂にトランプ氏の支持者らが乱入した事件をめぐり、司法省が特別検察官を任命してトランプ氏の関与について捜査を続けてきました。

こうした中、首都ワシントンの連邦大陪審は1日、トランプ氏を3年前に行われた大統領選挙の結果を覆そうとしたとして起訴しました。

起訴状によりますと、トランプ氏は事実でないと知りながら「選挙で不正があった」などと主張し、選挙結果を確定する手続きを故意に妨げたとして、弁護士などと共謀して国家を欺こうとした罪などに問われています。

記者会見を行ったスミス特別検察官は議会への乱入事件について「アメリカの民主主義に対する前代未聞の攻撃でうそによってあおられたものだ」と述べ、トランプ氏の虚偽の主張が事件につながったと指摘しました。

一方、来年の大統領選挙に向けて立候補を表明しているトランプ氏はSNSで「なぜ2年半前にこのばかげた事件について起訴しなかったのか。それは選挙戦のさなかに起訴したかったからだ」として、選挙妨害だと反発しています。

トランプ氏は今月3日に裁判所に出廷することを求められています。

トランプ氏は、これまで機密文書の取り扱いをめぐる事件や、不倫の口止め料をめぐる事件でも起訴されていますが、今回の起訴は選挙という民主主義の根幹を揺るがした責任を問われているとして、波紋が一層広がっています。

議会乱入事件とは

この事件は、おととし1月、前の年に行われたアメリカ大統領選挙の結果に不満を持つトランプ前大統領の支持者らが連邦議会議事堂に乱入したもので、警察官を含む5人が死亡しました。

大統領選挙ではバイデン氏の当選が確実となっていましたが、トランプ氏は選挙に不正があったとして敗北を認めていませんでした。

事件があった日、議会では選挙の結果を確定する上下両院の合同会議が行われていて、トランプ氏は乱入事件の直前に開いた集会で支持者に対し、議会に向かうよう呼びかけていました。

この事件では1000人以上が訴追され、このうち、平和的な権力の移行を暴力で妨害しようとしたとして極右団体の創設者が禁錮18年の判決を受けています。

また、トランプ氏に対しては事件の翌月、支持者らによる騒乱をあおったなどとして責任を追及する弾劾裁判が議会上院で開かれましたが、トランプ氏がすでに大統領を退任していたことなどを理由に陪審員役の上院議員のうち野党・共和党の多くの議員が有罪を支持せず、無罪の評決が下されました。

一方で事件の背景や当時の状況を調査するため、議会下院には特別委員会が設けられ、およそ1年半にわたって関係者らへの聞き取りなど詳細な調査を行いました。

委員会はトランプ氏が大統領選挙の結果を覆そうとさまざまな試みをし、事件への直接の責任があるとする最終報告書を去年12月にまとめ、司法省に対し「反乱の扇動」の容疑などで訴追すべきだと勧告していました。

トランプ氏 相次いで起訴

アメリカのトランプ前大統領は、ことしに入ってから相次いで起訴されています。

トランプ氏は3月、2016年の大統領選挙の前に不倫の口止め料をめぐってビジネスに関する記録を改ざんしたとしてニューヨーク州の大陪審に起訴されました。

さらに6月、トランプ氏が大統領を退任後、アメリカや外国の核兵器や軍の能力に関する情報など、最高機密を含む文書を不正に自宅で保管していたとしてフロリダ州の連邦大陪審に起訴されました。

アメリカの大統領経験者が起訴されるのは史上初めてですが、トランプ氏は「起訴に根拠はなく、バイデン政権による権力の乱用だ」などと批判し、いずれの事件でも無罪を主張し全面的に争う姿勢を示しています。

このほか、トランプ氏に対しては3年前の大統領選挙で敗れた南部ジョージア州の結果を覆すよう、州当局に圧力をかけた疑いでも州の検察が捜査を続けています。

トランプ氏の今後の裁判

トランプ氏は来年秋の大統領選挙への立候補を表明していますが、今後は選挙戦と並行して裁判に臨む見通しです。

このうち、
▽不倫の口止め料をめぐり、ビジネスに関する記録を改ざんしたとされる事件については来年3月に、
▽機密文書をめぐる事件については来年5月に、それぞれ初公判が開かれることになっています。

大統領選挙は来年1月半ばから共和党の候補者選びが始まる予定で、今回、起訴されたものを含め、裁判の行方が選挙戦にどのような影響を与えるのか注目されています。

専門家「起訴が予備選挙に影響与えるとは予測できず」

アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所の上級研究員で、アメリカ政治に詳しいガルストン氏はNHKに対し「トランプ氏は、すでにほかにも起訴されているが『政府がトランプ氏を迫害している。彼は被害者だ』という筋書きが強まり、共和党内では支持が高まった。今回の起訴が共和党の予備選挙に必ずしも大きな影響を与えるとは予測できない」と述べ、共和党内で大統領候補としてトランプ氏が最も多くの支持を集める状況に大きな影響はないという見方を示しました。

また、民主党候補と争う来年11月の本選挙への影響について、以前であればマイナスになる事案だとする一方「トランプ氏は、ほかとは異なるルールで行動し成功させることができるようだ」と述べて影響を見通すことは難しいという認識を示しました。

一方、ガルストン氏は、バイデン大統領の再選に向けた戦略に与える影響について「トランプ氏が起訴されたことを攻撃して仮に裁判で無罪となれば、さらに悪い結果をまねく。バイデン大統領はリスクをとることはないと思う」と述べて、バイデン大統領は今回の起訴をトランプ氏への攻撃材料にしないという見方を示しました。