タクシー運賃 全国で相次ぐ値上げ 「従うしかない、でも…」

タクシー運賃の値上げが全国で相次いでいます。

ことしに入ってから全国を運賃ごとに101に分けた地域のうち39の地域で値上げが実施され、今後ほかの地域でも続く見通しであることことがわかりました。

背景にあるのは…。

8月1日から3地域で値上げ 

8月1日から、福岡、山口、鹿児島の3つの県で値上げが行われました。

このうち、福岡県では福岡市とその周辺の合わせて15の市や町で、95の事業者が新たな運賃を設定しました。

この地域でタクシー運賃が値上げされるのは、2年7か月ぶりです。

このうち、ほとんどの事業者が採用している初乗りの距離を短縮した運賃を設定できる制度では、約1キロまでの初乗りがこれまでの570円から670円になりました。

初乗りは100円の値上げ

この制度での距離に応じた加算額も、これまでの「221メートルごとに60円」から、「268メートルごとに80円」に見直されました。

また、普通車のタクシーの初乗りの上限は、1.6キロまでで「750円」だったのが「830円」に値上げされました。

福岡市内のタクシー会社では1日午前、車両の窓の初乗り運賃の表示を670円に貼り直したり、タクシーメーターの設定を変更したりする作業などが行われていました。

「タクシーは絶対必要だけど…」

主な移動手段にタクシーを利用せざるをえない人にとって、値上げの影響は深刻です。

福岡市東区に住む大鶴節子さん(80)は、おととし夫が運転免許証を返納し、車も手放しました。

坂の多い高台にある自宅から最寄りのバス停までは徒歩で約20分かかります。

足が悪く、痛みで歩くのが難しいこともある大鶴さんは、通院や買い物などの際にタクシーを利用しています。

病院までは往復で3500円。月10回ほど通院し、タクシー代が4万円ほどになる月もあります。市から年間1万2000円の補助があるものの、値上げの影響は小さくありません。

大鶴さん
「タクシーは絶対に必要なので、値上がりしても従うしかありませんが、どうにかならないかなと思っています。さまざまなものが値上がりして生活は厳しいです。高齢者には住みにくい世の中になったなと思います」

福岡市のJR博多駅のタクシー乗り場でも、受け止めを聞きました。

37歳男性
「きのうに比べて運賃が高くなったと感じました。初乗り670円はちょっと高いですね」

70代夫婦
「値上げは知らなかったです。暑いときによく乗っています。何もかも値上げで嫌な気持ちです」

78歳男性
「自分で運転するのはできるだけ控えようと思って、タクシーを利用するようにしています。今の経済状況なら値上げはしかたないと思います」

運賃値上げは全国で

こうした値上げは、全国で相次いでいます。

国土交通省によりますと、ことしに入ってから先月までの7か月間では、全国を運賃ごとに101に分けた地域のうち39か所で値上げが行われ、全国の都道府県のうち、一部地域のみの値上げも含めて22の道府県で値上げが行われています。

また今月から来月にかけて、北海道の函館市や北見市などのほか、沖縄県の離島地区、長崎市などで値上げが予定されているということです。

このほか、各地のタクシー事業者からの運賃改定の申請を受けて地方の運輸局で値上げに向けた審査が行われている地域は36か所にのぼり、現在、値上げが行われていない地域でも今後行われる可能性があります。

「みなさまには申し訳ない」

値上げの背景にあるのは深刻な人手不足です。

約120台を保有する鹿児島市のタクシー会社です。

このタクシー会社では、高齢化に加えてコロナ禍で退職者が相次ぎ、4年前には140人いた乗務員がことし6月時点で99人に減り、ドライバーを確保するためにも待遇の改善が急務になっているということです。

普通車の初乗り運賃が640円から700円に

観光需要の回復などで人の流れは戻りつつありますが、乗務員の不足により車両の6割ほどしか稼働できず、売り上げはコロナ禍前の8割ほどにとどまっているということです。

このほか燃料価格の高騰もあり、厳しい経営が続いているということです。

鹿児島第一交通 下之角洋社長
「みなさまには申し訳ないが値上げさせてもらわないと経営が厳しかった。若い方がドライバーとして考えてもらえるような待遇にすることが一番で、今回の改定で思い切った賃金体系にできると思う」

運転手不足は全国でも

運転手の数は全国でもコロナ禍で大きく減少しています。

全国ハイヤー・タクシー連合会が全国で運転者証を交付された件数をまとめたところ、ことし6月末の時点で23万2900件あまりでした。

コロナ禍前の2019年3月末の29万1500件あまりと比べて、2割以上、少なくなっています。

異例の対策で乗り切れるか

こうしたなか、徳島県小松島市はことし、新たな対策として、市内で営業できるタクシー会社を1社から4社に増やす異例の措置を始めました。

タクシー会社は過度な競争などを防ぐため、営業できる区域が決められています。営業区域外で客を乗せて降ろすことはできません。

しかし、運転手が減り市民にも影響が出始めたため、市などでつくる協議会は、隣の徳島市などの区域の3社も営業できるよう国に要請し、四国で初めて区域外の会社の営業が認められました。

小松島市 市民環境課 岡崎万寿美課長補佐
「今後の取り組みとしては1年間、何もなければ、次の年も継続して、試験運行をしていく予定です。市民サービスが低下しないような取り組みを行政として行っていきます」

協議会は利用状況を検証し、来年4月以降も継続するか、検討することにしています。

専門家「利用者と担い手 双方に魅力を」

各地で相次ぐタクシーの値上げについて、公共交通に詳しい名古屋大学大学院の加藤博和教授は次のように指摘しています。

名古屋大学大学院 加藤博和教授

「バスも鉄道もそうだがコロナ禍の影響が大きく、タクシーの場合は収益が一番多かった深夜帯で稼げなくなって運転手が減った。

その後、ほかの業種に移った人も戻ってこないので運転手が少なく、都市も地方もタクシーが余っている。運賃を上げないと運転手の給料を上げられず、なり手も増えてこないので、値上げはやむをえない」

そのうえで、今後に向けては。

「今は運賃を上げても利用をやめない客も多いので値上げができたが、今より安く多くの人に利用してもらうことで運行の効率を上げ、結果として運転手の給料が増えるといった、利用者と担い手の双方にとってタクシーをもっと魅力的にするにはどうしたらいいかを考えることが大事だ」