柔軟剤 香りで体調不良の相談増加なぜ?マイクロカプセルが…

「僕もみんなとボール遊びしたいけどできなくて悲しい。いつ、かゆくなるのか不安で怖いです」
柔軟剤などの強い香りを感じると、かゆみやじんましんが出てしまうという小学生。
いまこの”香り”によって頭痛やけん怠感などの体調不良を訴える人が増えています。
専門家が柔軟剤の成分を詳しく分析すると、「マイクロカプセル」といわれる化学物質によってできている微粒子が検出され、体調不良との関係を調べる研究が続いています。
身近な日用品をめぐって、いったい何が起きているのでしょうか。
(おはよう日本 ディレクター 福田みなみ)
柔軟剤などの強い香りを感じると、かゆみやじんましんが出てしまうという小学生。
いまこの”香り”によって頭痛やけん怠感などの体調不良を訴える人が増えています。
専門家が柔軟剤の成分を詳しく分析すると、「マイクロカプセル」といわれる化学物質によってできている微粒子が検出され、体調不良との関係を調べる研究が続いています。
身近な日用品をめぐって、いったい何が起きているのでしょうか。
(おはよう日本 ディレクター 福田みなみ)
かゆい… 柔軟剤の香りでじんましんが
小学生のゆうきくん(仮名)。
柔軟剤などの香りによる体調不良に悩まされています。
柔軟剤などの香りによる体調不良に悩まされています。

学校の体育館や音楽室などで他の児童の香りを感じると、じんましんが出たり、足の痛みが生じてしまいます。
そのため、体育館で授業を受けるときは見学するなど、学校の活動に制限が多いといいます。
そのため、体育館で授業を受けるときは見学するなど、学校の活動に制限が多いといいます。
ゆうきくん(仮名)
「じんましんとか、ぶつぶつが出てしまって、足が痛くなってしまい悲しい。特に体育館ではにおいがぎゅうぎゅうになって、いっぱい吸ってしまうので、苦しい思いをするときがいっぱいある」
「じんましんとか、ぶつぶつが出てしまって、足が痛くなってしまい悲しい。特に体育館ではにおいがぎゅうぎゅうになって、いっぱい吸ってしまうので、苦しい思いをするときがいっぱいある」
ゆうきくんは、もともと食物アレルギーがあり、母親は食事に気を使ってきたといいます。
しかし、原因となる食べ物を除いた食事を続けていたにもかかわらず、症状がなかなか治まらず悩んできました。
そんなとき、医療機関でじんましんの原因の一つが、洗濯洗剤に使用されている香料などを含む化学物質ではないかと指摘されました。
しかし、原因となる食べ物を除いた食事を続けていたにもかかわらず、症状がなかなか治まらず悩んできました。
そんなとき、医療機関でじんましんの原因の一つが、洗濯洗剤に使用されている香料などを含む化学物質ではないかと指摘されました。

ゆうきくん(仮名)の母親
「無添加のせっけんだったのですが、よく見たら香料が入っていて、これもだめなんだと驚きました。使っている洗剤が原因ということは全く無知でした」
「無添加のせっけんだったのですが、よく見たら香料が入っていて、これもだめなんだと驚きました。使っている洗剤が原因ということは全く無知でした」
柔軟剤の香り 医療現場には相談が増加
ゆうきくんを診断した、吹角隆之医師です。
大阪市内でアレルギー科のクリニックの院長を務めています。
アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、化学物質過敏症などの患者を30年以上にわたって診てきました。
大阪市内でアレルギー科のクリニックの院長を務めています。
アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、化学物質過敏症などの患者を30年以上にわたって診てきました。

アレルギー科のクリニック 吹角隆之院長
「ここ3年ぐらい特に香りが長持ちするとか、香りの強さを強調する製品が売り出されるようになってから相談が増えています。学校や職場、隣近所で柔軟剤などの香りを感じて、頭が痛くなり、日常生活が困難になってしまうという患者さんが多くいます」
「ここ3年ぐらい特に香りが長持ちするとか、香りの強さを強調する製品が売り出されるようになってから相談が増えています。学校や職場、隣近所で柔軟剤などの香りを感じて、頭が痛くなり、日常生活が困難になってしまうという患者さんが多くいます」
症状は、頭痛、けん怠感、吐き気、動悸(どうき)など多岐にわたり、個人差も大きいのが特徴です。
また、症状が重症化すると、「化学物質過敏症」という病気を発症してしまう人もいるといいます。
「化学物質過敏症」は、たばこの煙や殺虫剤、印刷物のインクなど、あらゆる化学物質に反応してしまうという深刻な病気です。
吹角医師は、香りを感知する嗅覚は人間にとって生命を維持する上で重要な役割を果たしていて、相談が増えていることに危機感を抱いています。
また、症状が重症化すると、「化学物質過敏症」という病気を発症してしまう人もいるといいます。
「化学物質過敏症」は、たばこの煙や殺虫剤、印刷物のインクなど、あらゆる化学物質に反応してしまうという深刻な病気です。
吹角医師は、香りを感知する嗅覚は人間にとって生命を維持する上で重要な役割を果たしていて、相談が増えていることに危機感を抱いています。
吹角隆之院長
「嗅覚は原始的な感覚で、身を守るアラーム的な役割があると思います。ガスの臭いを感じたらその場から離れる、食べ物から腐った臭いがしたら食べてはいけないなどです。その嗅覚で大量に人工的な香りを感じ続けているのが現代社会です。相談に来る患者さんは、人間の生命維持装置のアラームが鳴っているのではないかと考えています」
「嗅覚は原始的な感覚で、身を守るアラーム的な役割があると思います。ガスの臭いを感じたらその場から離れる、食べ物から腐った臭いがしたら食べてはいけないなどです。その嗅覚で大量に人工的な香りを感じ続けているのが現代社会です。相談に来る患者さんは、人間の生命維持装置のアラームが鳴っているのではないかと考えています」
5つの省庁が啓発ポスター制作 “困っている人に理解を”
消費者庁が運営する「消費者ホットライン」などには2022年度、柔軟剤などの香りで頭痛や吐き気がしたなどの相談がおよそ200件寄せられました。
この数は、前の年の2倍に増加しています。
この数は、前の年の2倍に増加しています。

こうした声を受けて、消費者庁や厚生労働省など5つの省庁は「その香り 困っている人もいます」と題した啓発ポスターを作成し、困っている人がいることに理解を求めています。
柔軟剤に「マイクロカプセル」 相談増との関係は?
なぜ、柔軟剤などの香りによる相談が増えているのでしょうか。
その原因を探る研究が進んでいます。
大気中に漂う微細な化学物質について研究している早稲田大学創造理工学部の大河内博教授です。
大河内教授は、柔軟剤を使用した洗濯物を干し、室内の化学物質について分析する実験を行いました。
その原因を探る研究が進んでいます。
大気中に漂う微細な化学物質について研究している早稲田大学創造理工学部の大河内博教授です。
大河内教授は、柔軟剤を使用した洗濯物を干し、室内の化学物質について分析する実験を行いました。

その結果、「マイクロカプセル」といわれる化学物質によってできている微粒子が、洗濯物や床、壁などから検出されました。
「マイクロカプセル」は、数マイクロという微細な大きさで、外側の膜にはプラスチックなどが使われ、中には香料が閉じ込められています。
「マイクロカプセル」は、数マイクロという微細な大きさで、外側の膜にはプラスチックなどが使われ、中には香料が閉じ込められています。

服を触るなど、外部からの刺激で膜が壊れることによって香りが放たれるという仕組みです。

早稲田大学 創造理工学部 大河内博教授
「本来、柔軟剤の香り成分は揮発しやすいので、すぐに消えてしまいます。その香りを長持ちさせるために開発された技術がマイクロカプセルです。マイクロカプセルが壊れることによって少しずつ香りが出てくるという効果で、香りを長持ちさせているわけです」
「本来、柔軟剤の香り成分は揮発しやすいので、すぐに消えてしまいます。その香りを長持ちさせるために開発された技術がマイクロカプセルです。マイクロカプセルが壊れることによって少しずつ香りが出てくるという効果で、香りを長持ちさせているわけです」
また、柔軟剤の一部の製品を詳しく調べたところ、メーカーが指示する適正な使用量で洗濯した場合、およそ42万個のマイクロカプセルが洗濯物に付着していることが分かりました。(0.8キロの洗濯物に対し、柔軟剤5.4ミリリットル使用)
大河内教授は、柔軟剤に使われているこうした技術と体調不良を訴える声との間に何か関係があるのではないかと考えています。
そのうえで、柔軟剤の中にどのような香料成分が入っているのか明らかにする分析を続けています。
大河内教授は、柔軟剤に使われているこうした技術と体調不良を訴える声との間に何か関係があるのではないかと考えています。
そのうえで、柔軟剤の中にどのような香料成分が入っているのか明らかにする分析を続けています。

早稲田大学 創造理工学部 大河内博教授
「マイクロカプセルが壊れた時には、さらに小さい粒子が大量に放たれます。マイクロカプセルやその中に入っている粒子が肺の奥や鼻こうに入り、どんな影響を及ぼすのか、よく分かっていません。今は柔軟剤に入っている香料成分の全体像をできるだけ明らかにしようと研究を進めています」
「マイクロカプセルが壊れた時には、さらに小さい粒子が大量に放たれます。マイクロカプセルやその中に入っている粒子が肺の奥や鼻こうに入り、どんな影響を及ぼすのか、よく分かっていません。今は柔軟剤に入っている香料成分の全体像をできるだけ明らかにしようと研究を進めています」
安全性を確認してほしい
消費者団体である日本消費者連盟など、5つの団体が合同で作る「香害をなくす連絡会」は、柔軟剤などの香りによる健康被害の問題解決に取り組むべきなどとして、6月、厚生労働省に対して要望書を提出。
マイクロカプセルなどの技術が、人体に与える問題点の研究などを求めました。
団体の質問と厚生労働省の回答(一部抜粋)は次のとおりです。
マイクロカプセルなどの技術が、人体に与える問題点の研究などを求めました。
団体の質問と厚生労働省の回答(一部抜粋)は次のとおりです。
(団体)
Q.家庭用品中のマイクロカプセル類のように、化学物質を繰り返し放出する徐放技術が、人体に与える問題点の研究はなされていますか。
(厚生労働省)
A.現時点では、家庭用品で使用された徐放技術が原因で、健康被害が生じるとの科学的知見は承知していません。
Q.家庭用品中のマイクロカプセル類のように、化学物質を繰り返し放出する徐放技術が、人体に与える問題点の研究はなされていますか。
(厚生労働省)
A.現時点では、家庭用品で使用された徐放技術が原因で、健康被害が生じるとの科学的知見は承知していません。
(団体)
Q.マイクロカプセルなど微粒子を発生させる家庭用品の使用に関して、注意喚起をしてください。
(厚生労働省)
A.ご指摘の趣旨は家庭用品に含まれる化学物質自体の性質が原因ではなく、微粒子という性状が原因であるとの指摘と考えられます。家庭用品規制法では、具体的な化学物質の名称を明示して規制してきています。このため、具体的な化学物質の名称ではなく性状を示して家庭用品規制法で規制することは困難です。
Q.マイクロカプセルなど微粒子を発生させる家庭用品の使用に関して、注意喚起をしてください。
(厚生労働省)
A.ご指摘の趣旨は家庭用品に含まれる化学物質自体の性質が原因ではなく、微粒子という性状が原因であるとの指摘と考えられます。家庭用品規制法では、具体的な化学物質の名称を明示して規制してきています。このため、具体的な化学物質の名称ではなく性状を示して家庭用品規制法で規制することは困難です。

「香害をなくす連絡会」杉浦陽子さん
「国民や市民の健康に責任を持つ省庁であれば、きちんと厚生労働省が調べてほしい。安全性が確保できたら販売するという順序を取ってほしい」
「国民や市民の健康に責任を持つ省庁であれば、きちんと厚生労働省が調べてほしい。安全性が確保できたら販売するという順序を取ってほしい」
メーカーの受け止めは?
NHKでは今回、柔軟剤を販売している大手メーカー各社にこの問題について見解を聞きました。

2つのメーカーは、製品の香りで体調を崩したという声が会社に寄せられていると回答しています。
そして、製品や原料については「安全性」や「安全」を確認して販売していると3つのメーカーは答えています。
そして、製品や原料については「安全性」や「安全」を確認して販売していると3つのメーカーは答えています。

経済産業省生産動態統計によると、日本国内の柔軟剤全体の販売金額は、2003年は575億円で、2022年は1210億円と倍増しています。
多くの売り上げを出す製品を製造するメーカーとして、消費者の不安に向き合い、説明する姿勢を大切にしてほしいと思います。
また、厚生労働省は、柔軟剤の香りをめぐる問題について、NHKの取材に以下のように回答しています。
多くの売り上げを出す製品を製造するメーカーとして、消費者の不安に向き合い、説明する姿勢を大切にしてほしいと思います。
また、厚生労働省は、柔軟剤の香りをめぐる問題について、NHKの取材に以下のように回答しています。

厚生労働省の回答
香りに関する相談が寄せられていることは承知している。一方で、柔軟仕上げ剤等のかおりによる気持ち悪さや体調不良といった症状について、現時点では、どのように微量な化学物質が関与しているのか、どのような体内の変化が症状を引き起こすのかなど、メカニズムに未解明な部分が多い。厚生労働科学研究において、微量な化学物質等により、頭痛や吐き気等の多様な症状をきたす病態の解明に関する研究が進められている。厚生労働省としては、引き続き、こうした研究の支援等も通じ、科学的な知見の収集等に取り組んでいくことが重要と考えている。
香りに関する相談が寄せられていることは承知している。一方で、柔軟仕上げ剤等のかおりによる気持ち悪さや体調不良といった症状について、現時点では、どのように微量な化学物質が関与しているのか、どのような体内の変化が症状を引き起こすのかなど、メカニズムに未解明な部分が多い。厚生労働科学研究において、微量な化学物質等により、頭痛や吐き気等の多様な症状をきたす病態の解明に関する研究が進められている。厚生労働省としては、引き続き、こうした研究の支援等も通じ、科学的な知見の収集等に取り組んでいくことが重要と考えている。
このつらさ分かってほしい… 当事者の思い
柔軟剤などの香りによる体調不良に悩まされているゆうきくん(仮名)。
いま、ゆうきくんが通っている小学校では、教室の換気の徹底や空気清浄機を設置するなどの対応を進めているといいます。
また、クラスの中には柔軟剤を使わないなど配慮をしてくれる同級生もいます。
いま、ゆうきくんが通っている小学校では、教室の換気の徹底や空気清浄機を設置するなどの対応を進めているといいます。
また、クラスの中には柔軟剤を使わないなど配慮をしてくれる同級生もいます。
ゆうきくん(仮名)の母親
「学校の対応や同級生の配慮もあり、保育園の時に比べて小学校に通える日は増えてきました。ゆうき(仮名)が元気でいてくれるようにと周囲の方が言ってくれるのがありがたいです」
「学校の対応や同級生の配慮もあり、保育園の時に比べて小学校に通える日は増えてきました。ゆうき(仮名)が元気でいてくれるようにと周囲の方が言ってくれるのがありがたいです」

今回、取材で話を聞かせてもらったのは、多くの子どもたちが遊ぶ公園でした。
その様子を見ながらゆうきくんが語ったことばに胸が締めつけられました。
その様子を見ながらゆうきくんが語ったことばに胸が締めつけられました。
ゆうきくん(仮名)
「つらい思いをしている人がいることをみんなに知ってもらえたらいいな。知ってくれたらめちゃくちゃうれしいです」
「つらい思いをしている人がいることをみんなに知ってもらえたらいいな。知ってくれたらめちゃくちゃうれしいです」

おはよう日本 ディレクター
福田みなみ
2023年入局
今回がNHKディレクターとして初の企画制作
福田みなみ
2023年入局
今回がNHKディレクターとして初の企画制作