中学「英語」 話す力や書く力に課題 全国学力テスト 結果公表

ことしの「全国学力テスト」の結果が公表され、4年ぶりに実施された中学校の「英語」ではスピーキングの平均正答率が12%にとどまるなど、英語で話す力に課題があることがわかりました。専門家は「ICTの活用を進めるなど、指導方法の改善が必要だ」としています。

小学6年生と中学3年生およそ190万人が参加したことしの「全国学力テスト」は、「国語」「算数・数学」に加え、中学校では4年ぶりに「英語」が実施され、このうちスピーキングはタブレット端末などを使って出題から解答まで初めてオンラインで行われました。

31日、その結果が公表され、平均正答率は小学校の国語が67.4%、算数が62.7%、中学校の国語が70.1%、数学が51.4%でした。

中学校の英語の「聞く、読む、書く」の問題は正答率は46.1%、「話す」、いわゆるスピーキングは12.4%で、自分の考えなどを英語で話す力に課題がみられました。

国は2020年度から小学3年生と4年生で英語を学ぶ「外国語活動」を必修とし、小学5年生以上は「教科」として通知表で評価されるようにするなど英語力の強化に力を入れてきました。

音声や動画などが見られる英語のデジタル教科書もすべての小中学校を対象に提供しています。

会見で文部科学省の担当者は「問題の設定が難しかったこともあるが、話す力と書く力に課題がみられたことは重要だと受け止め、取り組みを強化したい」と話していました。

中学英語のスピーキング 平均正答率4.2%の問題も

今回の全国学力テストでは中学校の英語のスピーキング問題があわせて5問出され、中には平均正答率が4.2%となった問題もありました。

はじめに動物園で留学生を案内する場面を想定し、相手の英語を聞き取った上で解答時間内に英語で答えたり質問したりする問題が4問出題されました。

このうち、看板に日本語で書かれたゾウの誕生日を英語に訳す問題の正答率は19%、園内でどこを回るかなど次の予定を伝える問題の正答率は9.4%、カンガルーが食べるものについて英語で質問する問題の正答率は13.4%、図鑑、クッキー、Tシャツの中から4歳の男の子へのお土産としてふさわしいものを選び、その理由を伝える問題の正答率は16.1%でした。

最後に環境問題についてのプレゼンテーションを聞き、それに対する自分の考えと理由を伝える問題が出題されました。

具体的にはニュージーランドの留学生が「日本ではプラスチック製の袋を店で売るのをやめるべきだ」と発表したことに対して、自分の意見や理由を英語で伝えるという問題で、正答率は4.2%とすべての設問の中で、最も低くなりました。

英語教育に詳しい専門家 “英語で伝える経験の積み重ねが必要”

英語教育に詳しい信州大学の酒井英樹教授は、子どもたちが自分の考えを簡単な英語で伝える経験を積み重ねることが必要だと指摘しています。

酒井教授は、英語のスピーキング問題の正答率が低かったことについて、「単なる教科書の音読のような指導にとどまるのではなく、生徒自身が自分の考えを英語で伝える活動になっているのかという点が課題となっている。これからは、英語のコミュニケーション能力を高めることがますます求められるようになるだろう」と指摘しています。

そのうえで「学校の授業などで自分の意見を持ち、簡単な英語で伝える経験を積み重ねることが必要になってくる。そのためにはICTの活用も重要で、音声で英語に触れることができ、みずからの学習を振り返ることができる。ICTをさらに活用、促進するように国が環境の整備や指導内容の改善などを進めるべきだ」と訴えています。

子どもたちに対しては「学力テストで具体的に示されたような、英語で何かを読んだり、意見交換したりする場面は、現実でも実際に起こりうるものだ。自分が将来、このような英語を使うことをイメージしながら学んでいってもらいたい」と話していました。

学力テストを受けた中学生「問題が難しかった」

今回の学力テストについて、英会話教室に通う中学3年生からは「問題が難しかった」とか「制限時間があり焦った」などといった声が聞かれました。

7月28日、東京・板橋区にある子ども向けの大手の英会話教室では、生徒たちが会話文が書かれたテキストをもとに掛け合いの練習をしたり、講師の質問に即興で答えたりするなどスピーキングの練習に取り組んでいました。

全国学力テストのスピーキングの問題5問のうち半分ほど解けたという中学3年生の生徒は、「大学入試かと思うくらい難しいと感じました。単語が思い浮かんでも整理したりどれを使おうか考えたりしていると、制限時間内に解くのは無理だと思いました」と話していました。

すべての問題に解答できたという生徒は「制限時間があるのですごく焦ってしまいました。特に意見を言うところでは瞬時に頭の中で文を組み立てなければならず、大変だと思いました。すらすら話せるよう、もっと練習したいと思います」と話していました。

取材した英会話教室のECCジュニアでは近年、小学校低学年や幼稚園など、早い段階から英会話を学ばせる傾向が目立っていて、入試などで英語の民間試験を活用する大学が増加傾向にあることや、東京都立高校の入試でスピーキングテストが行われたりしたことなどが背景にあるのではないかということです。

「対話型のAI」で英語のスピーキング力を伸ばす取り組み

最先端のAIを使って、英語のスピーキング力を伸ばそうという取り組みも始まっています。

早稲田大学発のベンチャー企業が開発したのは、英語学習を支援する「対話型のAI」です。

会社が公開している専用のサイトにアクセスするとアバターが画面に表示され、利用者の会話内容や目線、それに表情などから英語力を判断し、レベルに応じたやりとりができる点が特徴です。

「英語は中級程度」という大学院生が使ったところ、その日の朝ご飯の内容や夏休みの予定など身近な話題を題材に比較的答えやすい質問が多く出された一方、上級レベルの社員に対しては、「性格などが異なる人と簡単に友達になれるか」とか「都会と地方のどちらが好きか」など、より幅広いテーマについて複雑な質問も多くみられました。

対話の時間は1回につき20分程度で、終了後に文法や発音の正確さ、臨機応変なやりとりができているかなど6つの観点からアドバイスをもらえます。

ことし9月をめどに文部科学省の実証事業として千葉県成田市の県立高校の生徒およそ120人を対象に導入される予定で、家庭学習の際に活用してもらう方針だということです。

文部科学省は別のAIを使って千葉県以外の2つの自治体でも実証事業を行う予定で、これらの効果を検証した上で学校現場での導入のあり方を検討するとしています。

開発した企業、エキュメノポリスの松山洋一代表は「AIが相手だと恥ずかしさや恐怖心が軽くなり、何度も失敗することができてより早く上達できると思う。さまざまな形で思わぬ角度から質問されてどう答えたら良いか考えることを何度か繰り返すと反復しているうちに英語力が伸びることが期待される」と話していました。

そのうえで、「話す力を伸ばすためには訓練する時間が必要だが、現状、1人の先生がクラスの何十人の生徒に対して相手をしていくのはなかなか現実的ではない。時間や物理的な制限で先生が実践しきれていない部分については、AIが補う役割を果たしていけたらいいと思う」と話していました。