ロッテ 吉井監督 好調支えるマネジメントは?上原浩治が迫る

前半戦を終え、いよいよシーズンも佳境に入っていくプロ野球。

「戦力不足」「Bクラスが現実的」という前評判を覆し、パ・リーグで上位争いを続けているのが吉井理人 新監督率いるロッテです。チーム打率がリーグ4位、チーム防御率は5位、さらにホームラン数は最下位と決して抜きん出た数字ではない中、前半戦を2位で折り返しました。

この好調を支えているのが、大リーグでの経験を生かした吉井監督ならではのチームマネジメントです。「選手第一」の考えのもと、現場とコミュニケーションをとりながら臨機応変の選手起用で結果を残している吉井監督。サンデースポーツの解説を務める上原浩治さんが迫りました。
(各データは前半戦終了時点)

(取材構成:スポーツニュース部 記者 本間祥生/サンデースポーツ ディレクター 小玉直人)

初めての監督業“今までの監督に謝りたい!?”

上原浩治さん
「初めての監督ということで、引き受けた時の心境はいかがでしたか?」

ロッテ 吉井監督×上原浩治さん

ロッテ 吉井理人監督
「最初は断る理由がなかったので引き受けて、そのときはあまりピンと来なかったんですけど、やってみて『えらいこと引き受けてしまったな』と段々思うようになりました(笑)」

上原さん
「やってみたいという気持ちはあったんですか?」

吉井監督
「全然なかったです。自分には全体をまとめるマネジメントは向いてないと思ってたので。小学校入ってから学級委員もやったことないし、生徒会長も選ばれたことないし、野球部でもキャプテンも選ばれたことがなかったので」

上原さん
「実際やってみてどうですか?」

吉井監督
「難しいですね。今までの監督さんに謝って回りたいです(笑)」

監督業の難しさを冗談めかして明かした吉井監督。

しかし、いったん引き受けた後は、次々と独自のカラーを打ち出していきました。

中でも最も大事にしているのが、選手のコンディション管理だといいます。

春のキャンプでは全体での練習時間を大幅に短縮し、シーズン中も連戦中は試合前練習を自主練習とするなど、選手の体調管理にひときわ気を遣っています。

上原さん
「選手起用の中で気を付けているのは、どういうところですか?」

吉井監督
「コンディションが第一優先。健康が第一条件で、全力プレー、一球入魂があるというふうに思ってるので、まずそこを一番に考えてます。次に選手が一番活躍できるような環境をこっちが作るのが仕事だと思ってるので、次にはそれを考えてやってますね」

上原さん
「それは、やっぱりメジャーを経験したからっていうのも、多少はあるんですか?」

吉井監督
「もちろんそれは大きいですね。本当にメジャーの野手、練習しないですもんね(笑)。それで、あれだけプレーできるんだから。日本の人たちもできるはずだと思ってます」

登板間隔“固定せず”異例の先発運用

大リーグで通算5シーズン、先発にリリーフに160試合以上登板した吉井監督。その経験から、選手が力を発揮できる環境作りこそがチーム運営には欠かせないと考えています。

大リーグ メッツ時代の吉井監督(1999年)

好調を支える先発ピッチャー陣の奮闘の裏にも、この考えが反映されています。

それが1人1人のコンディションを重視し、登板間隔を固定しない起用方針です。

上原さん
「(チーム好調の)要因としてピッチャーのローテーションが固まりつつあるっていうのはありますか?」

吉井監督
「前半は、先発ピッチャーがすごく頑張って試合を本当に半分以上作ってくれたんで、それは大きかったかなと思いますね。前半はピッチャーで勝ったのかなというふうに思ってます」

上原さん
「その先発ピッチャーも、登板間隔が中6日、中7日、中8日とか、いろいろ空けて調整させてますが、その狙いというのは?」

吉井監督
「やっぱり先発ピッチャーも、登板間隔もあるんですけども、無駄なイニング投げていくと、結局最後へばっちゃって。去年のシーズン見るとやっぱり先発が誰かが抜けると、チームの勢いが止まってしまうんで。先発ピッチャーは最後までいい状態でキープして持ってきたいなっていうのは一番のねらいですね」

「序盤は抑えて後半に備えたい」と、5月までの先発(3イニング以上を投げた場合)の平均球数はおよそ91球。

疲れが貯まっているとみるとローテーションを飛ばすなど、体調第一の運用を続けています。

そこにはロッテで投手コーチを務めた3年間、さらに自身の大リーグでの経験も生かされていました。

上原さんには気になる点が…

ただ、かつて巨人のエースとして先発ローテーションを守り続けた上原さんには気になる点もあるようで…。

上原さん
「それで中6日、中7日と、登板がずれたりしたら先発ピッチャーってやりにくいっていう感覚が、僕はあったんですけども、そういうのは話し合って決めてるんですか?」

吉井監督
「いや、もう無視してます。自分が選手の時もそう思ったんですよ。ただ、ピッチングコーチになってみて、やっぱりいろんな選手見てると、中6(日が)きつい選手もいるんですよね」

上原さん
「ローテーションの中で?」

吉井監督
「はい。そこは一応、知ってるつもりなんで、この子は“中6(日)”何回続けたら1回ちょっと空けたほうがいいなとか、そういうの分かったうえでやってるので、選手も薄々気付いてるんじゃないかなと」

上原さん
「メジャーの経験も何か生かしてやってるっていうことはありますか?」

吉井監督
「ありますね。メジャーで中4日やってたんですけども、自分では『中4日できるやん』と思ったけども、中4日目がデーゲームだと、やっぱり成績悪かったんですよね。そういうの見たら、やっぱり回復の期間っていうのはすごく大事で、それは個人個人それぞれ違うんで、そこは見極めていかないとダメっていうのは、メジャーの自分の経験から思いましたね」

リリーフ陣起用のカギ握る“レバレッジ”とは?

さらにリリーフ陣の好調も大きいと言います。

前半戦のチームホールド数はリーグトップの「82」。

さらに1点差での勝利がこちらもリーグトップの「19」と、僅差のリードをリリーフ陣で守り抜き、しっかりと勝ちきる試合が目立ちます。

上原さん
「1点差の勝利がリーグトップ。接戦に強いというのは何か要因があるんですか?」

吉井監督
「これはたぶん、前任の井口監督のころから諦めない野球というのはずっと教え込まれてきたので、それが選手たちでようやくできるようになってきたのかなというふうに思ってます。それと本当、リリーバーがよく頑張ってくれてるのもあると思いますね」

僅差の勝利を支えるリリーフ陣。

ここでの起用にもさまざまなデータや指標を活用した吉井監督ならではの臨機応変なさい配が隠されていました。

吉井監督
「例えば左に強い右ピッチャーがいたとして、相手に左が多くて3、4、5(番に)、もし左が並んでたら、そこにぶつけるみたいな、そういうリリーフのつぎ込み方をしています」

上原さん
「相手の打順を見て決めるっていう感じですか?」

吉井監督
「相手の打順のひとかたまりを見て、こっからあなた、こっからあなた、みたいな。なので、ちょっと準備するのは大変なんですけども」

上原さん
「7回は誰、8回は誰、というわけじゃなくて、相手の打順の名前を見て決めるという感じですか?」

吉井監督
「そうですね。ゲームの中の流れがあるじゃないですか。“ここが一番大きい流れ”“ここをやっつけて沈めてしまえば勝てる”という時に、やっぱり一番いいピッチャーをというふうに」

試合の流れを見極めるために吉井監督が用いるのが近年大リーグでもよく使われている「レバレッジ指標」と呼ばれるデータです。

これは試合の各局面ごとの勝敗への重要度を数値化したもので、イニングやアウトカウント、ランナーの状況などを勘案し、その場面を抑えるか、打たれるかが勝利の確率にどれほどの変動を与えるかを算出します。

この数値が高ければ高いほど吉井監督の言う「ゲームの大きい流れ」となります。

この数値に加えて、相手バッターとの相性や打順の巡りなどを勘案してリリーフピッチャーを決めていると言います。

もちろん、リリーフでもコンディション第一の運用は変わりません。

ここまで3連投は一度もなく、週4日以上の登板も極力抑えていると言うことです。

上原さん
「特にこの選手がいたから助かったなっていう選手いますか?」

西村天裕 投手(=今オフに日本ハムから移籍)

吉井監督
「全員なんですけども、特に前半頑張ってくれたのは、よそから来た選手なんですけども、西村天裕(=今オフに日本ハムから移籍)と坂本光士郎(=昨季、ヤクルトから移籍)。この2人が新しく加わって、すごく頑張ってくれましたね」

坂本光士郎 投手(=昨季、ヤクルトから移籍)

上原さん
「新しい選手って、シーズン始まる前ってなかなか戦力としてどうなるか分からないっていうとこがあったと思うんですけども、そういう選手をどこから勝ちゲームに使おうとか、いいところで使おうと判断するんですか?」

吉井監督
「マウンドでの落ち着きですかね。たぶん上原さんも見て分かると思うんですけども、いいピッチャー、やっぱりマウンドでの立ち姿っていうんですかね」

上原さん
「堂々としてるって感じですよね?」

吉井監督
「そうですね。それが出てきたら、やっぱりこいつ勝ちパターンいけるかなというふうに判断してますけどね」

吉井流選手起用“肝はコミュニケーション術”

一方で、ピッチャーが投げるタイミングをつかみづらく、調整が難しいのが現在の起用方法の難点だという吉井監督。

小野晋吾投手コーチによりますと、試合前のミーティングで「この展開であればこのピッチャー」というように試合の流れをシミュレーションし、投げる可能性があるピッチャーに対しては小野コーチから状況も含めて伝えていると言います。

試合前練習でコミュニケーションを意識

さらに、選手の体調を把握し、みずからの考えを理解してもらうため、選手たちとの交流も欠かしません。

試合前の練習中にはハーフパンツ姿でグラウンドに現れ、投手野手関係なくみずから歩み寄り積極的に話しかける姿がよく見られます。

積極的に話しかける吉井監督

上原さん
「選手との会話っていうのは、結構あるんですか?」

吉井監督
「そうですね、積極的に。たぶん嫌だと思いますが話しかけてます」

上原さん
「でも、自分が現役だったら監督から声をかけられるってすごいうれしいと思うんですけど?」

吉井監督
「そうですね。自分たちも選手の時に、首脳陣が何考えてるか分からないでプレーするのがパフォーマンスに影響することがあるのは知ってたんで。だけど、なぜか日本の首脳陣って、戦術、戦略を選手に話したがらないですよね。そこはでも選手は何がしたらいいのかっていうのを分かったうえでやったほうがいいと思うので、そこは話はしてます」

1試合に2人の先発投手を投入する「ピギーバック」や、中継ぎ投手のみで投げきる「ブルペンデー」など、大リーグで使われる起用法も大胆に使いながら、疲労がたまらないようマネジメントしてきた吉井監督。

そのチーム運営は、吉井監督の豊富な経験と知識、そしてたゆまぬコミュニケーションから成り立っていました。

道半ばのチーム運営 “ピンチをチャンスに”

シーズンも残りおよそ60試合。

18年ぶりのリーグ優勝へチームをどう引っ張っていくのでしょうか。

前半終了時点のリーグ順位表

上原さん
「これから後半戦。どういった戦いをロッテはしていきますか?」

吉井監督
「今もそうなんですけども、こっちがミスしちゃうと、まだ盛り返す力がないので、しっかり守り勝つ。相手の隙を突いてちょっとずつ点とってそれを守り切るって野球が、今のマリーンズの戦い方かなと思っているので、そのためには自分のできることに集中してもらいたいなっていうふうに」

上原さん
「そこは相手チームっていうよりも、まずは自分っていう感じですか?」

吉井監督
「そうですね。大体失敗するのは、自分ができそうにもないことに挑戦すると、あんまりうまくいかないことが多いんで。まずは自分のできることをしっかり集中してやってほしいというふうに感じます」

上原さん
「その中で今、上位と下位3つずつで分かれていて、オリックスとソフトバンクがいると思います。後半戦は、やっぱりこの2チームを重要視しながらですか?」

吉井監督
「これね、そこ重要視すると、ほかのとこで…。そこまで戦力がまだ整ってないので、やっぱり選手がやりやすいようにして勝っていきたいなっていうふうに思っています」

上原さん
「対5チームですか?」

吉井監督
「そうですね。本当に後半の後半、まだチャンスがあれば、ちょっと考えます」

選手の疲労を最小限に抑えながら、ベストパフォーマンスを引き出そうという吉井監督のチーム運営。

佐々木朗希投手(右)が戦線離脱

しかし、このインタビューの翌日、ロッテ投手陣の柱である佐々木朗希投手の左脇腹肉離れによる登録抹消が発表されました。

吉井監督は前半戦終了時「どんなに疲れさせないようにしても選手は故障してしまうもの」とコンディショニングの難しさも語っていて、図らずも“選手第一”“体調重視”の運営が道半ばであることが露呈する形となりました。

代えの効かない先発の大黒柱の離脱によって、投手陣の運用がさらに難しくなるのは間違いありません。

“今日をチャンスに変える”

ただ吉井監督は「ピンチはチャンス。若い子たちにチャンスが来るかもしれない。本当にいるメンバーでやっていくしかない」と話し、前を向きました。

ロッテのシーズンスローガンである「今日をチャンスに変える」

この苦しい状況をチャンスに変え、さらなる選手たちの成長を引き出すことができるのか。

後半戦も吉井監督の手腕が注目されます。