水難事故防ぐ「サンダルバイバイ」流されても追いかけないで

「サンダルバイバイ」ということば、ご存じでしょうか。

夏のレジャーシーズンで相次ぐ水の事故を防ぐ合言葉として、インターネットなどで広まりつつあります。

どのような意味なのか、呼びかけている人を取材しました。

海や川でサンダルが流されても追いかけずに見送ろう

呼びかけているのは大阪市のNPO法人の代表で、水の事故を防ぐ教室を開いている、すがわらえみさんです。

「サンダルバイバイ」とは、海や川でサンダルなどが流されても、追いかけずに見送ろうという呼びかけです。

無理に追いかけて溺れてしまう事故も起きていることから、すがわらさんは2年前からインターネットで動画や漫画を紹介するなどして、この「サンダルバイバイ」を呼びかけています。

すがわらさんによりますと、子どもたちがサンダルなどを追いかけてしまう背景には、「物をなくしてはいけない」という教えや、「なくしたらしかられる」という思いがあり、保護者の理解も重要だということです。

このため、サンダルをなくした子どもをしからないことを約束してもらおうと、「おやこ条約」という用紙を作って親子で署名してもらうことを勧めています。

すがわらさんは29日に大阪市内で開いた教室でも、参加した小学4年生やその母親に「サンダルバイバイ」の考えを教え、「おやこ条約」に署名してもらいました。

また、体に密着するようにライフジャケットを着て必ず大人に確認してもらうことや、腕にはめる浮き具は川や海では急な流れで腕から抜けてしまう危険があることを伝えていました。

参加した小学4年生の女子児童は「大切なものが落ちても、その先が深いかもしれないから取りにいきません。ライフジャケットもちゃんと着ます」と話していました。

女子児童の母親は「条約は大事だと思いました。サンダルが流されたら、買ったばかりであれば私も追いかけてしまうと思います。サンダルよりも命のほうが大切だということを親子で分かっていないとダメだなと感じました」と話していました。

50代男性「子どもには『持ち物が流されたらまた買う』と話す」

神奈川県鎌倉市の由比ガ浜海水浴場に来ていた人たちに話を聞いたところ、水遊び中にサンダルなどを追いかけたことがあるという人も多くいました。

家族で訪れていた50代の男性は「以前、海で目を離した少しの間にボートが流され、悔しくてかなりの距離を泳いで追いかけたことがある。無理をしたら自分が事故にあうとわれに返り、諦めが肝心だと気づきました。命のほうが大事なので、子どもには『持ち物が流されたらまた来年買ってやる』と言っています」と話していました。

小学3年生と3歳の娘を連れた40代の母親は「わりと浅い川でサンダルが流されて危険ではないと思って、取りに追いかけたことがある。流れに勢いがなければ追いかけてしまう」と話していました。

流されたサンダルなど追いかけて事故に 全国で後絶たず

流されたサンダルなどを追いかけて水の事故に巻き込まれるケースは全国で後を絶ちません。

警察庁の統計によりますと、去年、中学生以下で水の事故で亡くなった人は26人で、この42.3%にあたる11人は川や海での水遊び中だったといいます。

また、河川財団による過去20年間の川の事故の分析では、幼児と小学生でよく見受けられる事故のパターンとして、「落としたボールやサンダルなどを拾おうとして溺れたケース」が挙げられています。

3年前の6月には埼玉県日高市の川で、友人と遊んでいた小学4年生の女の子が溺れて亡くなり、川に流されたサンダルを拾いに行こうとしたとみられています。

5年前の8月には仙台市の河原で、バーベキューをしていた高校1年の男子生徒が川に流されたサンダルを探しに行ったあと行方が分からなくなり、川の中で見つかりましたが、死亡が確認されました。

大人の例もあり、3年前の7月には福島県会津若松市で、70歳の男性が流されたサンダルを探しに川に入ったあと行方が分からなくなり、その後死亡が確認されました。

専門家「命よりも大切なサンダルはない」

海上保安庁で救難や警備の業務に長年携わった日本水難救済会の遠山純司理事長は「光の屈折などの原因で、海や川は水面を見ただけでは分からない予期せぬ深みや流れがある。流されたサンダルを一生懸命追おうとすると、物ばかりに注意がいって、深さや流れなどの周りの環境に対する注意力がなくなってしまうので非常に危険だ」と話しています。

ほかに海や川の事故を防ぐポイントとして遠山理事長は、脱げにくいサンダルやマリンシューズを履くこと、海や川の環境を知ること、それに保護者が子どもより川の下流や海の沖側に立つことなどを挙げています。

遠山理事長は「備えたうえで海や川に行くことが大切です。命よりも大切なサンダルはないということをしっかり心に刻んで、海や川で楽しんでいただきたい」と話していました。

すがわらさん「水の事故防止の第一歩に」

NPO法人「AQUAkids safety project」の代表、すがわらさんは「川も海も、しっかり対策を取れば安全に楽しめるところなので、『サンダルバイバイ』を水の事故防止の第一歩として覚えてほしい。『サンダルバイバイ』やライフジャケットの大切さが当たり前になるまで活動を続けて行きたい」話していました。