プーチン大統領「40以上のアフリカの国々と軍事協力」

ロシアのプーチン大統領は、アフリカ各国の首脳との会議で、40以上の国々と軍事協力などの協定を結び、武器などを供与していると明らかにしました。軍事面などでの協力関係を強調してアフリカ各国の取り込みを図り、対立を深める欧米に対抗するねらいもあるとみられます。

この会議は、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで27日から開かれていて、アフリカの54か国のうち49か国から政府関係者や企業の代表などが参加しています。

28日は、プーチン大統領が各国の首脳との会議に臨み、軍事侵攻を続けるウクライナ情勢について「ウクライナ危機の解決に向けてアフリカ諸国がイニシアチブをとっている。われわれはその検討を避けていない」と述べ、和平の実現に向けた働きかけを行っているアフリカ側に対して一定の配慮を示しました。

また「ロシアは、40以上のアフリカの国々と軍事技術協力の協定を結んでおり、武器や装備を供与している。アフリカの治安機関などとの緊密な協力にも関心がある。アフリカの軍人などへの訓練を継続するつもりだ」などと述べ、アフリカ各国との防衛協力を強化していく考えを強調しました。

プーチン大統領は、27日にはアフリカの6か国に対してロシア産の農産物を無償で提供する用意があることを表明しました。

ロシアとしては、アフリカ各国との軍事や農業をめぐる協力関係を強調して各国の取り込みを図り、ウクライナへの軍事侵攻を受けて対立を深める欧米に対抗するねらいもあるとみられます。

ワグネルなど民間軍事会社 アフリカ各地で活動

ロシアの民間軍事会社ワグネルは、アフリカで政情不安が続く国々に戦闘員を派遣する一方、鉱物資源の権益を拡大するなど、プーチン政権の利益と密接に結び付きながらその活動を広げてきました。

アメリカのシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所は、2016年から2021年までの期間にワグネルなどロシアの民間軍事会社がアフリカの17か国で活動していたとみられると分析しています。

またその多くは、天然資源が豊富でありながら、内戦や政治的な対立などによって国内情勢が不安定な国々だと指摘しています。

なかでもワグネルは、2017年ごろからアフリカの国々での活動を活発化させていったとみられています。

反政府勢力やイスラム過激派との戦闘が続く中央アフリカやマリでは、ワグネルの部隊は政府軍の兵士の訓練や掃討作戦の支援を行い、政権側との関係を深めていきました。

両国では政府を支援してきた旧宗主国のフランスなどが軍を撤退させる動きが続き、その空白を埋めるようにロシアやワグネルが影響力を拡大していったと指摘されています。

一方、国内での対立が続いているリビアやスーダンでは、ワグネルの部隊は政府軍ではなく対立する勢力側を支援してきたとされています。

こうしたことからワグネルは、プーチン政権の意向にも沿いながら、戦略的に支援先を選んできたものとみられています。

また、ワグネルは部隊を展開する国々で、軍事支援の見返りに金やダイヤモンドなどの鉱山の利権を押さえるなど、資源輸出ビジネスも展開し大きな利益を上げてきたと指摘されています。

さらにインターネット上などで旧宗主国など欧米諸国をおとしめる情報を流して、反欧米感情をあおる一方、ロシア人部隊のアフリカでの活動を英雄視するアクション映画を制作するなど、ロシアへの親近感を作り出す情報戦も展開してきたとみられています。

一方、ワグネルは去年、マリで、市民ら500人以上が殺害される事件への関与が指摘されるなど、各地で民間人に対する暴力や拷問、性的暴行など人権侵害を繰り返しているとして非難も相次いでいます。

6月にワグネルの代表プリゴジン氏がロシアで武装反乱を起こしましたが、ワグネルのアフリカでの活動について、ロシアのラブロフ外相は「マリや中央アフリカでの民間軍事会社の活動はこれからも続ける」と述べ、今後も継続していくという考えを示しています。

ワグネル 2021年ごろから政情不安のマリで活動

西アフリカのマリでは、2012年ごろからイスラム過激派が北部の広い範囲で活動を活発化させ、10年以上にわたって不安定な状況が続いています。

旧宗主国のフランスなどが過激派の掃討作戦を進めてきましたが、治安は回復せず、3年前のクーデターで政権を握ったマリの暫定政権との対立も深まり、去年、完全に撤退しました。

マリの暫定政権はフランスの代わりに、ロシアとの関係を深め、2021年ごろから民間軍事会社ワグネルの部隊がマリで活動するようになったと言われています。

国連の平和維持部隊も2013年から駐留してきましたが、マリ政府の要請に基づいて活動を終了させることが決まりました。

現地に駐留する国連平和維持部隊のファトゥーマタ・シンクーン・カバ報道官は、「我々はマリで様々なインフラを整備するなど平和の構築に向け多くの成果を上げてきた。その成果が引き継がれることを願っている。いま我々にできることは年末までに安全に撤退を完了させることだけだ」と話していました。

アメリカ政府は、マリの暫定政権がワグネルの活動を支えていると非難し、今月24日にはマリ政府の国防相ら3人を制裁対象に指定したと発表するなど、ワグネルへの依存を高めることを警戒しています。

プリゴジン反乱後も ロシア支援歓迎ムード続く

首都バマコの中心部の広場では7月中旬にもマリの国旗と並んでロシアの国旗が売られるなど、ロシアの支援を歓迎するムードがプリゴジン氏の反乱の後も変わらずに続いていました。

SNS上の世論の動向や偽情報を分析している団体のメンバーは、「反乱直後は、ロシア支持者の間で落胆や懸念が広がったが、24時間で事態が収束するとロシア支持者は希望を取り戻した。世論の多数派はいまもロシアを支持している」と話しています。

また、ロシアに留学して医学を学びバマコで診療所を経営しながらロシアとの関係強化を訴える活動をしてきたジブリル・マイガさん(56)は、プリゴジン氏の武装反乱によってプーチン政権はむしろより盤石になったと考えていて「あの騒ぎによって、ロシアで誰が外国勢力とつながりプーチン政権を裏切っているのかあぶりだすことができた」と主張していました。

マリの安全保障に詳しい地元シンクタンクの研究員、アルファ・アルハディ・コイナ博士は、「ロシアは欧米諸国と違い、マリに必要な武器などを内政に干渉することなく提供してくれる。ロシアだけに頼ることには危険もあるが、現状、安全保障面ではロシアと協力することがマリにとって最善の選択だ」と話していました。

避難民からワグネル批判も

マリ北部や中部では過激派や武装勢力の襲撃や略奪が繰り返され、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、現在も37万人以上が国内避難民となっています。

首都バマコにある4000人近くが身を寄せる避難民のキャンプの一角には、過激派の掃討作戦を支援するロシアの国旗が掲げられていましたが、避難してきた人たちの多くは治安はむしろ悪化していると訴えています。

10か月ほど前に中部の村から避難してきた45歳の男性は、「マリの治安は日々悪化していてとても村に戻ることはできません。自分の国の政府と問題を抱えるワグネルがマリを救えるとは思えません」と話していました。

また、5か月前に避難してきた73歳の男性は、この半年ほどの間、マリ軍の兵士とともに、ロシア人とみられる兵士が村に来て、過激派との関わりがないか村人を調べるようになったとして「白人兵士が村に来て、村人を連れ去り時には殺すようになったので私たちは逃げてきた。彼らは我々はみなイスラム過激派だと考えている。少しでも疑われたら、男も女も老人も子どもも殺される」と話していました。

専門家「戦争がロシアに不利になるほどアフリカ重要に」

ワグネルのアフリカでの活動をめぐっては、代表のプリゴジン氏が6月にロシアで武装反乱を起こしたことを受けて影響力が弱まるのではないかという見方も出ていました。

これについてアフリカの安全保障などに詳しい日本エネルギー経済研究所中東研究センターの小林周主任研究員は「反乱から1か月がたつが、実質的な変化は起きていない」との見方を示しています。

その理由として、
▽ワグネルがアフリカで広げてきた天然資源の採掘などに関する経済的な利権のネットワークがプーチン政権にとっても大きな利益になっていること、
▽欧米との対抗上、アフリカの地域情勢に影響力を持つことが戦略的に重要になっていること
それに、▽アフリカの国の指導者がワグネルの軍事支援に深く依存していることをあげています。

そして「ウクライナでの戦争がロシアにとって不利になればなるほど、アフリカという地域がロシアにとって重要になる」と述べ、ロシアがアフリカで影響力を拡大しようとする試みは続くとの見方を示しました。

そのうえで「欧米諸国の中にはウクライナへの支援などにかかりきりで、アフリカに支援を割くことが難しくなっている国も多いが、ワグネルは欧米の関与が減った空白を突いて拡大しており、G7をはじめとする諸国は、アフリカへの関与を続けていく必要がある」と指摘しています。