さよなら青い鳥 ツイッターからXに どう変わる?

「徐々にすべての鳥とお別れする」

アメリカの起業家でかつてのツイッターを買収したイーロン・マスク氏の投稿です。「鳥」とは、ツイッターの象徴だった青い鳥のロゴのこと。マスク氏はこのロゴを廃止し、ブランドを「X」に変更したのです。

突然のブランド変更の狙いとは何なのか、SNSなどのメディア戦略に詳しい、アメリカの専門家に聞きました。(ロサンゼルス支局記者・山田奈々)

ツイッター消滅 「X」に変更

ツイッターを買収後、次々と改革を進めてきたイーロン・マスク氏。

2023年7月24日に、ついに、ツイッターの青い鳥のロゴを廃止し、運営会社の名前とおなじ「X」にブランドを正式に変更しました。

マスク氏は「ツイートは今後何と呼ぶべきか」と問われると「X’s」(エックセズ)と答えましたが、リツイートについては考え直すと述べるにとどめました。

なんでもアプリを目指す

電子決済など日常のあらゆる場面で使える、中国のウィーチャットのようななんでもアプリ、「アプリX」を作りたいと公言してきたマスク氏は、ブランドの変更で開発を強化するとみられています。

ブランド変更の狙いとは何なのか、今後、「X」はどうなるのか、そして私たちのSNSはどうなっていくのか、この分野に詳しいアメリカの2人の専門家に話を聞きました。

ブランド変更の狙いは? SNSに詳しい専門家の見解は

1人目はSNSなどのメディア戦略に詳しい、アメリカのボストン・カレッジのマイケル・セラジオ准教授です。

Q.ブランドの変更がいま、このタイミングで実施された理由は?

A.旧フェイスブックのメタが提供を開始した新しいSNS、スレッズが関係している。

登録者数がサービス開始の最初の週に1億人を超えた短文投稿のスレッズは、「ツイッターキラー」とまで呼ばれ、ツイッターのライバルとされている。ブランドの刷新で対抗したいという狙いがあるだろう。

Q.ブランド変更の狙いは?

A.さまざまな問題を抱えているツイッターを心機一転し、新しいアイデンティティーを作りたい、歴史の新たな1ページをめくりたい、そういう思いだろう。

マスク氏は、有料サービスを展開するなど収益性を上げようとしているが、今のところ成果は出ておらず、ブランドを刷新することで、離れていってしまった広告主を呼び戻したいという狙いもある。

しかし、残念ながら、うまくいくとは思えない。なぜなら問題なのはアプリの名前やロゴではなく、アプリそのものだからだ。

ヘイトスピーチが増えるなど安心して使える快適なSNSではなくなってしまったことで利用者離れが起きた。

Q.黒を基調としたロゴにシャープなXの文字。これまでの青い鳥とはだいぶイメージが異なるが。

A.マスク氏はツイッターのロゴやブランドの理念がそもそも好きではなかったと言われている。会社のイメージをエッジの効いた鋭く強い感じにしたかったのだろう。

マスク氏による買収後、何を言ってもよいという場所になってしまったツイッターは、攻撃的で激しいSNSになったので、ある意味で新しいXのロゴは実態にあったものなのかもしれない。

「X」はどうなるのか?

Q.マスク氏の目指すなんでもアプリ「アプリX」は実現できるのか?

A.マスク氏は従業員を大量に解雇したため会社は買収前よりだいぶ小規模になっている。少ない人数で新しい製品を作ろうというのは一般的に難しい。

さらに、電子決済のアプリやチャットをベースにしたアプリはすでに存在している。

彼が作ろうとしているものはすでに世の中にあるものなので果たしてそれが本当に必要とされるのかはわからない。

スレッズがなぜ、登録者数を伸ばしたのかと言えばその理由の1つは人々がツイッターに代わる代替アプリを求めていたからだ。

Q.旧ツイッターを今後はみな「X」と呼ぶのだろうか?

A.ツイッターやツイートという文言は、言語の中に一般名詞のように深く組み込まれているため、これを変えるのはしばらく時間がかかるだろう。

Q.今後、SNSをめぐってはどんな展開が予想されるのか?

A.どんなSNSも永遠に生き残れると保証されているものはない。

去年の夏、話題になったインスタ映えの逆をいくSNSの「BeReal」は、およそ5000万ダウンロードに到達したが、その後、急速に勢いを失った。

「BeReal」の画面

ビジネスの性質、テクノロジーの性質、そして、テクノロジーを使う人々の性質は常に変化しているのでたとえ大手のSNSでも長期にわたって存在すると明言するのは無理があるだろう。

人々が何を好み、何を必要としているのか、その見極めが重要だ。

ブランド変更の狙いは? テクノロジー分野取材記者の見解は

2人目の専門家は長年にわたって、テクノロジー分野の取材を行っている、ワシントン・ポストのジョセフ・メン記者です。

Q.なぜこのタイミングでブランドをXに変更したのか?

A.メタのスレッズが台頭してきたことは理由の1つだが、マスク氏は移り気で、自分の直感で物事を動かす。

彼のもとで働いていたというツイッターの元製品開発担当の幹部の女性は、マスク氏はとても頭が良いが、瞬時に自分の直感で決めるので周りはいつも振り回されると話していた。今回もそれと同じではないか。

Q.ブランドの変更でこの会社の経営はよくなるのか?

A.去ってしまった広告主たちが戻ってくるという動きは今のところみられず、ツイッターブルーなどの有料サービスも明らかにうまくいっていない。

マスク氏は、ブランドを変更し、なんでもアプリのアプリXを開発すると言っている。ツイッターの企業価値は、マスク氏による買収後、半分になってしまっているとみられるため、これは新しくて、多機能なアプリだということで投資する価値があると思わせたいのだろう。新たな投資家から資金を集めるための手法ではある。

SNSはどうなっていくのか?

Q.アプリXは実現可能なのか?

A.大きなハードルがあるだろう。彼は電子決済のペイパルを作った経験があるうえ、スペースXやテスラの経営で規制当局とも渡り合ってきた。

一方、消費者保護の観点はインターネットのサービスではとても重要だ。すでにFTC=連邦取引委員会から利用者のデータの安全性に関して目を付けられている。根本的にデータの安全性が改善したと示す責任がマスク氏にはある。

Q.今後、SNSをめぐってどんなことが起きると考えているか?

A.これが最もおもしろい問いだろう。どこか1社がツイッターの代替になるのかそれとも多数のSNSが混在するのか。まだわからないが、さまざまなSNSが永遠に散在する状況が続く可能性があり、機能によって使い分けるということではないか。

年配者はスレッズのほうが安心するかもしれないし、よりサイバーセキュリティーを重視する人はマストドンのようなSNSを好むかもしれない。

ツイッターのよかったところは自分がもともと知ろうとしていなかったことに偶然出くわすことができる点だった。スポーツに興味があってツイッターを見ていても、偶然、歴史学者のコメントを見てとてもおもしろいと感じるなどだ。

利用者がみな、別々のSNSに散在してしまうとそうしたことは起こらなくなってしまう。