防衛白書 防衛力の抜本的強化へ「反撃能力」必要性を強調

ことしの防衛白書は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の中、防衛力の抜本的強化を行っていくとした上で、初めて保有することを決めた、相手のミサイル発射基地などを攻撃できる「反撃能力」の必要性を強調しています。

防衛白書は、28日の閣議で報告されました。

この中で中国については、無人機の活動が活発化していることや、ロシア軍との共同での活動がたび重なっているなどとして、日本と国際社会にとって安全保障上の深刻な懸念事項だとしています。

また弾道ミサイルの発射を繰り返している北朝鮮については、おととし打ち出した「5か年計画」に沿って、関連技術の開発を「自衛的」な活動として常態化させていると指摘しています。

その上で日本の防衛体制について、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の中、相手の能力と新しい戦い方に着目した防衛力の抜本的強化を行っていくとしています。

そして、その一環として初めて保有することを決めた、相手のミサイル発射基地などを攻撃できる「反撃能力」について、日本への侵攻を抑止する上で「鍵」となると、その必要性を強調しています。

一方で専守防衛の考え方を変更するものではなく、攻撃は厳格に軍事目標に限定するとしています。

このほか、元陸上自衛官の女性が性被害を受けたことを踏まえ、ハラスメントについての項目を新たに設け、一切許容しない組織環境を構築していくことも盛り込んでいます。

中国 台湾 北朝鮮の軍事動向

中国をめぐっては、アメリカとの軍事力の格差を埋め合わせるため、軍隊にAI=人工知能などの最先端の技術を用いる「智能化」が必要条件であると認識し、陸・海・空で無人機の装備品の自律性を高めることなどを追求しているとしています。

そして将来的に「智能化戦争」でアメリカに「戦える、勝てる」軍隊の建設を目指し、近代化の動きは今後さらに加速すると見込まれるとしています。

台湾をめぐっては、去年8月、中国が9発の弾道ミサイルを発射し、このうち5発が日本のEEZ=排他的経済水域内に着弾したことや、台湾周辺でおよそ1週間にわたって大規模な軍事演習を行ったことに触れています。

そして中国軍による威圧的な軍事活動の活発化により、台湾海峡の平和と安定について、日本を含むインド太平洋地域のみならず、国際社会において急速に懸念が高まっているとしています。

また中国と台湾の軍事バランスについて、全体として中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化している一方、台湾もウクライナ侵攻を受けて自身の防衛努力を強化しているとしています。

北朝鮮をめぐっては、去年、かつてない高い頻度で弾道ミサイルなどの発射を繰り返し、その数は少なくとも59発に及ぶとしています。

1年を通してミサイル関連技術・運用能力向上を追求してきた背景には、核・長距離ミサイルの保有による対米抑止力の獲得、米韓両軍との武力紛争に対処可能な、戦術核兵器およびその運搬手段である各種ミサイルの整備というねらいがあると見られるとしています。

そして北朝鮮が紛争のあらゆる段階において事態に対処できるという自信を深めた場合、軍事的な挑発行為がさらにエスカレートしていくおそれがあるとして、日本の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威だとしています。

安全保障関連3文書 位置づけや内容記載

ことしの防衛白書には、去年策定された安全保障関連の3つの文書について、それぞれの位置づけや内容が記載されています。

このうち「国家安全保障戦略」については国家安全保障の最上位の政策文書で、外交・防衛分野のみならず、経済安全保障、技術、情報も含む幅広い分野の政策に戦略的な指針を与えるものだとしています。

「国家防衛戦略」は、国家安全保障戦略を踏まえ、防衛の目標や達成するためのアプローチ・手段を示す、これまでの防衛計画の大綱に代わるもので、国家安全保障戦略ともに、おおむね10年間程度の期間を念頭に置いています。

「防衛力整備計画」は、国家防衛戦略に従い、防衛力の水準やそれに基づくおおむね10年後の自衛隊の体制、5年間の経費総額や主要装備品の整備数量を示しています。

この中に、防衛力の抜本的な強化策である「スタンド・オフ防衛能力」「無人アセット防衛能力」など7つの主要事業や、計画の実施に必要な金額として2023年度から2027年度までの5年間で43兆円程度とすることが盛り込まれています。

白書にはまた「防衛力整備計画」に基づく各自衛隊の体制強化のポイントも記載されています。

この中では、各自衛隊の統合運用の実効性強化に向けて、平素から有事まであらゆる段階において領域横断作戦を実現できる体制を構築する必要があるとして、速やかに常設の統合司令部を創設するとしています。

陸上自衛隊は、南西地域の防衛体制を強化するため、沖縄県にある第15旅団の師団への改編を計画しているほか敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」を装備した部隊を配備するとしています。

海上自衛隊は、護衛艦や掃海艦艇、哨戒艦を同じ部隊で管理する「水上艦艇部隊」を編成することや既存の部隊編成を見直し、海自情報戦基幹部隊を創設するとしています。

航空自衛隊は、F35戦闘機の取得を加速させるほか、F15戦闘機やF2戦闘機の能力向上を推進するとしています。

また宇宙領域の重要性が高まっているとして、宇宙領域専門部隊を新たに編制するとともに、航空自衛隊の名称を「航空宇宙自衛隊」に改称するとしています。

「10年間の世界の変化」を特集

ことしの防衛白書は、「10年間の世界の変化」を特集しています。

この中で中国については、公表されている国防費が2.2倍になったことや、太平洋では2013年以降、日本海では2016年以降軍用機を飛行させ、活動の範囲を拡大・活発化させていて「海上・航空戦力や核・ミサイル戦力を中心に、軍事力を広範かつ急速に強化している」と指摘しています。

北朝鮮については、弾道ミサイルなどの発射数が、2013年から2022年までは、その前の15年間と比べると8.4倍になっているとし、この10年でミサイル関連技術が飛躍的に向上しているとしています。

ロシアについては、この10年間で北方領土を含む極東に新型装備を配置し、ミサイル能力を増強しているとしています。

ウクライナ侵攻「長期化する可能性指摘」

ロシアによるウクライナ侵攻については去年から今年にかけての戦闘の経過や今後の見通しなどが記されています。

この中では去年の9月上旬にウクライナが反転攻勢を本格化させ、東部でロシア軍が占領していた地域の大部分を奪還し、11月中旬にはヘルソン州なども奪還したとしています。

一方でロシアはウクライナ全土へのミサイル攻撃などを強化し、電力網に被害を与え、非戦闘員の犠牲を拡大させることで、ウクライナの抗戦意思を減らす企図があると見られるとしています。

今後の見通しとしては「戦闘が長期化する可能性が指摘されている」としています。

またウクライナ侵攻からの教訓として「力による一方的な現状変更は困難であると認識させる抑止力が必要であり、防衛力を構築し、相手に侵略する意思を抱かせないようにする必要がある」としています。

浜田防衛相「防衛力抜本的強化の方向性を解説」

浜田防衛大臣は閣議のあとの記者会見で「国家安全保障戦略など3文書の策定後初めて刊行される白書で、3文書策定の経緯や概要をしっかりと記述した。今の日本の安全保障環境は誰が見ても厳しく、今後の防衛力抜本的強化の方向性について解説した」と述べました。

韓国 竹島についての記述に抗議

防衛白書が島根県の竹島を「わが国固有の領土」と記載していることに反発して、韓国外務省は28日、報道官の論評を発表しました。

このなかで、竹島を「トクト(独島)」と呼んで韓国の領有権を主張した上で、竹島の記載について「即刻撤回するよう求める」としています。

また、韓国外務省のソ・ミンジョン(徐旻廷)アジア太平洋局長が28日午前、ソウルにある日本大使館の山本公使を呼んで、竹島についての記述に抗議しました。

一方、日本大使館によりますと、山本公使は韓国側に対して「竹島は歴史的事実に照らしても、かつ国際法上も、明らかにわが国固有の領土だ」と述べ、韓国側の申し入れは、受け入れられないと反論したということです。

松野官房長官「きぜんと対応」

松野官房長官は午後の記者会見で、防衛白書に島根県の竹島を「わが国固有の領土」と記載したことに韓国側が抗議したことについて「竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明らかにわが国固有の領土であり、韓国側からの申し入れは受け入れられないと反論した。引き続き、わが国の領土、領海、領空を断固として守り抜くという決意のもときぜんと対応していく」と述べました。

中国 報道官「“中国の脅威” 故意に誇張」

防衛白書が中国をめぐりロシア軍との共同での活動がたび重なっているなどとして、日本と国際社会にとって安全保障上の深刻な懸念事項だとしていることについて、中国外務省の毛寧報道官は28日の記者会見で「中国の内政に乱暴に干渉し、正常な国防の発展や海軍と空軍の活動を好き勝手に中傷するとともにいわゆる『中国の脅威』を故意に誇張して地域に緊張を作り出している」と反発しました。

そのうえで「中国は強烈な不満と断固とした反対を表明し、日本に厳正な申し入れをした」と述べました。

そして「われわれは日本が周辺の安全保障への脅威を誇張することをやめ、実際の行動でアジアの周辺国と国際社会の信頼を得ることを求める」と強調しました。