最低賃金 全国平均で時給1002円に 過去最大の41円引き上げ

今年度の最低賃金について厚生労働省の審議会は、全国平均の時給で41円引き上げるとする目安をとりまとめました。物価上昇を踏まえ引き上げ額はこれまでで最も大きく、全国平均で時給1002円となり、初めて1000円を超えました。

最低賃金は企業が労働者に最低限、支払わなければならない賃金として地域ごとに決められ、現在、全国平均は時給961円です。

今年度の引き上げについて労使の代表などが参加する厚生労働省の審議会は28日、最後の会議を開き、全国平均で41円引き上げるとする目安をとりまとめました。

引き上げ額はこれまでで最も大きく全国平均で時給1002円となり、初めて1000円を超えました。

地域別の引き上げ額の目安は東京、大阪、愛知などのAランクで41円、北海道、兵庫、福岡などのBランクで40円、青森、高知、沖縄などのCランクで39円となりました。

引き上げの理由について審議会は、物価上昇が続く中、賃上げの流れを維持、拡大し、非正規雇用の労働者や中小企業に波及させることや、賃金の低い労働者の労働条件の改善を図ることで経済の健全な発展に寄与するとしています。

審議会は28日夕方、報告書を厚生労働省に答申し、今後、各都道府県ごとに労使の話し合いが行われ、地域別の最低賃金が決まることになります。

最低賃金をめぐっては政府がことし中に全国平均で時給1000円を達成することに言及し、政府の会議で今後も議論する考えを示しています。

岸田総理大臣は、総理大臣官邸で記者団に対し「上げ幅は過去最大だと承知しており、結果を歓迎したいと思う。再三述べているように、賃上げは岸田政権にとって最重要課題の一つだ。中小企業でもしっかり賃上げが行われる環境整備に向けて生産性向上の支援や価格転嫁対策などを徹底する。政府一丸となって取り組みを続けていきたい」と述べました。

街では歓迎の声 さらに大幅な引き上げ必要との意見も

東京・新宿区では歓迎する声のほか、物価の上昇に見合うようさらに大幅な引き上げが必要だとする声も聞かれました。

30代のアルバイトの男性は「引き上げはありがたいですが、食品の値段も上がっているし毎日の暑さでエアコン代もかかっていて、いまの暮らしを考えるともっと引き上げてもよいのではないかと感じる」と話しています。

また、中国から留学している20代の女性は「塾でアルバイトをしていますが、ほぼ最低賃金なので引き上げはありがたい。物価が下がってくれるともう少し生活が楽になります」と話しています。

一方、以前、会社を経営していたという70代の男性は「働く人の待遇改善はよいことだが、特に零細企業は経営が厳しく人件費を抑えざるをえないところもあると思う。企業が賃上げをしやすくなるためには経済全体が上向く必要もあるのではないか」と話していました。

連合「評価できるも十分とは言えない」

今年度の最低賃金の引き上げ額の目安が示されたことについて労働組合の中央組織「連合」は談話を発表しました。

談話では「本年度の目安は過去最高額であり、春闘の成果を組合が未組織の労働者へと波及させ、社会全体の賃金底上げにつながり得るという点は評価ができる。ただ、物価上昇が続く中、最低賃金近くで働く労働者の暮らしを守るという観点では十分とは言えない。引き続き、あるべき水準に関する議論を深めていく必要がある」としています。

飲食店は経営への影響を懸念

都内の飲食店からは、原材料価格などが高騰する中で経営への影響を懸念する声が上がっています。

4人のアルバイトを雇っている東京・渋谷区の焼き肉店では、最低賃金の引き上げにあわせて毎年、時給を上げていて、いまは東京の最低賃金より8円高い1080円を基本に経験などに応じて設定しています。

しかし、新型コロナで大幅に落ち込んだ集客が8割程度にしか戻っていない一方で、去年から光熱費が1割程度、肉の仕入れ値が2割ほど高くなっているということです。

去年10月にはすべてのメニューを10%値上げしたといい、今回、最低賃金の引き上げ幅が過去最大となりましたが、これ以上の価格転嫁は難しく、さらに厳しい経営を迫られるとしています。

焼き肉店「清香園」の那須辰也店長は「最低賃金が上がったからといって、店舗や企業は商品の価格をすぐに値上げすることはできない。経費を削減する努力はするが小規模事業者に対する支援も考えてほしい」と話していました。

日商会頭「厳しい状況の中小企業多い 労務費の価格転嫁が重要」

多くの中小企業が加盟する「日本商工会議所」の小林会頭はコメントを発表しました。

この中では「全国平均で過去最大の引き上げとなったが、議論を尽くした結果、30年ぶりと言われる物価と賃金の大幅な上昇を反映したものと受け止めている」としています。

そのうえで「支払い能力の面では原材料費やエネルギー価格の高騰により厳しい状況にある中小企業も多く、今回の引き上げ分も含め、労務費の価格転嫁の一層の推進が極めて重要だ。政府には中小企業の自発的かつ持続的な賃上げの実現に向け、価格転嫁の商習慣化に向けた取り組みと企業の生産性向上の支援をより強力に進めてほしい」としています。

専門家「消費を喚起 経済の底上げにつながる」

最低賃金の全国平均が時給1000円を超える目安が示されたことについて、大和総研の神田慶司シニアエコノミストは「個人消費そのものは連続でプラス成長しているが、最低賃金近くで働く人たちの消費動向は厳しい状況が続いている。春闘の賃上げ率が30年ぶりの高水準となる中、最低賃金だけ上がらないとなると低所得者の生活がますます厳しくなる。最低賃金が1000円を超えることはこういった人たちの生活を改善させるだけでなく、抑えられていた消費を喚起することで経済の底上げにもつながり、社会面、経済面でも意義があることだ」と話しています。

また「日本経済をよりうまく回していくためには、最低賃金も含めた賃金と物価を循環的に継続的に上昇させていくことが重要だ。最低賃金が大幅に引き上がると企業の負担になると捉えられがちだが、賃金が上がると消費者の購買力も上がるので価格転嫁しやすい環境になる。賃金があがった人材を使って付加価値の高いサービスをいかに生み出して、価格にどう転嫁するかを考えていくべきだ」と指摘しています。

そのうえで「時給1000円はあくまでも1つの目標にすぎない。経営者は、最低賃金は今後も上がっていくという認識のもとでより付加価値の高いサービスに人手をまわし、そうでないところはデジタル化を大幅に進めるなどメリハリのある経営を進めることが必要だ。その結果、企業の生産性や収益力があがり、日本経済全体でみても成長力が高まることにつながっていく」と話しています。