会話は途切れてもいい。小堺一機さんが語るトークの心得は

民放のお昼のトーク番組で30年以上司会を務めたタレントの小堺一機さん。トークの達人として活躍、40年以上前に始まった関根勤さんとのラジオ『コサキン』がことし、ポッドキャスト(インターネットで配信される音声の番組)で復活。ハイテンションなトークを届けています。そんな小堺さんが語ったのは「会話は途切れてもいい」ということば。本当に途切れてもいいんでしょうか?

(聞き手:守本奈実アナウンサー、取材:千葉放送局・新井信宏アナウンサー)

「お昼の顔」に大抜てき

小堺さんにお話を伺ったのは、東京新宿にあるスタジオ。国民的番組と言われた「笑っていいとも!」の生放送が行われていた場所です。そのあとに続けて放送していた番組、「いただきます」の司会に、小堺さんは28歳のときに抜てきされました。

(守本)
小堺さん、私、高校生のときから『コサキン』のラジオの大ファンで、深夜、大爆笑して、周りの家族が起きないように布団かぶって、もう…。
(小堺)
えー?
(守本)
時に笑いすぎて涙流しながら、毎週聴いていたんですよ。
(小堺)
たまたま聴いていたんですか?
(守本)
たまたま最初、何かで聴いたんでしょうね。
こんなに世の中におもしろいラジオがあるのかと思って、そこからは毎週欠かさずに聴いてきました。きょう、本当にお会いできて光栄です。
(小堺)
こちらこそありがとうございます。
(守本)
当時、28歳でお昼の帯番組の司会に抜てきされまして…。
(小堺)
はい、『いただきます』です。
(守本)
帯番組じゃないですか、5日間。司会の仕事って最初、どうでしたか、聞かれたときは?(小堺)僕、事務所から「『いいとも』のあとにおばさんたちとトークする番組が始まる」と。きっと、『スターどっきり』だと。
(守本)
おー。
(小堺)
「これは絶対そうだ。タモリさんの『いいとも』のあとに僕の訳がない」と。それで、「メインで? 絶対、うそだよ。」
ほんとにうそだと思っていたんですよ。それで、いざ始まって。
(守本)
どうでした?
(小堺)
フラフラになりました。だって、百戦錬磨のおばさまたちです。今の僕よりみんな若いですよ、その当時、おばさんっていったって。40歳、50歳、60歳ぐらいかな。もうそれに28歳の若造が太刀打ちできませんから。それで、形式としては、はがきで来た人生相談をおばさんに相談して、ご意見を「いただきます」ってことだったんですよ。

苦悩した 番組開始当初

(小堺)
目の前のお客さんが、やっぱり、最初の頃は、「『いいとも』から残されちゃっている」って顔しているの。「なんでいなきゃいけないんだろう」みたいな。
「『いいとも』はおもしろかったけど、この番組はよくわかんない。おばさんがおもしろいこと言うし、変なこと言っているし、何なんだろう」みたいに…。まだ定着しなかったので。
(守本)
そのときって、自分がうまくいってないな、みたいな感覚ってあったんですか?
(小堺)
ありました、ありました。全然うまくいってないから、それはさすがにわかりますから。つらかったですね。それで、今でも覚えていますけど、放送批評みたいなのがあって、「消えていただきます」って書かれて。もう見ていられないと。
(守本)
えー?
(小堺)
『いいとも』のあとに小堺が、汗水流して、見ていられないと。で、「消えていただきます」って書かれて、「あららら」と思って。矢面に立つというのは、こういうことなのねと思って。
(守本)
相当、おつらかったというか…。
(小堺)
“おつらかった”ですね。でも、自分ではね、一生懸命やっていると思っていたんです。自分が思ってただけですけど。「次の日のおばさんゲストはこの人たちです」って資料をもらったり読んだりしたら、だんだん何回かお会いしていると、「あのおばさんは、こういう感じだからこうやって、こうやって、こうやって」ってシミュレーションするんですよ。それで、もうわかりやすく言わせていただくと、シミュレーションをここ(スタジオ)でまたやるだけなんです、僕。
だから、前の日、考えたことを考えたってことが仕事だと思っていて、目の前で起こっていることに対しての反応をしてなかったんですよ。
でも、自分は一生懸命なの。汗も一生懸命…、びしょびしょかいていて。でも、反応は悪いわけですよ。

きっかけは大先輩のことば

(小堺)
それで、そんな日ね、関根勤さんが、「堺正章さんから伝言だよ」って。「何?」って言ったら、「小堺に言っといてって言われたから」って。「何?」って言ったら、「『なんであいつ1人でしゃべってんだ?』って言っていたよ」って言われて。それでね、思い出したの。
萩本欽一さんに『いただきます』が始まるという話がまだまだ全く出ていないときに、「あっ」って言って、俺の顔見て、「おまえにね、ピン(1人)の仕事は来ない」って言うんですよ。僕、そんなこと言ってないんですよ、ピンの仕事をしたいですとか。「なんででしょうか?」って一応聞いたら、「おまえ、全部1人でしゃべっちゃうから」つって。
人と話しているのを聞いていると、「あなたって、なんとか、なんとか、なんとかが好きなんですよね?」って言うから、相手が「はい」しか言えないんだよって。
あと、勝アカデミーってとこに行っていて、勝新太郎さんの学校に。勝さんの言っていたことも思い出したの。「役者で一番扱いにくいのは、てめえで、前の日、自分だけの役作って、自分で役作って、褒めてもらおうと思って、『ここでこうやってこうやってやるんだ』っていって、相手の芝居、何にも見ないで自分の芝居だけするやつがいちばんだめだ」って言って。そういうのが全部こう、勝さんが言っていたこと、大将(萩本さん)が言っていたことが、脳みそにドドドーッと入ってきて。あー、そうかと思って。俺、前の日、寝ないで準備したことで仕事していると思っていたけど、「ここで何にもしていないや」と。で、「あーっ!」と思って。
ある日、堺さんからの伝言を言われた次の日に、おばさんの話しているのを聞いたら、まあ、築地・豊洲がいっぺんに来たような、新鮮なおもしろいことをたくさんおばさんが言っていたのに、1つも拾ってなかったんですよ。自分の、前に作ったメザシ、出していたんですよ。こっちにタイとか、マグロがいるのにね。それから、言い方悪いけど、その日のことでやればいいんだと。前の日、ゆっくり寝ようと思ったんですよ。
(守本)
それから変わりましたか?
(小堺)
変わりました。おもしろいですね。数字(視聴率)上がるんですよ。僕は楽なの、前より。

「話を聞く」ということ

(守本)
ずっと長らく「話を聞く」ということをされてきた小堺さんにとって、「話を聞く」ってどういうことですか?
(小堺)
「話を聞く」ってね、すごくぜいたくなことだと思います。やっぱり財産を分けてもらうみたいなところがあると思います。その人の半生の匂いとか、味はわからないけど、その人の感じたことを分けてもらっているとか、そういうお土産もらっているみたいな感じがしますね。だから、その日のその人と会おうと思ったんです、僕。毎日の仕事だから。
だから、もしかしたら、僕がテレビで見ていて最高に調子がいいときの人じゃないかもしれないでしょ。その日、奥さんとけんかして出てきたりしたら、テンション下がっている。それは、前室で見ているとわかるじゃないですか。何回も出た方なんか、「きょうは、半年前に出たときよりお元気そうだわ」とか、要するに、「きょうのその人」と話ができるってすごくぜいたくじゃないですか。
(守本)
そうですね。
(小堺)
昔のことだったら、昔のその人と話しちゃうけど、きょうのその人と。そうしたら、もしかすると、明日会ったら、その話をしないかもしれないわけですよ。だから、ぜいたくだなと思っていました。毎日、当日のその人、要するに出来たてのその人にいつも会えているから。そうしたら、何を聞いても楽しいんですよね。うまくいったら、他であんまりお話ししていないこと、ポロって言ってくれたら、お得感が。素がちょっと出たほうがお得感があるのと一緒で。そうしたら、お仕事した日だなって思いました。
(守本)
今、そこにいる、その人と…。向き合うというか。
(小堺)
はい。だって、逆に、僕コロナなんかになってから、よけいそれってすごくすてきなことだと思いました。その日のその人に会えるって。いくら画像がきれいになっても、肉眼の、こうやって同じ場所にいるっていうだけで、全然違うじゃないですか。これリモートで、僕、家から話していたら、こんなにたぶんしゃべらないと思う。

心の「門」を開け放つ

(守本)
皆さんのおもしろい話を引き出す、そのために心がけていたことってあるんですか?
(小堺)
やっぱり、結論を決めないことですね。着地点を持って、ここに着地してくれっていう司会の人もいるけど、僕は一緒にグライダーに乗って、どこ着くか分かんないのを楽しみたいほうです。だから、無理やり違う話になっちゃったから戻すとか、そういうのはしなかったです。
(守本)
ということは、おばさまたちになんていうか、自由にしてもらうっていう感じなんですかね?
(小堺)
そうです、そうです。『北風と太陽』でいうと、太陽でいけばいいやと思って。
(守本)
あたためるほう?
(小堺)
そう、勝手に脱ぐでしょ?どんどん入っていったんですよ、懐に、クリンチみたいに。そしたら、「一機ちゃん、かわいい、かわいい」とか、かわいがってくれるようになったんで。あっちが、門を開いてくれれば、あとは入っちゃえばいいんで。
(守本)
門を開かせるコツみたいなのってあるんですか?
(小堺)
こっちが開くことですね。だから、いやらしい話、「この人とあんまり仲よくなりたくないな」と思ったら、ずっと丁寧にしゃべってればいいんですよ。「あ、そうですか、ありがとうございます。はい。はい。いえ、とんでもないです」って言っていれば、入らせないじゃないですか。仲よくなると自然に「何、どうしたのよ!」とか、「何ちゃん、元気?」とか、こっちが心の門を開けば。
(守本)
さらけ出すことが、聞き出すことの、聞くことのコツ…
(小堺)
というか、聞くためには話してもらわなきゃいけないから、こっちが、やっぱ開いてないと、相手も引っ掛かるようなことまで言ってくれないですよ。この人にはここまでだなとか、この人にここから先、話してもたぶん、わかんないなとか思われちゃうと思うんですよ。だから、「ハーイ」ってやっていれば、いいんじゃないかなって。僕でいれば、be myself(自分らしく)でいればいいやっていう。

心をさらけ出す「コサキン」のトーク

心を開いて話を聞く。トークの場に立ち続けてきた小堺さんですが、ことし、『コサキン』で知られる関根勤さんとの番組がポッドキャストで復活しました。心を丸裸にしたトークを満喫する「コサキン」の二人。その楽しさが世代を超えて広がっています。

(関根)
くだらなくなっても大丈夫だなって、小堺くんがフォローしてくれるから。だから今までちょっとやっぱり大人の仮面かぶるじゃないですか、ある程度、年取ってくると、それを外していいなと思うの。ここだと外しちゃおうと思っちゃうの。だから安心してさらけ出せるんですよ。だから、なんていうの、部屋着ね。

「話を聞く」とは 息を吸うこと

(守本)
話を聞くっていう観点でいうと、関根さんっていうのは、どういう相手ですか?
(小堺)
えーとね、こう振ったらこう来るなって、この人はこう来るだろうってパターンがあるじゃないですか。
(守本)
はい。
(小堺)
関根さんはわからないんですよ。
(守本)
今もですか?
(小堺)
はい。
(守本)
えー?
(小堺)
いつ会っても、リニューアルした関根なので。おもしろくてしょうがないんですよ。次、こういったらどうするの、こういったらどうするのが湧いてくるんですよね。
(守本)
湧いてくるんですか?
(小堺)
そう。僕も、僕も湧いてくるんです。関根さんは特別ですけど、聞いていると出てくるってないですか?思い出すとか、そういえばそういうことあったなとか。人の話を聞くっていうのは、割と息を吸う作業かな。
(小堺)
吸うと吐かなきゃいけないでしょ?

(守本)
吸って、出す息がわからないことないですか?天気の話をして終わっちゃったり、「あー、次、何て言おうかな」とか、「相手が言ったこと、共通項がないから何とも返せない」とか。
(小堺)
それは、だって、ありますよ。
(守本)
ありますか。
(小堺)
それはありますよ。でも、それだって会話が途切れることは、僕、普通だと思うんですよ。今、たぶん、途切れないのがバラエティー番組だから、それを見ちゃうと、途切れていると思っちゃうんだろうな。例えば、「あー、いい天気ですよ」、「本当ですね」。ここ、いいんですよ、気持ちが。
ここで、「でも、あれですね、高気圧が来るとか言っていましたけど」っていうのはテレビ用に作ったもので、例えば、僕、トークのネタでよく言うんだけど、みんな、テレビドラマを見て、「家庭って、ああじゃないといけない」と思うから、「うちの家庭は冷たい」と思うんだって。あんなにしゃべるか?うちで、って。
「ただいま」、「おかえりなさい。どうだった?」、「あー、大変だったんだよ」なんて、しゃべんないでしょ?大事な話をするときに、顔を見なかったりするでしょ?そういうことだと思います。
だから、一番いいのは知らないうちに話が始まっているっていうのが、『コサキン』の始まり方じゃないですけど。だから、「息を吸う」ってことは知識をもらったり、「聞く」ってことは知識をもらったり、体の中に新しいものが入るでしょう。
今度は自分の中にあったものを相手に出すときに、たぶん、相手は知らないことが出ているんですよ。だから要するに、ギブ・アンド・テイクですよね。聞かせるんじゃないね。「吸う」ことで聞く、そして、聞いてもらう。聞いてもらうっていうときにね、人間ってオートマチックで、パッパッパッってできるんですよ。
僕、好きな話があってね、ムカデがね、歩いているんですよ、100本の足で。上からスズメが見ていて、「ムカデさんってすごいね」って、「なんで?」って、「その足、よく絡まないね」って言ったら、絡んだっていう話が大好きなんですね。
(守本)
ああー。
(小堺)
だから、そのとき、ちょっといい格好してやろうとか、この人に褒めてもらおうかと思うと、クッ!となるんだよ。だから、考えないほうがいいと思う、僕。考えないってことは、大事だと思います。考えているとね、なんかやっている気がするの。
(守本)
そうか、呼吸しようと思うと、あれ、どうやって吸っていた…。
(小堺)
そう、『北斗の拳』になっちゃいますよ。「お前はもう死んでいる」っていう。
「クゥ、グゲゲ」とかになっちゃいますから。