公共交通再編の国の新制度 全国50以上の鉄道が活用検討や相談

赤字が続く地方鉄道など、公共交通の再編にむけた国の新たな制度が秋から始まります。この制度の活用の検討や相談をしている鉄道の線区が、全国で50以上に上ることがわかりました。

国土交通省は、ことしを「地域公共交通再構築元年」と位置づけ、厳しい経営が続く地方鉄道やバスなどの在り方の議論を促進しようと、法改正や制度改正を進めています。

具体的には、
▽自治体や事業者からの要請で、経営が厳しい鉄道路線の再構築を議論する協議会を国が設置できるよう法改正がされたほか、
▽道路や公園などを整備する地方自治体への「社会資本整備総合交付金」を公共交通を見直す事業にも活用できるよう変更し、いずれも10月から運用が始まります。

再編にむけ、これらの制度の活用の検討や相談をしている鉄道は、7月上旬の時点で、全国のJRや中小の鉄道会社、それに第三セクターで50以上の線区に上っていることがわかりました。

このうち、新たな交付金については、
▽富山県では、JRの氷見線と城端線で新型車両の導入などに活用を目指す方針を示しているほか、
▽滋賀県は「上下分離方式」を導入する近江鉄道の設備更新などへの活用を視野に、沿線自治体と申請に向けた検討を進めています。

国土交通省は、自治体の計画を審査したうえで、9月下旬以降、新たな交付金の対象事業を順次決定していく見通しです。

第三セクターの山形鉄道 技術開発で活路検討

新たな交付金を技術開発に活用して活路を見いだしたいと検討しているのが第三セクターの山形鉄道です。

山形鉄道は、最上川に沿って米沢盆地など、全長30キロ余りを走る「フラワー長井線」を運行していますが、少子化などで利用者数はピーク時の4分の1ほどまで減り、経営難に直面しています。

最近では、設備の老朽化が原因の故障トラブルも起きていて、ことしに入ってからも、地下に埋設された信号に電気を送るケーブルが、老朽化が原因で断線し、5日にわたり全線運休しました。

この山形鉄道がコスト削減のために取り組んできたのが、従来の「地上信号」を人工衛星による位置情報や携帯電話の無線などを活用した「車内信号」に切り替える技術の開発です。

現在、専門家の助言を得ながら、信号メーカーとともに実証実験を繰り返していて、実用化できれば、線路沿いや駅に設置された信号機や、ことし老朽化が原因で断線した電気を流し続けるための地下のケーブルも不要になり、信号設備のコストが半減するとしています。

山形鉄道は、開発中の技術の活用に向けた費用などを確保するため、国の新たな交付金を受けたいと自治体に相談していて、早ければ数年後の実用化を目指しています。

鉄道工学が専門で、助言をしてきた日本大学の中村英夫名誉教授は「地方鉄道をただ残せばいいというのではなく、技術開発で生まれ変わることができると思っている」と話していました。

山形鉄道の押切榮専務は「中小の地方鉄道は、どこも経営難に直面していて限界も感じているが、もし列車制御が車内信号に変えられたらコスト削減につながり、持続可能な運行に向けて期待できると考えている。今回の国の交付金を活用し、実用化につなげていきたい」と話しています。

地元JR線の存廃に住民たちみずから議論始める

新たな交付金に関心を寄せる地域の中には、住民たちがみずからあるべき公共交通を議論し始めたところもあります。

地元のJR芸備線が利用者減少で存廃に揺れている広島県庄原市では、毎月、地元のバス会社やスーパーの関係者、それに住民や高校生も加わり、実際のデータをもとに公共交通の在り方を議論しています。

ことし2月の勉強会では、
▽近隣自治体と行き来するバスの利用者数の推移を、路線や季節ごとに確認したほか、
▽地元の店で使われているICカードの地域性や世代別の利用状況から、交通利便性が客単価や催しへの参加に影響する実情が報告されました。

参加した高校生は「自分が知らなかった街のデータをいろいろ見られ、新しい発見ができてよかった。すごく参考になった」と話していました。

勉強会のメンバーは、公共交通の再構築に取り組んでいる先進地にも訪れ、ヒントを得ようとしています。

6月に訪れたのは北海道上士幌町です。

かつて廃線を経験し、その後も人口減少が続く中で、次世代の技術を活用したまちづくりを目指し、「自動運転バス」の定期運行を去年から始めています。

メンバーたちは、実際に自動運転バスに乗車し、町の担当者から、乗客だけでなく運転手も少なく移動手段の確保が難しい中で、課題解決につながると期待して住民の理解を得ながら自動運転バスを導入した経緯が説明されました。

帯広市のバス会社では、社長から、経営難に直面していた15年前に、住民のニーズを探ろうと個別訪問を行ったところ、「バスの乗り方が分からない」という予想外の声が聞かれ、バスが遠い存在になっていたことに衝撃を受けた話を聞きました。

その後、乗り降りの手順を解説した路線図や、病院などの目的地をわかりやすく表示した時刻表を作成するなどして取り組んだ結果、乗客数と売り上げを回復できた経緯が説明されました。

庄原市のバス会社の男性は「まだまだできることがあると感じました。ニーズや要望を拾い、失敗も覚悟でやっていきたい」と話していました。

庄原市では、この勉強会の提言を受けて、6月から路線バスを予約制の小型バスに切り替えました。

バス停を増やすなど利便性を高めつつ、事前予約がなければ運休となるため、コスト削減につながるとしています。

住民たちの勉強会では、今後も行政と連携しながら議論を重ねてしていくことにしています。

庄原市の出身で、交通政策の専門家として勉強会に参加している呉工業高等専門学校の神田佑亮教授は「採算性とは別に、それぞれの地域で望ましい公共交通の在り方とは何か、幅広くとらえしっかり議論する必要があると感じている。従来のように、あるのが当たり前ではなく、『適材適所』という考えでやっていかないと立ちゆかなくなる時代だと認識しなければならない」と指摘しています。