愛媛特産“はだか麦”のウイスキー そのお味は?

愛媛特産“はだか麦”のウイスキー そのお味は?
各地で「クラフトビール」が誕生し、人気を集める中、その流れはウイスキーにも広がっているようです。愛媛で誕生したのは、専門家でさえ「聞いたことがない」と驚くウイスキー。その原料は愛媛が36年、生産量日本一を誇る「はだか麦」です。いったいどのようなウイスキーなのでしょうか。(松山放送局記者 的場恵理子)

地域を盛り上げたい

ことし6月、愛媛県にある大洲城の天守閣前でウイスキーの試飲会が開かれました。
木のたるから取り出されたのは、こはく色に輝く液体。

「はだか麦」を使ったウイスキーです。
文字だけではお伝えしきれませんが、グラスにそそぐと何ともいえない、甘く、よい香りが漂っていました。

試飲会には、愛媛県の中村知事も参加。
「はだか麦の香りが漂う若々しくてキレのある飲み心地だ。水割りにするとまろやかになるね」と評していました。
このウイスキーを手がけたのは、大洲市の酒店の社長と東温市の農業法人の代表、そして松山市のバーテンダーの3人です。
現在、国内で流通しているウイスキーの主な原料は大麦やトウモロコシで、はだか麦を使ったものはないといいます。

3人はなぜ「はだか麦」でウイスキーを作ることを思い立ったのでしょうか。

その背景には「コロナ禍」があったといいます。

コロナ禍で、愛媛への観光客が減り、飲食店の売り上げも激減する中、「なんとか独自性のある商品を作り、地域を盛り上げることができないか」と考えた末にひらめいたのが、はかだ麦を使ったウイスキーだったのです。

はだか麦の一大産地

はだか麦とは、西日本を中心に古くから作られている麦の一種です。

生産量は愛媛県が36年連続全国1位。
愛媛と聞くとみかんを思い浮かべる人が多いと思いますが、実は「はだか麦」の一大産地でもあるのです。

はだか麦はみそや麦ごはんの材料として使われることが多く、ウイスキーの原料で使われることは専門家でも聞いたことがないといいます。
開発メンバーのひとり、大洲市にある酒店の社長、小谷順一さんは「愛媛で勝負するウイスキーを作るなら、愛媛が日本一を誇るはだか麦しかないと思った」と話していました。
はだか麦でウイスキーをつくることは簡単ではありませんでした。

ウイスキーによく使われる二条大麦と比べると生産量は少なく、専用の設備があるわけでもありません。

そこで3人は、さまざまな穀物を原料にウイスキー造りに取り組む蒸留所が新潟県にあると聞き、共同開発を打診しました。

新潟に何度も通いながら、はだか麦と大麦麦芽との配合などを研究。

試験蒸留を繰り返した結果、今回の試飲会にたどりついたのでした。

気になるお味は…

ほとんどの人が口にしたことがない、はだか麦のウイスキー。

どんな味なのか気になりますよね。

プロジェクトメンバーのひとり、松山市のバーテンダーの高橋宏典さんに改めて詳しく教えてもらいました。

試飲会では、高橋さんはウイスキーがどこまで仕上がっているか、正直不安だったそうです。

なぜなら、ウイスキーは木だるの中で熟成して味がつくられるので、どの程度熟成させるのがベストなのか、未知数だからです。

しかし、たるからウイスキーをすくい上げた時、色味も香りもよい仕上がりだったため高橋さんはほっと胸をなで下ろしたといいます。
「オレンジやきんかんのようなかんきつの香りも感じました」と味の特徴を表現していました。

試飲会の参加者からは「さっぱりした味」といった声や「穀物の香りもして甘みも感じられるウイスキーだ」という声も。

高橋さんは、今回のウイスキーははだか麦がみせる可能性の1つを引き出したにすぎないと捉えています。

配合や熟成度合いによっては、今後さらにリッチでまろやかな味になるかもしれないと期待していました。

あのマッサンも?

ところで、記事の冒頭で、はだか麦のウイスキーは流通していないと説明しました。

しかし、ある人物がつくった可能性があるという資料が残されているのです。

それは、国産ウイスキー作りに尽力した竹鶴政孝さん。

あの“マッサン”です。
ウイスキー文化研究所の代表、土屋守さんによりますと、20代の竹鶴さんがスコットランドで修行中に残したノートのなかに、はだか麦を使ったウイスキーのレシピが記されていたのだといいます。
ただし、今からおよそ100年前の当時、麦の種類が今ほど詳しく分類されていたかどうかはわからず、現在のはだか麦を指しているかどうかは特定が難しいということです。

それでも、土屋さんはマッサンがはだか麦でウイスキーを作った可能性もあると指摘します。
ウイスキー文化研究所 土屋守代表
「竹鶴さんは広島出身。瀬戸内地域で栽培が盛んに行われていたはだか麦を知っていた可能性もある。はだか麦を使ったウイスキー作りも学んだ可能性はありますね」

ブーム到来か

さらに土屋さんが教えてくれたのは、“クラフトウイスキー”のブームです。

地元の麦など穀物を生かし、地産地消のウイスキーを造る。

「クラフトビール」人気の流れがウイスキーにも広がりつつあるのだといいます。
国内では計画段階のものも含めると100か所ほどのウイスキーの蒸留所ができる見込みだそうです。

土屋さんは「地域の素材を生かした特色あるウイスキー作りはまさに今のトレンドで可能性のある取り組みです」と指摘します。

一方、30年以上ウイスキーに携わる土屋さんにとっても、はだか麦を原料にしたものは聞いたことがないとのこと。

初めて聞いた時はびっくりしたそうで、「ぜひ飲んでみたい。興味津々です」と商品化を楽しみにしていました。

今回完成したウイスキーは200リットルのたる2本分。

商品化するにはまだ十分な量ではありません。
小谷さんたち3人は、本格的な製造資金を集めるためにも、ことし秋にクラウドファンディングを行い、その返礼品としてウイスキーを送ることにしています。

今回の取り組みに対し、はだか麦の生産者からの期待も高まっています。

愛媛県によりますと県内のはだか麦の収穫量は、昭和20年代から30年代にかけて10万トンに迫る年もありましたが、去年は4340トンまで減少。

みそや麦ごはんなど以外での、新たな用途での活用が課題となっていました。
プロジェクトメンバーのひとりではだか麦を生産する牧秀宣さんは、「今回の取り組みに大きな可能性を感じる」と話していました。

ウイスキーという未開の分野に1歩を踏み出すことは、農家にとっても希望になっています。

マッサンも造ったかもしれない、はだか麦のウイスキー。

商品化に向け、大きく動き出しています。

はだか麦の一大産地、愛媛の挑戦は始まったばかりです。
松山放送局記者
的場 恵理子
徳島局・松山局を経て8月から大阪局
大阪でまずやってみたいことはから揚げとたこ焼きを食べながらハイボールを飲むこと