パリ五輪まで1年 セーヌ川をきれいにする取り組み進む

開幕まで1年となったパリオリンピックでは、開会式やトライアスロンなどの一部の競技をパリ中心部を流れるセーヌ川で行います。大きな課題となっているのが水質の改善です。パリでは市をあげてセーヌ川を人が泳げるきれいな川にしようという取り組みが進んでいます。

セーヌ川の水質改善の取り組みは、オリンピックの開催が決まったことを受けて始まりました。

パリ市は、日曜をのぞくほぼ毎日、専用の船を出してセーヌ川のゴミの回収を行っています。

清掃はセーヌ川につながる運河でも行われ、1回でおよそ1トン、多いときで2トンのゴミを回収するといいます。

清掃に参加しているダイバーの1人は「きょうは15台ほどの自転車と、同じほどの電動キックボード。その後もテレビやベビーカーなどがありました」と話していました。

パリ市は、こうした取り組みで川のゴミは減り、水もきれいになったとしていますが、課題になっているのが雨だといいます。

市内の下水施設は古く、処理できる容量も小さいため、雨が降ると道路の側溝や下水管から水があふれ、路上のごみや汚れが川に流れ込んでしまうというのです。

このためパリ市は市の中心部に直径50メートル、深さ30メートルという巨大な貯水槽の建設を進めています。

競技用のプール、およそ20杯分にあたる、およそ5万立方メートルの雨水を一時的にためられるということで、その後、ゆっくりとポンプで下水処理場に送る仕組みです。

来年春までの稼働を目指しています。

オリンピックを担当するパリ市のラバダン副市長は、NHKの取材に対し、「貯水槽の建設によって汚い水がセーヌ川に流れるのを防ぐ安全な防壁を作ることができる」と強調しました。

さらにパリ市は、セーヌ川上流の下水処理場に最新の浄水施設を導入するということで、来年の開幕までに競技が安心してできる水準まで川をきれいにできるとしています。

五輪後2025年夏 3つの遊泳場をオープン予定

セーヌ川は前回のパリオリンピックの直前、1923年から遊泳が禁止されています。

ただ、1940年代には市民が遊泳を楽しむ姿が頻繁にみられたといいます。

その後、1960年代にかけても、川岸に設けられた遊泳施設で涼をとる人が多くいましたが、水質の悪化が進むにつれてそうした人の姿は少なくなったということです。

パリ市のイダルゴ市長は、今月9日、「オリンピックのおかげでセーヌ川は遊泳が可能なきれいな川になった」と述べ、これまでの取り組みでセーヌ川の水質改善は大きく進んだとして、オリンピックのあとの2025年の夏に、3つの遊泳場をオープンすると発表しています。

船で暮らす人たちにも協力を要請

パリ市は、セーヌ川の水質改善のため、川で、船で暮らす人たちにも協力を求めてきました。

ほとんどの船が、暮らしの汚水や排水をそのまま川に流していたためです。

その数は、市内でおよそ300隻、近郊を含めるとおよそ1300隻にのぼります。

パリ市は、セーヌ川のすべての港で船の排水を下水管につなぐ施設の整備を進めていて、船のオーナーに対しては、みずからの負担で船に下水ポンプをつけるなどこれに対応するよう要請しています。

また、オリンピックの期間中、一部の船は市の郊外に船を移動するよう求められているということです。

エッフェル塔近くの港で、およそ20年にわたって船暮らしを続けるエルベ・ロマンさんもそうした要請を受けた1人です。

去年、日本円でおよそ250万円をかけて船の工事を終え、来年の大会期間中は5キロ離れた郊外に船を移動させるとしています。

ロマンさんは、「オリンピックでセーヌ川がきれいになるのはすばらしいことだ。私たちも川で泳ぎたいと思っている。オリンピックの成功のために協力するのは当たり前だ」と話していました。