オリンピック 2024 パリ大会まで1年 東京から史上初3年間隔で

オリンピック 2024 パリ大会まで1年 東京から史上初3年間隔で
史上初めて3年間隔で開かれるパリオリンピックの開幕まで7月26日で1年です。

コロナ禍や汚職など、負のイメージがつきまとう東京大会や、ロシアのウクライナ侵攻は、スポーツ界にも波紋を広げ続けています。

来年に迫った“平和の祭典”を目指す選手たちは何を思い、大会は世界にどのようなメッセージを発するのでしょうか。

(スポーツニュース部 取材班)

開幕1年前のパリは今

オリンピック開幕まで1年に迫ったフランス・パリ。
今月、訪れたパリの街は、まだオリンピックムードというわけではありませでしたが、市役所に設置されたオリンピックのモニュメントの前で、写真撮影する人の姿もあり、本番に向けた期待の高まりを感じました。
競技会場周辺の地下鉄やアーバンスポーツの会場となるコンコルド広場では工事が行われるなど、大会への準備も進んでいました。

大会についてパリの人たちに話を聞いてみました。
買い物帰りの男性
「チケットも買っているし楽しみだ。オリンピック以外にもさまざまな文化的イベントも発生するだろうし、今よりもパリが賑わうと思う。全ての人にとって最高だ」
その一方で「街や国にとって無駄な大騒ぎだと思う」と答える女性もいるなど、思いはさまざまなようです。

ホットドッグに肉は無し

前回パリでオリンピックが開催されてから、ちょうど100年に合わせて開かれる来年の大会。

その目指す姿が、今月、パリで開催されたパラ陸上の世界選手権で見えてきました。
キーワードのひとつは“サスティナブル=持続可能”な大会です。

来年のオリンピックでは観客にペットボトルの持ち込みを認めない方針で、それを見据えて、今回の会場でもペットボトル飲料はなく、飲み物は専用のカップに入れて販売され、カップは売店で回収され再利用されていました。
肉を使った食事も販売されていませんでした。

牛のゲップに温室効果ガスの「メタン」が含まれ、地球温暖化につながると指摘されているため、野菜を具材にしたホットドッグという、日本ではあまりお目にかかれないメニューが販売されていました。
運営面も含めて、来年の本番をイメージさせる大会でした。

野球・ソフトボールは除外 新たにブレイキン

来年7月26日に開会式が行われ8月11日までの17日間の日程で行われるパリ大会では、33競技が実施された東京大会から空手と野球・ソフトボールが除外され、新たにブレイキンを加えた32競技、329種目が実施されます。

参加する予定の選手はおよそ1万人。

日本勢は柔道やレスリング、体操といった伝統ある競技に加え、東京大会で注目を集めたスケートボードやスポーツクライミングなどのアーバンスポーツでメダル獲得が期待されています。

進む世代交代

自国開催で、史上最多の58個のメダルを獲得した東京大会のあと、日本は各競技で、世代交代が進みました。
体操界を長年けん引してきた内村航平さんや、卓球の水谷隼さんなどの金メダリストも自国開催の“東京”を花道に競技の一線を退きました。

その一方で、新たな若い選手たちも頭角を現してきています。
レスリングでは、オリンピック3連覇を果たした吉田沙保里さんの連勝記録を塗り替えた、19歳の藤波朱理選手。
スケートボードでは、14歳の赤間凛音選手や13歳の小野寺吟雲選手が急成長を見せました。
スポーツクライミングでは、16歳の安楽宙斗選手がワールドカップで結果を残すなど、10代の選手たちが目覚ましい活躍を見せています。

さらに新たに採用されるブレイキンも日本選手の活躍が期待される競技です。
男子のエース、Shigekix (半井重幸選手)は1年後のオリンピックについて「ブレイキンへの注目度や認知度が高まっているのを感じている。1つの競技として新たなスポーツの形を見せられると思うし、オリンピックに参加するからこそ与えられる影響はあると思う」と意気込みを話しました。

選手選考も本格化

代表選考も本格化しています。
6月、日本選手として最初のパリオリンピック代表内定を決めた、サーフィンの松田詩野選手は、会場となるタヒチに渡り、およそ3週間練習に臨みました。

本番の1年以上前に出場を決めた強みを生かそうと今後も、現地で練習を繰り返すなど、オリンピックを見据えた準備に力を入れる考えです。
サーフィン 松田詩野選手
「タヒチの波は、パワーがまったく違いふだん入っている海とはまったく違うと思った。地元のコーチと一緒に海に入って、波に乗る場所や波の癖を教えてもらいすごく充実していた」
ほかにも柔道や飛び込みでも内定選手が決まり始めていて、来年に向けて代表選手の選考は今後、本格化していきます。

課題はスポンサーや強化費の減少

ただ、東京大会を経て、日本選手を取り巻く環境は厳しくなっています。
NHKが競技団体にアンケートした結果、パリ大会に向けて「課題がある」と答えた団体の8割以上が「スポンサーや強化費の減少」をあげました。

これまでオリンピックで多くの金メダルを獲得してきた「お家芸」と呼ばれる体操も例外ではありません。
日本体操協会によりますと、東京大会後にスポンサー収入が大幅に減少したほか、人件費や大会の開催経費の高騰で2022年度の決算はおよそ2億6500万の赤字に陥りました。

協会は財産を取り崩して補てんする一方、経費を削減するため代表選考大会の1つとして毎年6月に開催していた大会を来年度から秋に行う別の大会と統合することを決めました。

代表選考は従来、年間3つの大会で行ってきましたが、選手にとってはオリンピックの本番1年前に選考対象となる大会が減る異例の事態となったのです。
日本体操協会 水鳥寿思強化本部長
「現状のなかでやるしかない。アスリートが一番大事だというのはもちろんあるが、ある意味、アスリートを守るために変えていかないといけないところはある。形を変えることが必ずしもマイナスにならないような選考の在り方を考えたい」
このほかの競技団体からも、大会への選手派遣を中止したり、合宿を減らしたりしたという回答があり、選手の強化や選考に大きな影響が出ています。

ウクライナ侵攻が影を落とす中で

課題はそれだけではありません。

軍事侵攻を続けるロシアと同盟国ベラルーシの選手をオリンピックに参加させるかどうかについて各競技団体の判断が分かれているのです。
IOCはことし3月、国際競技団体に向けて、両国の選手について「中立」の立場と認められる個人にかぎり、軍の関係者などは認めないなどの条件をつけた上で、国際大会への参加を認めるべきだとする方針を示しました。

ただ、来年のパリオリンピックへの参加の可否については判断を示しておらず、ウクライナオリンピック委員会は、両国の選手の参加が認められた場合、大会をボイコットする可能性を示唆しています。

“ボイコットの可能性”

それが現実味を帯びる事態が、ことし5月の柔道の世界選手権で起きました。

国際柔道連盟が個人の資格としてロシアとベラルーシの選手の出場を認めたことを受けて、ウクライナは世界選手権に代表選手を送りませんでした。
東京オリンピックの女子48キロ級の銅メダリストで、ウクライナを代表するアスリートの1人、ダリア・ビロディド選手などが出場予定でしたが、実現しませんでした。
NHKの取材に応じたビロディド選手は「勝利を目指して多くの練習を積み準備してきたので精神的にも難しいことだった。ただ、ウクライナ代表チームとしてロシアの選手たちと戦わないという判断をしている以上、理解しなければいけない」と選手としての苦しい胸の内を明かしました。

大会後、国際柔道連盟のビゼール会長は「全ての選手が大会に出場できることは当たり前のことだ。私たちの競技には戦争や政治、差別の場所はない」と判断の正当性を強調しましたが、対応の難しさを印象づける結果となりました。

体操や卓球、レスリングなどは両国の選手の参加を認める判断をしている一方で、陸上やバスケットボール、サーフィンなどでは除外を継続する方針を示していて、各国際競技団体の足並みはそろわず、分断が広がっています。

新しい五輪の形を示せるか

混とんとする国際情勢の中で、あと1年に迫ったパリ大会。

オリンピックの歴史に詳しい中京大学の來田享子教授は大会のあるべき姿として次のように指摘します。
中京大学 來田享子教授
「オリンピックは平和な時代を作るために開催されるが、意に反して世界が紛争のなかに大きく巻き込まれて二分され、オリンピックの意味が伝わらない状態にある。本来スポーツには立場に関わりなく、お互いの努力を戦わせ合って認め合うという、勝敗を決める以外の機能がある。スポーツに紛争を止める力はないが、紛争が終わったときに世界がもう1度やり直すときの歩みのきっかけをくれる。それができる大会になるかどうかはオリンピックにとって大きな転機かもしれない」

スポーツ界が向かう未来は

軍事侵攻の影響だけでなく、汚職や不祥事など、スポーツ界の中でもとりわけ、オリンピックを取り巻く負のイメージはいまだに根強く残っています。

ただ、57年ぶりの自国開催のオリンピックが残したのは課題だけではありません。

体操協会では、スポーツを通じた社会貢献でスポンサーに頼らない収益源の確保を目指そうと、オリジナルの体操を考案して、企業から会費をもらう取り組みを始めました。
さらに、地域との関わりを増やすことで財源を確保し、選手の強化につなげようとするハンドボールなど、新たな動きも始まっています。

ハンドボール日本代表の佐々木春乃選手は「東京大会以降の不祥事などでスポーツへの悪いイメージがついたことは残念だが、自分たちも進化しながら新しいやり方に取り組まなければいけない」と話します。

困難な状況に直面しても諦めることなく進化しようとする姿は、スポーツや、アスリートが世界に示してきた、変わることのない価値であり、大切なメッセージです。

来年のオリンピックは“世界が新たな歩みを始めるきっかけ”になるのでしょうか。

開幕は1年後です。
スポーツニュース部 記者
今野朋寿
2011年入局
パリ大会では、バトミントンやフェンシングを担当。推しのアスリートはレッドソックスの吉田正尚選手。
スポーツニュース部 記者
沼田 悠里
2012年入局
パリ大会では体操・パラリンピックを担当。
ジェンダーや環境など社会的な視点でもスポーツを取材。
スポーツニュース部 記者
細井拓
2012年入局
IOCなどオリンピック、パラリンピック関連、陸上取材などを担当。100キロマラソン完走タイムは11時間37分。
スポーツニュース部 記者
古堅厚人
2015年入局
沖縄出身だが指笛は練習中。尊敬する人は具志堅用高さん。