「7職種」で人が足りない!

「7職種」で人が足りない!
「2040年。地域で働く担い手が、全国で1100万人余り不足する」

この予測が出されたのはことし3月。

このうち「生活に欠かせない7職種」はどこで、どれだけ不足するのか。

都道府県ごとの予測が新たに明らかになりました。

建設作業員、ドライバー、介護サービス…。

担い手が不足する中、すでに模索が始まっている地域もあります。

17年後の2040年に地域社会はどうなるのか、最新の予測から考えます。

(「人口減少」取材班)

タクシー運転手が足りない!

「これは休車扱いになっている車です。現状40台くらい休車になっています」

徳島市のこちらのタクシー会社には、配車できないタクシーがずらりと留め置かれています。
原因は、タクシー運転手の不足です。

会社では、4年前、120人近くいた運転手がおよそ40人減少。

もともと運転手は高齢化で減少しているところに、新型コロナが追い打ちをかけ、退職が相次ぎました。

現在は、配車の依頼があっても、断らざるをえないことも増えているといいます。
タクシー会社 岩城雅弘さん
「やるせない。常に使っていただいているお客様にさえも、配車できない。すべてのお客様に対して申し訳ない気持ちでいっぱいです」

“7職種”の担い手不足は?

情報サービス大手の研究機関、「リクルートワークス研究所」はことし3月、2040年に担い手不足が全国で1100万人余りに上るとした予測を公表しました。

研究所は、この「続編」として、地域社会への影響をより詳しく調べるため、生活に欠かせない7つの職種に絞った担い手の不足率の予測結果を、都道府県ごとに新たにまとめました。

7職種は、「輸送」、「建設・土木」、「生産」、「販売」、「介護」、「接客・調理」、「医療」で、その都道府県での将来の労働力の需要と供給をシミュレーションし、どれだけ不足するか予測したのです。
不足率が最も高くなったのは、新潟で42%、次いで京都が41.4%、岩手が40.9%となっています。

これら3つの府県では本来、人手が100人必要なところ、40人余り足りなくなることになります。

21の道府県で不足率が30%以上となっていて、担い手不足の深刻さが一段と浮き彫りとなりました。

一方、東京、神奈川、千葉、大阪の4つの都府県では不足しないとしています。

予測にあたった古屋星斗 主任研究員は、「これまでのような生活を維持するのは難しくなる。都市から地方への移住や、産業間の労働力の移動だけでは解決は難しく、1人の人がさまざまなコミュニティーや会社で活躍できるような社会にしなくては大きな需給ギャップを埋めることは困難だ」と指摘しています。

耐用年数超え 水道管破裂

「水道水が濁っている」

ことし5月。

長野市の上下水道局に住民から通報が寄せられました。

市の職員が確認した所、松代町で地中の水道管が破裂。

その影響で水道管を流れる水の流れが変わり、内部のさびなどが剥がれ落ちて水道水が濁ったとみられています。

影響は約1000世帯に上り、給水車が出動する事態に陥りました。
長野市によると、破裂した水道管は、今から56年前に設置されたいわゆる“老朽管”。

本来、法律で水道管の耐用年数は40年と決められていますが、それを超えていたのです。

厚生労働省によりますと、同様に耐用年数を超えて使われている水道管は、全国で20%を超えています。

原因の1つが、水道管をメンテナンスする職員の不足です。

こうした職員は、今回明らかになった担い手不足の7職種のうち「建設・土木」に含まれます。

1980年の約7万5000人をピークに減少し、今では約4万7000人。

3万人近く減った影響で、“老朽管”の交換や水漏れなどを確認する点検作業などが追いついていないのです。

また、水道管は地面に埋まっているため漏水箇所の発見やメンテナンスには高い専門性が必要で、新たな人材の確保が難しく、育成にも時間がかかるのです。

“宇宙”から地中の漏水箇所発見?

どうすれば私たちの暮らしに欠かせない“水”を守っていくことができるのか。

今、長野市では、“宇宙”から地中にある水道管の漏水箇所を見つけ出す最新技術の活用がスタートしています。

これまで長野市では、管理する約2400キロに及ぶ水道管に異常がないか確かめるには、職員が、地上を歩き、専用の探知機で地中の音を聞き分ける必要がありました。

しかし、イスラエルのIT企業が提供している最新技術を活用し、人工衛星から地面に向けて放射されたレーダーが水に当たった際の動きを解析すると、半径100メートルの範囲で漏水箇所を察知することができます。
1分あたりわずか0.1リットル程度のポタポタと漏れる小さな漏水か所も見つけられるということです。

この技術の活用で、これまで10年かかっていた約2400キロの水道管の点検を2年に短縮。

点検作業にあたっていた人材を壊れた水道管の修理にあてることができるようになりました。
長野市上下水道局水道維持課 和田芳雄課長補佐
「最新技術を活用することで少ない労力で被害が少ないうちに、水道管の修繕ができるようになった。今後、ほかの最新技術も取り入れられないか情報収集して漏水防止に努めていきたい」

「介護」 解決のカギは 高齢者の“お手伝い”

担い手不足が予測される7職種のうち、もっとも深刻だと指摘されるのが「介護」です。

茨城県大子町では、介護の担い手不足をどう解決するか、ある取り組みが始まっています。

7月中旬、町に取材に向かいました。
高齢化率は49%で町民の2人に1人が高齢者という、県内でも最も高齢化が進んでいる自治体です。

この町で、介護施設の担い手不足解決のカギとして期待されているのが元気なお年寄り・アクティブシニアによる「お手伝い」です。

活用したのは東京のIT企業が提供する「スケッター」というサービス。

介護施設のお手伝いをしたい人と施設をマッチングするものです。
施設側は仕事の条件とともにお手伝いが必要な日程をネット上で提示します。

お手伝いをしたい人は事前に登録をしておき、空いている時間があれば応募、お互いの条件があえばマッチングが成立します。

業務内容は、介護福祉士など専門の資格をもっていなくてもできる食器洗いや掃除などの仕事で、事前にメッセージ機能で手伝いの内容を確認することができます。

お手伝いといっても無償ではなく、大子町の場合は、時給にして800円から1000円ほどが支払われます。

町内では、すでに20人ほどが登録をしていて、なかでも多いのが、定年退職後に時間が空いた60代~70代だということです。

2023年1月から半年間、町が導入を希望する介護施設に費用の一部を補助する実証実験を行い、実証が終わったあとも7つの事業所が利用しています。

「人の役に立てる」

「このアルバムかわいいですね、手作りですか?」

テキパキと利用者のシーツを交換しながら笑顔で話しかけているのは、町内に住む吉成惠子さん(70)。
マッチングサービスを使ってお手伝いをしている1人です。

専門の資格はもっていませんが、週に2回ほど、空いている時間を見つけて介護施設でシーツ交換の仕事を手伝っています。

1回2時間の勤務で、2000円ほど報酬ももらっています。

長年、医療事務の仕事をしてきた吉成さん。

定年退職後も、何か地域に貢献できることはないかとさまざまなボランティア活動を行ってきました。

町の高齢化が進む中で、介護施設や高齢者の支援もできないかと考えていましたが、介護福祉士など資格を取得したり、従業員として定時で働くことはハードルが高いと考えていました。

そうした中、町のチラシでこのサービスのことを知り、お手伝いに名乗りを上げました。
吉成惠子さん
「私が空いてる時間でのお手伝いで、やれていることも微々たるものなのかもしれないですけど施設の職員や利用者から『ありがとうございます』と声をかけてもらえると、なんか私は生きてるんだって、すごく人の役にたってるんだなってうれしく感じます」
介護施設の職員
「私たちもシーツ交換を行いたいですが、そこまで手が回らない時もあり、助かっています。吉成さんたちがシーツ交換などの業務を手伝ってくれているおかげで余裕ができ、利用者と話をしたり1人1人に向き合う時間が増えました」
スケッター運営会社「プラスロボ」鈴木亮平社長
「まだまだ元気な高齢者、いわゆる『アクティブシニア』はたくさんいる。バイトでも完全なボランティアでもない、その間にあるちょっとしたお手伝いをしたいって人が潜在的に多くいると思っています。『ここだけ手伝ってくれませんか』とお願いすれば、関われる人の数は圧倒的に増えていく。大子町のように町民全体で介護業界を助け合う仕組みができれば担い手不足の問題を少しずつ解決できるのではないかと思います」

地域の現場で何が

地域の厳しい現実を突きつけた2040年の担い手不足予測。

人口減少と少子高齢化が進む中、担い手の不足も徐々に進行することは避けられない。

地域で何が起きているのか。

担い手不足を乗り越えられるのか。

これからも、現場から取材を続けていきます。
徳島放送局記者
栄久庵 耕児
2009年入局
松山局や国際部などを経て現所属
長野放送局記者
篠田 祐樹
2020年入局
飯田支局担当
長野放送局記者
川村 允俊
2018年入局
警察・司法担当
長野放送局記者
長山 尚史
2017年入局
鳥取局を経て2022年から現所属
水戸放送局記者
住野 博史
2019年入局
県政担当