和歌山 毒物カレー事件から25年 被害者の父親が現場で献花

和歌山市で4人が死亡した「毒物カレー事件」から25日で25年です。事件のあった現場では、一時重体となった被害者の父親が花を手向けて祈りをささげました。

平成10年7月25日、和歌山市園部の夏祭りの会場でカレーライスを食べた小学生を含む4人が死亡し、63人がヒ素中毒になった「毒物カレー事件」では、近所に住む林真須美死刑囚(62)が殺人などの罪に問われ、平成21年に死刑が確定しました。

林死刑囚は無実を訴えて和歌山地方裁判所に再審=裁判のやり直しを申し立て、ことし1月に2回目の請求が退けられましたが大阪高等裁判所に即時抗告しています。

事件から25年となる25日、現場では当時高校2年生で被害に遭い、一時重体となった女子生徒の父親で、被害者の会の副会長を務める杉谷安生さん(76)が訪れ、亡くなった人たちに花を手向けて祈りをささげました。

現場では、事件の翌年から毎年開かれていた慰霊祭が「静かに命日を迎えたい」という遺族の要望で13年前からとりやめとなっていますが、杉谷さんは現場での献花を毎年続けています。

杉谷さんは「事件が起きたのはまだ最近のような感じがします。つらかっただろうし、楽しかった夏祭りでまさかという無念さや苦しさがあり、動機が何であれ許せない気持ちです。こういう事件はあすどこで起こっても不思議ではありません。風化させたくないという気持ちで献花を続けています」と話していました。

「みゆき文庫」生きた証し残したい

「毒物カレー事件」で亡くなった当時、高校1年の鳥居 幸(みゆき)さん(16)は、25年前、同級生と一緒に夏祭りの会場に行き事件に巻き込まれました。

幸さんが通っていた和歌山市の開智高校には、本が好きだった幸さんをしのんで事件のあと、図書室に「みゆき文庫」と名付けられた本棚が設けられ、今も受け継がれています。

本棚の上には、笑顔の幸さんの写真が飾られています。

幸さんは当時図書室をよく利用し、図書委員も務めていました。

幸さんの両親が寄贈した図書券で学校がエッセーや歴史小説などの本を購入していて、はじめは87冊だった文庫には、今ではおよそ460冊の本が並んでいます。

この中には、両親が幸さんの生きた証しを残したいと写真や生前に描いた絵をまとめた本「Time after time」も置かれています。

本には「『みゆき文庫』は幸自身」、「これからも、いつもそこに立って、図書室に入ってくる人たちを笑顔で『おはよう』『こんにちは』と声をかけ、迎えてほしい」と両親の思いがつづられています。

学校では、毎年4月の新入生のオリエンテーションで事件やみゆき文庫について伝えています。

この学校の卒業生で、現在、司書を務める岡崎真優さん(24)も、入学当時にみゆき文庫を通して事件を知ったといいます。

岡崎さんは、司書としてこの学校に戻り、みゆき文庫をこれからも伝え続けようとしています。

岡崎さんは「『みゆき文庫』は、生徒が事件のことを知るきっかけになり、事件を風化させないために、ずっと残していくべきだと思っています。決して、忘れてはいけない事件で、本として残された幸さんの遺志を継いでいきたい」と話していました。