スペインの総選挙は、ことし5月の統一地方選挙で中道左派の与党・社会労働党が大敗し、サンチェス首相が議会を解散したことで行われ、下院350議席が改選されます。
選挙戦では、サンチェス首相が景気の回復やインフレの抑制など経済面の実績をアピールしたのに対し、野党側はサンチェス首相が地方の独立運動に融和的で国の指導者としてふさわしくないなどと訴えてきました。
最新の世論調査によりますと、野党・国民党が第1党になる勢いで、スペインでは5年ぶりの政権交代となる可能性が高まっています。
ただ、国民党単独では下院の過半数には届かず、政権をとるためには、極右政党ボックスと連立を組む必要があると指摘されています。
ボックスは、前回4年前の選挙で第3党に躍進し、今回の選挙では、男女平等への取り組みやLGBTなどの権利拡大に反対し気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱などを訴えています。
スペインで極右政党が政権に入れば、1970年代まで続いたフランコ独裁政権のあと初めてで、国民党が第1党になった場合にボックスと連立を組むかが、焦点となっています。
スペイン総選挙 野党・国民党が極右政党と連立組むかが焦点
スペインで、23日、総選挙が行われます。最新の世論調査では、中道右派の野党・国民党が第1党になる勢いで、政権をとるためLGBTなどの権利拡大に反対し、反移民を掲げる極右政党と連立を組むかが、焦点となっています。
極右政党ボックスとは
極右政党ボックスは、2013年、中道右派・国民党の議員らが離党して結成しました。
党首のアバスカル氏はあごひげとジーンズがトレードマークで、自国第1主義を掲げる姿から「スペインのトランプ」と呼ぶ欧米メディアもあります。
反移民や反イスラム、それに、州の自治権の停止といった地域の独立運動に対する強硬策を訴え、前回2019年の選挙で第3党に躍進しました。
伝統的な文化や価値を守るとして男女平等への取り組みやLGBTなどの権利拡大を否定することなども掲げています。
ことし5月の統一地方選挙では与党・社会労働党が大敗したことを受けて、ボックスは、人口およそ500万の東部バレンシア州など、合わせて3つの州政府で国民党と連立を組んでいるほか、140以上の自治体で単独か、国民党との連立で政権を担っていると伝えられています。
このうちボックスが政権をとった自治体では、LGBTなどの人たちへの支持を示すレインボーフラッグを公共の施設で禁止するところもでています。
ジェンダーめぐる対立
今回の選挙でボックスは、サンチェス政権が重要課題として進めてきたジェンダー政策の転換を声高に主張してきました。
サンチェス政権は、男女の平等を積極的に推し進め、閣僚の半数以上を女性が占めているほか、ことし3月に発表した法案では、来年7月までに、上場企業の取締役の40%以上を女性とするよう義務づけ、内閣の閣僚や地方自治体の行政機関の代表なども、2028年までに40%以上を女性とするよう求めています。
また、医師の診断書などがなくても性別を自己申告で変更できる法律を整備し、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの人たちの権利の保護に取り組んできたとしています。
さらに、力を入れたのが男性による女性への暴力=ジェンダー暴力の根絶です。
SNSも使ってさまざまなキャンペーンを展開し、あらゆる形の男性優位をなくそうと呼びかけてきました。
これに対し、ボックスは、ジェンダー政策の要の役割を果たしてきた政府機関、平等省の廃止を公約に掲げています。
男女の平等は憲法で保障されており、平等省は必要ないという立場で、その予算は司法や教育などほかの政策に回すとしています。
広報担当の幹部、ロシオ・モナステリオ氏は「今のジェンダーに対する狂信的な考え方は正当化されない。社会を分断し憎しみを生み出す」と述べ、サンチェス政権が進めてきた政策は広く見直すと強調しました。
こうしたボックスの主張には、サンチェス政権の取り組みが性急すぎると受け止める人や、「伝統的な家族観」を壊しかねないとする人たちから一定の支持が寄せられています。
ボックスの主張に国政関与阻止へデモも
スペインの平等省の廃止などを掲げるボックスの政権入りに、強い危機感を抱く人は少なくありません。
今回の選挙運動の期間中、スペイン各地でボックスの主張に反発し、国政関与を阻止しようと呼びかけるデモが行われました。
東部のバレンシア州では、人権団体や女性団体などが集会を開き、ボックス反対を訴えました。
集会に参加したピラールさんは、かつて夫から暴力を受け、4年前から平等省の支援の枠組みで保護を受けています。
ピラールさんは「平等省が廃止されれば、自分のような女性たちが支援を受けられなくなる」と述べ、ボックスに強い怒りを感じると話していました。
また、バレンシア州で年間およそ300件にのぼる女性の保護や相談に応じている支援団体の代表は、平等省は、民間の支援団体に寄付金を振り分けるなど財政支援も行っているとしたうえで、「平等省がなくなれば、女性の保護や支援の公的資源もすべてなくなり、女性保護の仕組みが消滅してしまう」と危機感をあらわにしていました。
専門家“スペイン内向きでヨーロッパの右傾化は加速”
ヨーロッパでは、去年10月、イタリアでメローニ首相による右派の連立政権が、北欧のスウェーデンで中道右派の連立政権が誕生したほか、ことし6月には、フィンランドでも中道右派による連立政権が発足しています。
スペインのカルロス3世大学のパブロ・シモン教授は、ヨーロッパの政治が右傾化する傾向を強めていることについて、「ウクライナ戦争の影響に苦しんでいるからだ。経済的な影響が出ていて、多くの国で不安を引き起こしている」と述べ、景気の悪化や物価高などが自国中心の立場をとる右派の台頭につながっているという見方を示しました。
そのうえで、EUやヨーロッパ全体の問題に積極的に関わってきたスペインが内向きになることで、ヨーロッパの右傾化は加速するだろうとしています。
さらに、「ヨーロッパの伝統的なけん引役であるドイツの国力が落ち、イギリスはEU加盟国ではなくなり、こうした国々は、もはや積極的にEUの統合プロセスにはかかわりたくないのだ。もし今回、スペイン政治に変化があれば、EU統合のスピードダウンはまぬがれないだろう」と述べました。