小津安二郎監督の検閲受け一部カットされた作品を復元 上映へ

「東京物語」などの名作を手がけた日本映画の巨匠、小津安二郎監督が太平洋戦争のさなかに発表しながらも戦後、GHQによる検閲を受けて一部のシーンがカットされた作品の復元が行われ、オリジナルに近い形で来月末から開かれるベネチア国際映画祭に出品されることになりました。

小津安二郎監督は「小津調」と呼ばれるローポジションの構図など独自の撮影手法や演出を確立し、1963年に60歳で亡くなるまで、世界的にも高く評価される映画を数多く手がけました。

中でも「父ありき」という映画は、戦時中の日本を舞台に、笠智衆さん演じる教師の男性とその息子の交流を描き、小津監督が唯一、太平洋戦争のさなかに発表した作品です。

終戦後、作品を上映する際にGHQから検閲を受けたため、特定のシーンがカットされたフィルムしか残っていないとみられていましたが、その後、ロシアにある映画の保存機関で検閲前のフィルムの一部が見つかり、日本の国立映画アーカイブで収蔵していました。

こうした中、映画会社の「松竹」などはことし、小津監督の生誕120周年にあわせて、検閲前後のフィルムを4K映像で収録し、カットされたシーンを含めたオリジナルに近い形の作品に復元したということです。

今回の復元版には、主人公の男性が国家や主君への忠義を歌っている「正気歌」を吟じる場面や戦時中、出征する兵士を見送る際によく歌われた「海ゆかば」が流れるエンディングの音楽など、検閲でカットされた内容が含まれています。

映画は来月末から開かれる世界3大映画祭の1つ、ベネチア国際映画祭の過去の名作を上映する部門に出品されるほか、ことし10月には東京国際映画祭での上映も決まっています。

映画の復元に携わった国立映画アーカイブの大澤浄主任研究員は「小津監督が戦時中に戦争とどう向き合い、描いたのかを伝えるこの作品をオリジナルの姿で見てもらうことは意義がある。国籍や年代は関係なく、作品を通じて新しい発見があるのではないか」と話しています。