下請け業者 “車検など強要された”と証言

中古車販売会社の「ビッグモーター」をめぐる問題。
「ビッグモーター」の下請けをしていた洗車業の男性がNHKの取材に応じ、「会社側から従業員らの個人情報を提出するよう求められ、自社で車検を受けるよう言われたり、作業の単価を大幅に下げるよう要求されたりした」などと証言しました。

下請け業者 “利益吸い上げられた上 ひどい扱い”

「ビッグモーター」の関東地方の十数店舗と取り引きがあった下請けの洗車業の男性によりますと、去年、ビッグモーターの複数の店舗の店長から従業員や家族の氏名、所有している車の車種、次の車検の時期など、従業員らの車検に関する情報を提出するよう求められたといいます。

男性は「取り引きと関係がない個人情報だ」として断ったということですが、店長の1人は、会社の上層部からの指示だというLINEの文面を送ってきた上で「すべての取り引き業者に提出してもらいたいなどと、何度も求められた」と証言しました。

その数か月後には「ビッグモーター」で従業員らが車検を受けるよう求められたということで、「“車検をうちに出せ”という口頭での圧力も実際にありました。普通の企業ならありえないことだと思う」と話しています。

また、ことし5月には、洗車の作業の単価を従来の3分の1に下げるように要求され、拒否したところ、ほとんどの取り引きを打ち切られたとしています。

男性は「5年ほど前から、ビッグモーターが自社の利益を優先し、下請け業者を軽視する傾向が強まったように感じている。利益を吸い上げられた上、ひどい扱いを受けた」と話しています。

元社員 “不正は日常的に行われていた”

一方、「ビッグモーター」の工場で勤務していた元社員がNHKの取材に応じ、「車を破損させるなどの不正行為は日常的に行われていた」などと内情を証言しました。

5年ほど前から、ビッグモーターの複数の工場に勤務していたという元社員は、働き始めた当時から、周りの社員が修理で預かった車のヘッドライトを根元から折ったり、もともと傷ついてはいない車の側面にチョークで線を引き、傷があるように見せかけて写真を撮ったりするなどの行為を、たびたび目にしていたといいます。

車のフロント部分にある機器を強く押して、破損させるなどの不正も見たことがあると話しました。

車1台当たりの修理や部品の取り付けによる利益は、社内で「@」(アット)という隠語で表現され、店舗ごと、1台当たりの平均でおよそ14万円という厳しい目標金額が設定されていたということです。

月に1回、各店舗の工場長らを集めて開かれる会議では、店ごとの売り上げ成績が共有され、利益の上がっていない店舗は会社の幹部から厳しく責められたということです。

元社員は「厳しいノルマを課されて判断がおかしくなっていた。成績が悪いと降格させられ、降格すると給料は半分になった。降格させられないように社員は皆必死だった」などと振り返りました。

社長は社員に “不適切”なメッセージ

さらに、新たな事実が。
「ビッグモーター」の兼重社長が19日までに一部の社員に送ったメッセージには、「メディアの常として、全社員の2%に満たない一部の社員の過去の不祥事でも、世間の関心を集めるために、会社全体の組織ぐるみだと決めつけて報道しています」などと書かれていたことがわかりました。

このメッセージについて兼重社長は、NHKの取材に文書で回答し、「現場の社員を激励するために私が送ったものだ」とした上で「不適切な内容が含まれていることについて猛省しています」とコメントしています。

一連の不正が組織的に行われていたかどうかについて、外部の弁護士でつくる特別調査委員会は、「社長や副社長などの経営幹部は不適切な行為が行われていたことを全く知らなかったと弁明している」としています。

そして、「経営陣がどの程度把握・認識していたかは定かではないが、少なくとも経営陣からの指示等により組織的に敢行されていたとの事実は認められなかった」と報告しています。

会社はこれをふまえ、17日までに複数の損害保険会社に対し、「特別調査委員会の報告では、少なくとも経営陣の指示により組織的に敢行されてきた事実までは認められなかった」などと説明していました。

ただ、一連の不正行為が発覚してから会社は一度も会見を開いておらず、不正を見逃した原因や責任について経営陣が対外的にどう説明するのかが焦点となります。

兼重社長 “信頼回復を果たすことが みずからの経営責任”

兼重宏行社長はNHKの取材に対し、特別調査委員会から指摘された一連の不正行為について、「今回の事態について、極めて重く受け止めており、お客様はじめ関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。創業者として責任を果たすため、自身に対する処分を決定いたしました。特別調査委員会に提言いただきました組織風土改革をはじめとする再発防止に全力で取り組んでまいります」としています。

その上で、18日に発表した報酬の1年間返上の処分で経営責任をとったと考えるかという質問に対して、兼重社長は、「経営責任は組織風土改革をはじめとする再発防止策を通じた社会からの信頼回復を果たすことと考えております」と述べています。

一方、顧客への対応について兼重社長は「不適切行為が認定された保険金請求については、速やかにお客様にご連絡させていただき、再修理及び返金を行ってまいります」としています。

国交省がヒアリングへ

松野官房長官は、20日午後の記者会見で「外部の専門家からなる特別調査委員会から、自動車保険の請求で不適切な行為があったとする報告書を受領し、公表したものと承知している。道路運送車両法違反の可能性があることから国土交通省が会社からヒアリングを行う方向で調整している」と述べました。

この問題、NHKでは取材を続けていきます。
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