“中国の日本産食品輸入規制 早期撤廃を求めていく” 官房長官

福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出する計画をめぐり、中国で日本産食品の輸入規制を強化する動きがみられることについて、松野官房長官は、安全性は科学的に証明されていると反論し、規制の早期撤廃を求めていく考えを強調しました。

東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水を基準を下回る濃度に薄めて海に放出する計画をめぐり、中国では税関当局が日本から輸入する水産物などについて放射性物質の検査を厳しくする方針を示すなど、日本産食品の輸入規制を強化する動きがみられます。

松野官房長官は、午前の記者会見で「日本から中国への水産物輸出の一部が現地の通関に留め置かれているといった報告を受けており、政府として詳細な状況を確認しているところだ」と述べました。

そのうえで「政府としては引き続きIAEA=国際原子力機関の包括報告書の結論を踏まえ、高い透明性を持って国際社会に丁寧に説明していく考えだ。日本産食品の安全性は科学的に証明されており、輸入規制を早期に撤廃するよう今後もあらゆる機会を通じて中国側に強く働きかけていく」と強調しました。

“輸出滞っている”農水省へ相談相次ぐ

中国政府は、福島第一原発にたまる処理水を基準を下回る濃度に薄めて海に放出する計画に反対する立場を繰り返し示していて、今月7日には、日本から輸入する食品について「100%の検査」を行うとして規制強化を示唆しています。

農林水産省によりますと、中国政府が規制強化を示唆して以降、日本から輸出した水産物が、中国各地の税関当局で、従来より長い間、検査のために留め置かれ輸出が滞っているという相談が相次いでいるということです。

具体的には、日本の輸出業者から、冷蔵品の場合2週間程度、冷凍品の場合1か月程度検査にかかる見込みだと聞いているということです。

中国は日本にとって水産物の最大の輸出相手国で、去年1年間の輸出額は871億円に上り、品目別では、ホタテ貝が最も多く467億円、続いてナマコが79億円、カツオ・マグロ類が40億円などとなっています。

農林水産省は「冷蔵の水産物は、日持ちがしないため、長い間、税関に留め置かれると実質的に輸出できないことも懸念され、実態の把握に務めたい」としています。

日本産食品の輸入規制強化 魚市場や日本料理店などに影響

中国では、日本産食品の輸入規制を強化する動きがみられ、魚市場や日本料理店などにも影響が出ています。

このうち、南部広東省 広州にある水産業者が集まる魚市場では、中国国内だけでなく、欧米やアジアなど各国から輸入される水産物が数多く販売されていて、中には、フランス産のロブスターや韓国産のかきなどもみられます。

市場関係者によりますと、これまで市場には、日本産の水産物も多く入ってきていたということですが、1週間ほど前からほとんど入らなくなったということです。

魚市場に出入りする業者の男性は「日本産は輸入できなくなっている。詳しい原因は分からず、正式な通知を待っている状態だ」と話していました。

影響は、中国で人気のある日本料理を提供する飲食店にも広がっています。

このうち、広州市内にあるすし店では、これまで食材の9割以上を日本産に頼っていましたが、先週ごろから仕入れが難しくなり、中国産の食材に切り替えたということです。

この店では、これまでどおり、すしなどを提供していますが、中国産の食材では、鮮度や品質の面でばらつきが懸念されるということです。

すし店を経営する伊藤満さんは「中国には魚をしめる技術がないので、入荷しないと鮮度がわからない。日本産は鮮度が安心できるので、特にすしの専門店など鮮魚を使う店にとっては厳しい状況だ」と話していました。

日本の水産加工会社も影響を懸念

中国に輸出するホタテを扱う北海道根室市の水産加工会社からは今後の影響を心配する声が上がっています。

ホタテは北海道のオホーツク海側を中心に盛んに水揚げされていて、北海道から中国に輸出される主要な水産物となっています。

根室市の水産加工会社「山十前川商店」では、20日もオホーツク海側からおよそ10トンのホタテが運ばれトラックから次々とおろされていきました。

この会社では、近年は中国向けを中心とした輸出が、取扱量全体の5割ほどを占めていましたが、中国経済の不透明感や処理水への懸念などを背景に、ことしは4月から注文が減っているということです。

水産加工会社の宮崎征伯社長は「われわれも処理水の問題がどういうふうになっていくのか全然わからない。国内での消費を増やしていくことも重要だと考えている」と話していました。

他産地の中国向けホタテが行き場失い競合を懸念

宮城県産のホタテの輸出を手がける石巻市の水産加工会社は、アメリカや台湾などの中国以外の新たな販路を開拓して販売してきました。

今回、中国が規制強化を示唆したことを受けて、これまで地道に開拓してきた市場で、行き場を失ったほかの産地のホタテと競合することを懸念しています。

水産加工会社「ヤマナカ」の千葉賢也社長は「ホタテの生産量の多い産地と価格で勝負することは難しいので、売り方を工夫していかなければならない。不安は大きいが糸口が見つかるよう模索していきたい」と話していました。

中国外務省の報道官 対応を正当化

中国で日本産食品の輸入規制を強化する動きがみられることについて、中国外務省の毛寧報道官は20日の記者会見で「われわれは人民の健康と海洋環境に責任を負わなければならない。日本の放出計画に反対するのにも関連措置をとるのにも十分な根拠がある」と述べ、中国側の対応を正当化しました。

そのうえで「日本は放出計画を強引に推し進めるのをやめ、誠実な態度で周辺国と十分な協議を行うよう求める」などと重ねて強調しました。