“宿題は原則なし”一体なぜ?取り組みを始めた学校のねらいは

まもなく夏休みという子どもたちも多いと思いますが、これまで当たり前のようにあった夏休みの宿題をなくす小学校が出てきています。

その学校では絵日記も読書感想文も自由研究も、一律には求めないといいます。

一体なぜ?子どもたちへの影響は?さまざまな疑問を解消するため、実際に学校現場に行って聞いてきました。

今年度から宿題を原則「なし」に

東京・新宿区にある区立西新宿小学校は、今年度から宿題を原則なしにしています。

夏休みについては、低学年の植物の観察を除いて「なし」とされ、昨年度までは提出させていた絵日記や読書感想文などもなくしました。

目的は「子どもたちの主体性を伸ばすこと」

この取り組みの目的は、子どもたちの主体性を伸ばすこと。宿題の代わりに読書や自由研究、体力づくりなど自分でテーマを見つけて、計画を立てて取り組むように呼びかけています。

取り組みを始めた長井満敏校長は、20日に行われた終業式で、「この夏休みは学校で特に宿題は出しません。学校からの課題はありませんが自分で目標を決めて充実した35日間にしてください」と呼びかけていました。

その後、6年生の教室で行われた学級指導では、宿題に代わる取り組みの参考例が担任から紹介され、子どもたちはそれぞれメモをとっていました。

女子児童は「宿題がなくなって、自分の好きなことに時間を使えるようになったのでいいと思います。私は将来海外で働くことが夢なので語学勉強などに励みたいです」と話していました。

男子児童は「塾に通っているので宿題があると午後10時以降に取り組まなければならず、睡眠時間を奪われていました。宿題がなくなって最初は大丈夫かなと心配でしたがだんだん慣れてきました」と話していました。

また別の男子児童は「宿題がない分ほぼ自由なので、スマートフォンのゲームやSNSに使う時間がこれまでの倍になり、1日3時間ぐらい費やしてしまっています。ゲームの時間が自然に増えてしまうので、気をつけていきたい」と話していました。

宿題や通知表 定めなく各学校の判断

この学校では目先の評価にとらわれないようにと、今年度から「通知表」も廃止しました。

文部科学省によりますと、宿題や通知表は法律や学習指導要領上、定めがなく実施するかどうかも含めて各学校の判断に任されていて、こうした学校がどれくらいあるかは把握していないということです。

西新宿小学校の長井校長は「これまで当たり前にやってきたことを、見直す必要があると思う。学校では一律の宿題を出すことが多かったと思うがそこに合わない子も増えてきているので、これからの時代は、より一層、子どもたちが自分で課題を見つけて取り組むことが必要になるのではないか」と話していました。

教員の長時間勤務の抑制にも

宿題をなくす取り組みを始めたきっかけの一つが、「教員の長時間勤務」の問題だったといいます。

文部科学省が昨年度に行った勤務実態調査の速報値によりますと、国が残業の上限としている月45時間を超えるとみられる教員が、中学校で77.1%、小学校では64.5%に上っています。

西新宿小学校では昨年度、月45時間を超えて残業した教員が6月までにのべ8人いましたが、宿題をなくした今年度は、2人にまで減少しています。

特に、管理職を除くと4割を占める20代の若手教員にとっては、長時間勤務が多くなる傾向にあったため、取り組みの効果は大きいと言います。

教員3年目で6年の担任を務める皆川侑也教諭(25)は、宿題が見直されたことで丸付けなどの対応が不要になり、その分、授業の準備や子どもたちと向き合う時間にあてられるようになったと感じています。

会議の削減など働き方改革の効果もあって、月当たりの残業時間は昨年度と比べて1か月当たり20時間程度、削減できたといいます。

皆川教諭は「これまで以上に子どもとのコミュニケーションがとれたり休み時間一緒に遊べたりするのはとてもうれしいです。時間的な余裕が、心の余裕にもつながっていると感じています」と話していました。

宿題をなくすことに保護者は…

今月11日に行われた6年生の保護者会では、学校側が宿題をなくすなど、一連の取り組みについて説明しました。

宿題をなくすという取り組みについて、保護者からはさまざまな声が上がっています。

参加した保護者は、「通知表や宿題はあるものと思っていたのでびっくりしましたが、子どもと一緒に頑張って取り組んでいきたいと思っています。自分も忙しくなると子どもに声がかけられないときもあるので、そうしたときが心配です」と話していました。

別の保護者は「子どもたちの自立する力を養う取り組みで賛成していますが、全く勉強しない子と塾に通っている子で、学力の差が出てきていると思います。今まで学校に任せていた分も保護者が担うようになり、親としてのプレッシャーは増えてきたと感じます」と話していました。

また別の保護者は「宿題がなくなってからゲームをしたり自分が好きなことをやってしまっている様子がみられるので、やっぱり宿題があったほうが何かしらメリハリがつくのかなとは思います。ただ、学校の先生方も大変そうなのでこうした取り組みが、子どもたちにも先生にもよい方向に進めばいいなと感じています」と話していました。

専門家 “取り組みは評価 学びに差がでる可能性も”

学校現場の実態に詳しい教育研究家の妹尾昌俊さんに聞きました。
前例にとらわれない取り組みを評価する一方で、注意すべき点もあると言います。

Q.宿題をなくす取り組みについてどう考えるか。

A.さまざまな個性がある子どもがいる中で、これまでの宿題のあり方を見つめ直し、自主的に課題を見つけたり取り組んだりする学びに転換していくことはよいことだと思う。
教育の現場は前例踏襲になりやすいので、教員の時間の使い方や子どもたちのよい学びのために学校のあり方をアップデートしていかないといけない。
そうしないと、教員を目指す若い人たちにとって魅力的に映らないのではないか。

Q.子どもへの影響など、注意すべき点は?

A.宿題をなくすと家庭の状況によって子どもの学びや質に差がでる可能性がある。
低学年など発達段階によっては宿題をすべてなくすことには慎重であるべきだ。
1人1台端末の整備などで学びの方法が多様化したとはいえ、自分では動機づけや継続ができない子もいる。
教員が相談に乗ったり教材を紹介したりするなど子どもの個性や特性に応じた支援の方法を考えていくことが必要だ。