“梅王国” 和歌山 産地で何が起きている?

梅の一大産地として有名な和歌山県。その収穫量は全国の67%を占め、圧倒的な地位にある。そんな「梅王国・和歌山県」でいま、産地を揺るがしかねない問題が広がっている。それが梅の収穫面積の減少だ。日々の食卓を潤す梅をめぐって、産地でいったい何が起きているのか。
(和歌山放送局記者 福田諒)
(和歌山放送局記者 福田諒)
梅王国・和歌山県
鈴なりに実った梅。
和歌山県では今月上旬ごろまで梅の収穫が行われていた。
和歌山県では今月上旬ごろまで梅の収穫が行われていた。

そもそも和歌山県の梅栽培は、400年ほど前の江戸時代にさかのぼる。
当時の紀州藩・田辺領の家老、安藤直次が、やせた土地を有効利用しようと栽培を奨励したのが始まりだ。
税を免除し、保護政策をとり、梅栽培が広がった。その後、品種もどんどん改良されて梅の主力品種となったのが「南高梅」。
肉厚で皮が柔らかいのが特徴だ。
梅は、収穫のタイミングによって、熟し具合が変わる。そして、さまざまな用途に使うことができる。
青い実は、梅酒や梅ジュースに。黄色く色づいた完熟した梅は、梅干しやジャムなどに加工される。
当時の紀州藩・田辺領の家老、安藤直次が、やせた土地を有効利用しようと栽培を奨励したのが始まりだ。
税を免除し、保護政策をとり、梅栽培が広がった。その後、品種もどんどん改良されて梅の主力品種となったのが「南高梅」。
肉厚で皮が柔らかいのが特徴だ。
梅は、収穫のタイミングによって、熟し具合が変わる。そして、さまざまな用途に使うことができる。
青い実は、梅酒や梅ジュースに。黄色く色づいた完熟した梅は、梅干しやジャムなどに加工される。
初夏、梅の収穫は、どうやって行われるのか、ご存じだろうか。
農家はこの時期、梅の木の下にネットを敷き詰める。
そして、完熟してネットの上に落ちてきた実をたもですくって梅を集める。
農家はこの時期、梅の木の下にネットを敷き詰める。
そして、完熟してネットの上に落ちてきた実をたもですくって梅を集める。

落ちた梅は、腐らないよう毎日拾う必要がある。
強い日ざしが照りつけるなか、早朝から晩まで続く「梅拾い」は大変な作業だ。
人手が足りず、多くの農家はアルバイトを雇って収穫の手伝いもしてもらっている。
こうして収穫された和歌山県の梅は、去年6万4400トンに及んだ。
強い日ざしが照りつけるなか、早朝から晩まで続く「梅拾い」は大変な作業だ。
人手が足りず、多くの農家はアルバイトを雇って収穫の手伝いもしてもらっている。
こうして収穫された和歌山県の梅は、去年6万4400トンに及んだ。

これは、58年連続で全国1位だ。
しかし、この梅の一大産地を揺るがしかねない問題が、少しずつ広がっていた。
しかし、この梅の一大産地を揺るがしかねない問題が、少しずつ広がっていた。
梅の収穫面積 減少続く
「2年ほどでこういう状態になります」
和歌山県でも有数の梅の産地、田辺市。
梅農家の瀧本和明さんに案内してもらい、親戚のものだという梅農園を見に行った。
急しゅんな山の斜面にある梅農園。
よく見ると、梅の木につたが絡まっている。
和歌山県でも有数の梅の産地、田辺市。
梅農家の瀧本和明さんに案内してもらい、親戚のものだという梅農園を見に行った。
急しゅんな山の斜面にある梅農園。
よく見ると、梅の木につたが絡まっている。

辺りは雑草や雑木が生い茂っていた。
まさに梅の耕作放棄地だ。
放棄地は、山の尾根の向こう側の急斜面にも広がっていた。
見るも無残な姿だ。
まさに梅の耕作放棄地だ。
放棄地は、山の尾根の向こう側の急斜面にも広がっていた。
見るも無残な姿だ。

農園の持ち主は高齢で、3年前に栽培をやめ、荒れたまま放置してしまったという。
高齢化が進む梅農家。70代や80代ということも少なくない。
一方で梅栽培は、炎天下の梅拾いだけでなく、草刈りや枝の間伐などの作業も過酷だ。体力勝負の面が否めない。
こうした作業に限界を感じ、少しずつ収穫面積を減らしたり、栽培そのものをやめたりする人が増えているという。
高齢化が進む梅農家。70代や80代ということも少なくない。
一方で梅栽培は、炎天下の梅拾いだけでなく、草刈りや枝の間伐などの作業も過酷だ。体力勝負の面が否めない。
こうした作業に限界を感じ、少しずつ収穫面積を減らしたり、栽培そのものをやめたりする人が増えているという。
和歌山県内の梅の収穫面積が、ここ数年どうなっているのかをみてみた。

すると、平成26年の5140ヘクタールをピークに、去年まで8年連続で減少している。
県によると、とくに急傾斜地の梅農園で収穫を取りやめる例が多いという。
県によると、とくに急傾斜地の梅農園で収穫を取りやめる例が多いという。
収穫ネットを敷いたり、草刈りをしたりする作業が大変で、高齢の農家が栽培を続けることができないためだ。

農家 瀧本和明さん
「木になった梅を1粒1粒収穫する際に、高齢になると脚立から落ちる危険性があります。体力的に厳しくなってくると、作業のやりにくいところでは梅の収穫をやめていくことになる」
「木になった梅を1粒1粒収穫する際に、高齢になると脚立から落ちる危険性があります。体力的に厳しくなってくると、作業のやりにくいところでは梅の収穫をやめていくことになる」
木を低くして効率化
高齢者でも管理しやすい栽培方法はないのだろうか。
みなべ町にある県の「うめ研究所」では、農家の高齢化に対応した新たな栽培方法を確立、普及に乗り出した。
通常4メートルほどの高さまで成長する梅の木。
人の背丈に比べて大きく、栽培は何かと大変だ。
そこで、研究所は、幹を伐採して2メートル40センチほどに低くするという、新たな栽培方法を編み出した。
みなべ町にある県の「うめ研究所」では、農家の高齢化に対応した新たな栽培方法を確立、普及に乗り出した。
通常4メートルほどの高さまで成長する梅の木。
人の背丈に比べて大きく、栽培は何かと大変だ。
そこで、研究所は、幹を伐採して2メートル40センチほどに低くするという、新たな栽培方法を編み出した。

平均的な成人男性が、手を伸ばせば木全体に手が届き、脚立を使う手間がなくなる。
そして安全に収穫もできるようになる。
しかし、木が小さくなると、その分、収穫量は落ちてしまうことが懸念される。
そこで研究所では、収穫量確保の策も考えたという。
そして安全に収穫もできるようになる。
しかし、木が小さくなると、その分、収穫量は落ちてしまうことが懸念される。
そこで研究所では、収穫量確保の策も考えたという。

うめ研究所 綱木海成 研究員
「本来なら実が付かない枝を、人工的に実のつく枝に変えてしまう方法があります」
「本来なら実が付かない枝を、人工的に実のつく枝に変えてしまう方法があります」
収穫アップの意外な方法
短い枝に実をつける習性がある梅の木。
4月から5月にかけて長く伸びる枝を、10センチ程度に短く刈りそろえると、通常実がつかない枝にも、実がつくことがわかった。
4月から5月にかけて長く伸びる枝を、10センチ程度に短く刈りそろえると、通常実がつかない枝にも、実がつくことがわかった。

実験では、この方法で木を小さくしても、収穫量は翌年から増え、4年目には、通常の木に比べて1.6倍の収穫量を得られるようになったという。
不作の影響も受けにくくなり、収穫量が安定することも確認。
農作業の省力化とともに、収穫量も大幅に高めることに成功したのだ。
不作の影響も受けにくくなり、収穫量が安定することも確認。
農作業の省力化とともに、収穫量も大幅に高めることに成功したのだ。

和歌山県で、この栽培方法を取り入れているのは、まだ収穫面積全体の0.4%にすぎない。
県は各地に、効果を実証する農園を設けて、新たな栽培方法の普及に挑もうとしている。
県は各地に、効果を実証する農園を設けて、新たな栽培方法の普及に挑もうとしている。
うめ研究所 綱木海成 研究員
「梅の収穫面積が減っていく中で収穫量を維持する方法の1つとして使ってほしいと思います」
「梅の収穫面積が減っていく中で収穫量を維持する方法の1つとして使ってほしいと思います」
梅農家の苦悩と喜び
7月、私も、みなべ町の知り合いに誘われて梅の収穫を体験してみた。
右手のひしゃくですくった梅を、左手のたもに入れる。
たもがいっぱいになると、腰に結び付けたたらいに入れていく。
午前8時すぎから梅を拾い集め、ネットの上を移動していると、5分もしないうちに全身から汗が噴き出した。
右手のひしゃくですくった梅を、左手のたもに入れる。
たもがいっぱいになると、腰に結び付けたたらいに入れていく。
午前8時すぎから梅を拾い集め、ネットの上を移動していると、5分もしないうちに全身から汗が噴き出した。

私が梅の収穫をしたのは、ゆるやかな傾斜の農園だったが、梅が集まるにつれ、重くなるたらいをひっぱってトラックまで何往復もするのは、想像を超える重労働だった。
梅農家の苦悩と厳しさを実感した。
しかし重労働を終えて、農家が漬けた自家製の梅干しを食べさせていただくと、疲れがす-っと引き、収穫の喜びも感じることができた。
梅雨明け後、梅の天日干しも始まる。
手間隙かけて1粒1粒作られるおいしい梅干しが、これからもおいしく食べられることを願いながら、産地の動きや課題を今後も追っていきたい。
梅農家の苦悩と厳しさを実感した。
しかし重労働を終えて、農家が漬けた自家製の梅干しを食べさせていただくと、疲れがす-っと引き、収穫の喜びも感じることができた。
梅雨明け後、梅の天日干しも始まる。
手間隙かけて1粒1粒作られるおいしい梅干しが、これからもおいしく食べられることを願いながら、産地の動きや課題を今後も追っていきたい。

和歌山放送局記者
福田 諒
2018年入局
県政キャップ
和歌山で食べた「梅酢をつけた焼き鳥」がお気に入り
福田 諒
2018年入局
県政キャップ
和歌山で食べた「梅酢をつけた焼き鳥」がお気に入り