日本酒に魅せられて アメリカでSAKEブーム!?

日本酒に魅せられて アメリカでSAKEブーム!?
アメリカで今、日本酒人気が高まっています。

香りのよさや繊細な味わいにひかれる人が増えているというのです。なかには、日本酒に魅せられ、故郷のコメと水を使って酒造りに乗り出したアメリカ人も。“SAKEブーム”とも呼ばれる動きを現地で追いました。
(アメリカ総局記者 江崎大輔)

日本酒バーの常連客はアメリカ人

「SAKEが大好きなんだ。さまざまな種類の味を楽しめるので」

5月上旬、取材で訪れたニューヨークのバーの男性客は笑顔でこう話してくれました。
この店は2年前にオープンした日本酒バーですが、店内を見回しても日本人はいません。

グラスの日本酒をたしなむ常連客は、ほぼ地元のアメリカ人。

アメリカの日本酒人気を実感させられました。

店のオーナーによると、最近は日本酒独特の繊細な味わいを求めて来店する客が増えているといいます。
バー経営 オースティン・パワーさん
「アメリカでのアルコールの消費傾向は、ビールなど香りが濃厚な迫力ある飲み物から微妙で繊細な飲み物に移っている。日本酒に関心のある客が多く来るようになって、SAKEの市場は拡大していると思う」

日本酒の輸入増加 相次ぐ酒蔵建設

日本酒はアメリカでどれくらい親しまれているのか。

アメリカのアルコール市場における売り上げのシェアは、ビールとワイン、ウイスキーを合わせると6割を占めるのに対し、輸入された日本酒のシェアは、わずか0.2%にとどまっていると言われています。

日本酒がアメリカのふだんの料理とともに、飲む酒として定着していないことが要因と指摘されています。
ただ、アメリカの日本酒輸入量に目を向けると、2022年は約900万リットルと、10年前の2倍以上に増えています。
こうした中で、アメリカでの需要はさらに伸びるはずだと、現地では酒蔵を造る動きが目立つようになっています。

ことし「獺祭」で知られる山口県の旭酒造がニューヨーク州に酒蔵を建設しました。
北米酒蔵同業組合によると、アメリカに建設された酒蔵の数はすでに20を超えているということで、現地の有力紙も“SAKEブーム”が起きていると伝えています。

アーカンソー州を“SAKEのナパ”に

こうしたブームで注目されるのが、アメリカ人が地元でつくるアメリカの風土に根ざした“SAKE”です。
南部アーカンソー州には、アメリカの酒造会社が新たに建設した酒蔵があると聞き、現地を訪ねました。
酒蔵は敷地面積が約2200平方メートル。

建物の中に入ると、会社のロゴマークの折り鶴のイメージが描かれた巨大なタンクがいくつも並んでいます。
案内してくれたのは、副社長のベン・ベルさん。

地元出身で、16年前に日本酒を飲んで、その品質の高さに強くひかれたことがきっかけで、その後、岩手県の酒造会社で2年間、修行しました。

帰国して目をつけたのがアメリカ最大のコメの生産地であり、酒造りに向くとされる鉄分の少ない水に恵まれた故郷でした。

5月から酒造りをスタートさせ、できあがった酒は「千羽鶴」と名付けました。
地元産の酒米を使い、甘さと酸味のバランスを取るのに苦労しながらも、フルーティーな味わいに仕上げました。

銘柄やロゴマークに鶴を採用したのは、折り鶴を作るのに必要な繊細さが酒造りにも通じるからだというベルさん。

アーカンソー州を将来、SAKEの名産地にしたいという夢をもっていて、年間50万リットルの生産を目指しています。
オリガミサケ ベン・ベル副社長
「酒蔵に来た人はその大きさに驚くが、酒の需要がアメリカや世界各地で拡大すれば供給にはこの規模が必要になる。将来、アーカンソー州に多くの酒蔵ができることを期待している。高品質の酒をつくって、さまざまな酒蔵ができれば、ここはアメリカのワインの名産地ナパのようになる」

日米の酒蔵がタッグを組む例も

日本とアメリカの酒蔵が協力してより質の高い酒造りに取り組み、協業を深めるケースも出てきています。
2021年12月「八海山」で知られる新潟県の酒造会社はニューヨークの酒造会社と資本業務提携を結びました。

ニューヨークの会社は、新潟県の会社から蔵人の派遣を受けるなどして醸造のアドバイスを受け、今後は生産量を今の約10倍にしようと酒蔵の拡張工事を進めています。
新潟県の会社はアメリカ人がアメリカで地元のSAKEを生産し、その販路を広げることが、アメリカでの日本酒の普及につながると期待しています。
八海醸造グループ 根岸修一さん
「ローカルに根ざした酒造りが本格化している。熱意を持った作り手が客に直接語りかけるのが重要で、日本酒というのは大きな可能性を秘めてくるのではないかと思う」
ブルックリンクラ ブライアン・ポーレン社長
「資本業務提携には多くのポジティブな要素があり、一緒に仕事したり、アドバイスを受けたりするだけでも十分だ。私たちはSAKEの枠組みを変え、SAKEを日本国内だけでなく、世界的に盛り上げたいという野望を持っている」

“SAKE”がアメリカでもっと飲まれるために

取材を通じて感じたのは
「SAKEをアメリカ人にもっと飲んでもらいたい」
「世界中でさらにSAKEを普及させたい」
というアメリカの作り手の熱い思いでした。

それが近年の“SAKEブーム”の原動力になっているのかもしれません。

アメリカの日本酒の市場シェア拡大には、現地に根ざした酒が親しまれ広がっていくことが重要です。

アメリカでは、酒は日本料理やすしを食べるときに飲むものと考えている人が少なくありません。

アメリカの酒蔵でつくる団体は、酒がアメリカの料理と相性がよいことを伝えていくことが大切だと話しています。
北米酒蔵同業組合 ウェストン・小西さん
「専門家がアメリカでSAKEがどのようなものなのか消費者に伝える必要があります。SAKEはアメリカの典型的な料理などにも相性がよいのです」
“SAKEブーム”が課題を乗り越え、アメリカで今後、本格的に根づいていくのか。

期待をもって見つめていきたいと思います。
アメリカ総局記者
江崎 大輔
2003年入局
宮崎局、経済部、高松局を経て現所属