イギリスのTPP加入正式決定 2018年の発足後の新規加入国は初

日本などが参加するTPP=環太平洋パートナーシップ協定の閣僚会議が16日に開かれ、イギリスが協定に加入することを正式に決めました。2018年のTPP発足後、新たな国が加わるのは初めてで、経済圏はヨーロッパにも広がることになります。

TPPの参加11か国の閣僚会議は16日、ニュージーランドの最大都市、オークランドで開かれ、日本からは後藤経済再生担当大臣が出席しています。

日本時間の午前、各国の閣僚などが署名を行い、イギリスがTPP協定に加入することを正式に決めました。

イギリスはEU=ヨーロッパ連合を離脱したあと、おととし加入を申請し、各国と交渉を続けてきました。2018年のTPP発足後、新たな国が加わるのは初めてとなります。

今後、国内手続きを経た上でイギリスで協定が発効すれば、TPPは12か国による体制となり、ヨーロッパにも広がることになります。

これによって参加国のGDP=国内総生産の合計はこれまでのおよそ11兆8000億ドルから12か国でおよそ15兆ドルに拡大し、人口はおよそ5億8000万人となります。

会議はその後、イギリスも参加して続けられ、日本時間の16日午後、閉幕しました。今回の会議では、中国や台湾、ウクライナなどイギリスのあとに加入を申請した6つの国や地域について、加入に向けた手続きを始める決定はしませんでした。

一方で、閉幕後に発表された共同声明では加入申請に対し、「TPPの高い水準を満たすことができるかどうか情報収集を行っている」とし、それぞれの国や地域が貿易ルールを守っているかなどについて調べ始めたことを明らかにしました。

後藤経済再生相「イギリスへの輸出の関税撤廃率はほぼ100%」

閣僚会議のあとの記者会見で後藤経済再生担当大臣は、イギリスのTPP加入について、日本からイギリスに輸出される精米などの関税が撤廃されることを明らかにし「品目数ベースでは日本からイギリスへの輸出の関税撤廃率はほぼ100%となった。より円滑にTPP域内の貿易が拡大することにも期待できる」と述べて評価しました。

また加入を申請している国や地域については、中国を念頭に「市場アクセスだけではなく、電子商取引や知的財産、国有企業など、幅広い面で高いレベルを完全に満たすことができるのか引き続きしっかり見極めていく必要がある。我が国としては戦略的な観点や国民の理解をふまえながら対応していく」と述べ、慎重な姿勢を示しました。

イギリスの老舗陶器メーカー “TPPは大きな助けとなる”

イギリスは3年前のEU=ヨーロッパ連合からの離脱の前から、EU以外の国や地域との関係強化を進める「グローバル・ブリテン」という外交政策を掲げています。

TPP=環太平洋パートナーシップ協定への加入はその一環で、成長著しいインド太平洋地域への門戸を開き、イギリス企業が巨大な市場に製品を輸出することができるようになるとイギリス政府は期待しています。

TPP加入を受けて、イギリスの企業は、参加国への輸出が拡大することに期待を寄せています。

その1つ、イギリス中部にある、創業200年以上の老舗の陶器メーカーです。

年間に生産するおよそ600万点の陶器などのうち、イギリス国内での販売が半数を占める一方、残りはアジアやアメリカなどへ輸出しています。

このメーカーではアジアの一部の国で輸出する製品の関税が撤廃されることになるため現地での価格競争力が増すことになると期待感を高めています。

陶器メーカー「Denby」のセバスチャン・ラゼルCEOは「私たちの目標は売り上げに占める国外販売の割合を80%にまで増やすことだ。世界的にはまだ小さなブランドだが、200年の歴史と技術をグローバルに広げるうえでTPPは大きな助けとなるだろう」と話しています。

オーストラリア 微妙な立場も一部の農業関係者などは期待

一方、中国のTPPへの加入申請を巡り、参加各国はこれまで異なる反応を示しています。

日本はこれまで中国の加入申請について「TPPが求める高い水準を満たすことができるか見極める必要がある」などとし、中国が国有企業への優遇措置をとっていることなどを念頭に、慎重な姿勢を示しています。

一方、オーストラリアは微妙な立場にあるとみられています。

アルバニージー首相は、ことし5月の会見で中国の加入申請について問われた際「重要なのは中国が国際法に基づいた貿易を行う意思があることを世界に示すことだ」と述べるにとどめ、明確な言及を避けました。

オーストラリア政府は、安全保障面では海洋進出を強める中国を警戒する一方、貿易面では中国が最大の取引相手国で、代わりになる巨大市場はないとして、関係を重視していることが背景にあります。

オーストラリアでは一部の農業関係者などの間で、中国がTPPに参加すれば、輸出拡大につながるのではと期待する声もあがっています。

南東部ニューサウスウェールズ州でコメを生産する農家のグレン・アンドレアザさんは、収穫するコメの90%近くを業者を通じて中東など海外に輸出しています。

しかし、中国にコメを輸出する際には関税がかかることもあり、中国向けには輸出されていません。

中国とオーストラリアの間にはすでに2国間の自由貿易協定がありますが、中国向けのコメは関税引き下げの対象外になっています。

アンドレアザさんは、中国がTPPに加入すれば関税の引き下げもあり得るとして、巨大な中国市場にコメの輸出を拡大できる可能性に期待しています。

アンドレアザさんは「どこの国であっても、輸出できる市場があれば、私たち農家の利益につながるはずだ。中国が私たちのコメを買いたいと言ってくれるのならいつでも歓迎する」と話しています。

また経済面で中国との関係が深いマレーシアやシンガポールは、これまでに中国の加入申請を歓迎する意向を示したと伝えられていて、TPP参加国の間で反応は分かれています。

中国 これまでも自由貿易協定の締結で各国との関係強化

中国はこれまでも自由貿易協定の締結によって各国との関係を強化しています。

このうち去年発効したRCEP=「地域的な包括的経済連携」ではASEAN各国などとの貿易を拡大させています。

去年1年間の中国とASEANとの貿易総額はRCEPの効果などで前の年より11%増えて9700億ドル、日本円でおよそ135兆円にのぼり、最大の貿易相手となっています。

貿易の拡大を支えるため進めているのが輸送ルート整備です。

ベトナムとの国境にある南部の広西チワン族自治区憑祥は、東南アジアとの陸路の貿易の玄関口になっています。

RCEPの発効や中国の新型コロナウイルスの感染対策が緩和されたことで憑祥の税関で取り扱う貨物量は去年の1.5倍に増え、毎日トラックが列をつくりおよそ1500台が国境を行き来しています。

貿易が活発になる中、電子化など手続きを簡素化することで通関にかかる時間をこれまでより8割以上、短縮させたとしているほか、先月には通関の道路をこれまでの倍の12車線に増やしました。

東南アジアとの貿易を担当する地元政府の責任者は「ここはサプライチェーンを支える主要ルートの1つで、貨物量は今後も安定的に増加していくと見込まれる。ベトナム側とも協力しながらさらに通関エリアの道路の拡大を図っている」と話していました。

専門家 “中国と台湾の加入申請 非常に難しい問題”

通商政策に詳しい民間のシンクタンク、地経学研究所の鈴木均主任客員研究員は、TPPの位置づけの変化について「ロシアがウクライナに侵攻してビジネスはビジネスの論理でずっとやればよいといった状態ができなくなってきている。加速度的に経済安全保障の見地が不可欠になっているのではないかと思う」と述べました。

そのうえで、中国と台湾の加入申請については「非常に難しい問題だ。日本とアメリカは同盟国であるという視点からは日本は台湾を優先するという決定になるのではないかと思うが、日本の最大の貿易相手国はアメリカから中国に変わったという、この現実はやはり重い。少し時間をおき、加入したらどういうことになるかよく時間をかけて検討するべきだ」と述べ、日本政府は慎重に判断するのではないかという見方を示しました。