小田急線無差別刺傷事件 被告に懲役19年の判決 東京地裁

2021年、東京・世田谷区を走行していた小田急線の車内で乗客が切りつけられるなどしてけがをした事件で、乗客3人に対する殺人未遂などの罪に問われた被告に、東京地方裁判所は「走行中の電車内という逃げ場のない状況で無差別に乗客を次々に襲った非常に悪質な犯行だ」として懲役19年の判決を言い渡しました。

おととし8月、東京・世田谷区を走行していた小田急線の車内で複数の乗客が刃物で切りつけられるなどして重軽傷を負った事件では、無職の對馬悠介被告(37)が当時20歳の女子大学生などを刺して大けがを負わせたとして、乗客3人に対する殺人未遂や窃盗などの罪に問われました。

14日の判決で、東京地方裁判所の中尾佳久裁判長は「走行中の電車内という逃げ場のない状況で無差別に乗客を次々に襲った非常に悪質な犯行だ」と指摘しました。

そのうえで、事件当日、万引きをしようとして店の従業員に見つかり警察に通報された経緯に触れ「従業員や警察官を殺したいと考えたがそれが難しいと分かると、怒りの感情をもともと憤りを抱いていた社会に向け、犯行に及んだ。全く関係のない他人に無差別に危害を加えた身勝手な動機に酌むべき点はない」として懲役19年を言い渡しました。

検察の求刑は懲役20年でした。

判決を言い渡したあと裁判長は「ことの重大性を考えてほしい。被害者の負った肉体的、精神的苦痛について考え、そのうえで社会復帰にどんなことが必要なのかよく考えてほしい」と語りかけ、被告はまっすぐ裁判長の方を向いて聞いていました。

裁判員「話に理解できる部分もあるが責任感じてほしい」

判決のあと、裁判員を務めた3人と補充裁判員2人が記者会見に応じました。

裁判員を務めた人のうち40代の女性は「被告の話には理解できる部分もあるが、事件を起こした責任は感じてほしいと思った。社会に対する不平不満は誰もが一様に持っていると思うが、今回のような行動を実際に起こしてしまうのか、とどまれるのか、そこが一番大事だと感じた」と話していました。

また、20代の女性は「自分もいろいろ不満を抱くことはあるが、被告と同じことはしない。被告に合った仕事を提供してくれたり、話を聞いてくれたりするところがあれば事件は防げたのではないかと思った。今回の裁判に携わるまでこうしたことを考えることはなかったが『自分の周りでもこういう状況があるのではないか』と今後も考えていきたい」と話していました。

補充裁判員を務めた60代の男性は「裁判の対象となった3人の被害者のほかにも電車内で逃げ惑う中でけがをした人も相当いると思う。被害者の代弁者になれればという思いで参加した」と話していました。

専門家 事件を教訓に社会のあり方考える必要があると指摘

社会心理学が専門で犯罪心理に詳しい新潟青陵大学の碓井真史教授は、判決について「身勝手な犯行で、判決の指摘はそのとおりだと思う」としたうえで、今回の事件を教訓に社会のあり方について考える必要があると指摘します。

碓井教授は「被告は挫折をきっかけに生活が変わっていったことで自己否定の気持ちが生まれ『こんな自分にした世の中が悪い』と思うようになり、事件を引き起こした。被告が法廷で語った境遇は、無差別事件を起こす人の典型といえる」と分析します。

そのうえで「無差別事件を起こそうと考える人は孤独感と絶望感を感じていることが多く、『もうおしまいだ』と考えている場合には防犯カメラも死刑も抑止力にはならない。こうした事件を防ぐには、被告のように孤独感を抱いている人に『あなたは1人ではない』というメッセージを社会が届けていくしかない」と話していました。