大阪・関西万博 海外パビリオンの建設申請 なぜ進まない?

再来年の2025年に開催が迫っている大阪・関西万博。しかし、いま深刻な問題に直面しています。

万博の「華」として注目される海外のパビリオンの建設申請が、これまでに1件も行われておらず、準備の遅れが懸念されています。

開幕まで2年を切る中で、いったい何が起きているのでしょうか。

50か国余りが建設予定も 建設申請ゼロ

再来年の大阪・関西万博には、これまでに153の国と地域が参加を表明していて、技術や文化を紹介する展示施設「パビリオン」を設けることになっています。

このうち50か国余りがパビリオンをみずから費用を負担して建設することになっていますが、必要な建設許可を大阪市に申請した国はこれまでになく、準備の遅れが懸念されています。

万博会場の大阪 夢洲

博覧会協会の資料によりますと、当初の計画では建設許可を申請してから建設を始めるまでの期間は4か月ほどと想定され、建物本体の工事は来年7月までに終える予定となっています。

果たして間に合うのでしょうか?

万博の“華”「タイプA」が…

そもそも、パビリオンの設置はどのように進められるか。

大阪・関西万博には、これまでに153の国と地域が参加を表明していて、パビリオンの設置には「タイプA」「タイプB」「タイプC」の3種類の方法が用意されています。

「タイプA」は、参加国が博覧会協会から敷地の提供を受け、建物の形状やデザインを自由に構成する方法です。それぞれの国や地域の個性が外観などに反映されるため、万博の「華」として注目されています。

「タイプB」は博覧会協会が建物を建築し、参加国がその建物を借り受けて単独で入居する方法で、「タイプC」は博覧会協会が準備する建物に複数の国がまとまって入居するものです。

ドバイ万博の日本パビリオン(2021年9月撮影)

これまでのところ、ドイツやスイス、中国など50か国あまりが「タイプA」の方法でパビリオンを建設する方針で、参加国が設計から建築までを自前で行う必要があります。

博覧会協会によりますと、初めに提出を求めている「基本設計書」をこれまでに協会に提出した国は、「タイプA」を建設する方針の50か国余りのうち9か国です。

万博に建設予定のスイスパビリオンの模型

ただ、大阪市によりますと、その次の段階の「基本計画書」を市に提出した国はなく、建設申請する段階に進んだところもまだ、一つもありません。

申請ゼロの背景は

申請が行われていない背景にはさまざまな要因があるとみられています。

建設業界が指摘するのは「資材価格の高騰」と「深刻な人手不足」、そして2年後に迫った万博開幕までの「工期の短さ」です。

〈要因1建設資材の高騰〉

「建設物価調査会」のまとめによりますと、大阪市の鋼材やセメントなど建設資材の価格は、2015年を100とした指数で、3年前、2020年の平均は108.2でした。これが先月の時点で137.6となっていて、27%も上昇したことになります。

例えば▽セメントは、2020年の平均の105.6から先月は166.4に
▽生コンクリートは、160.0から207.1に
▽鉄鋼は109.1から171.6まで上昇するなど、さまざまな資材価格が高騰しています。

〈要因2建設業界の賃金上昇や人手不足も〉

建設業界では賃金の上昇傾向も続いています。

国土交通省が厚生労働省の「毎月勤労統計調査」をもとにまとめたデータによりますと、建設業の現場で働く人の去年10月の1日あたりの賃金は1万8722円で、5年間で3473円、率にして22%上昇しました。

こうした上昇の背景について国土交通省の担当者は、近年の物価の上昇や人手不足による賃金の引き上げが影響しているのではないかと話しています。

〈要因3工期の短さが受注の難しさに〉

さらに、受注の難しさにつながっている要因が工期の短さです。

来年からは時間外労働の規制が強化される「2024年問題」を控え、人手不足に拍車がかかることが懸念されています。

中小の建設業者でつくる「全国建設業協同組合連合会」によりますと、いかに余裕をもって工期を組めるかが受注判断のポイントになっているということですが、海外パビリオンの建設は工期が短いうえ、参加する国や地域が趣向を凝らした複雑なデザインになることが多いため、工期内の完成を目指すにはより多くの人手が必要になるということです。

全国建設業協同組合連合会の青柳剛会長は「工期が一番の問題だ。万博開幕までに完成させるためには長時間労働を防ぐため現場を3交代制にしなければならないが、ただでさえ人手不足が深刻なため、みんな尻込みしていると感じている。万博に限らず、ワークライフバランスを意識した工期の最適化に、行政や施工会社が取り組んでいくことがすごく大事だ」と話しています。

博覧会協会「簡素化も提案 年末までに着工すれば間に合う」

万博が開幕するのは2025年4月13日。
当初の計画では、建設許可を申請してから建設を始めるまでの期間は4か月ほどと想定されています。

万博の実施主体、博覧会協会の石毛博行事務総長は13日「『タイプA』の国の中には構想を示しているところもあり、建設業者を探すなど支援ができればいい。一概には言えないが、年末までに着工すれば開幕に間に合うと考えている」と述べました。

その上で「パビリオンの建設の進め方は参加国が決めることだが、協会としてパビリオンのデザインを簡素化することによる工事期間の短縮や簡単な工法への切り替えを提案するなど、最大限のサポートをして開幕までに間に合わせたい」と述べました。

博覧会協会は支援策として▽デザインの簡素化による工事期間の短縮や簡単な工法への切り替えを提案する方針を示したほか、▽参加国の代わりに協会が建設会社への発注を行う選択肢を示しました。

専門家「パビリオンの質 多少落とさざるを得なくなる」

一方、簡素化について、専門家は次のように指摘します。

(日本総合研究所関西経済研究センター藤山光雄副所長)
「なんとか間に合わせるには工期が短くなるが、人手不足の中ではパビリオンの質を多少落とさざるを得なくなるだろう。万博の目玉、楽しみの一つのパビリオンの魅力が下がれば入場者が減り、その分、当初想定していた経済効果が得られなくなるおそれがある」

その上で藤山副所長は「当初、予測していた収入が得られなくなった場合、その分、誰かが補填しなければならないという事態になりかねない。パビリオンの建物も大事だが、万博の魅力をカバーする中身自体がますます重要になってくる。万博に行きたいと思ってくれる人を増やす取り組みに力を入れないといけない状況だと思う」と話しています。

各方面の反応は…

準備が遅れていることに関係者は…

大阪市 横山市長「準備が進むこと強く願う」

大阪市の横山市長は記者団に対し「発表されているパビリオンができるだけ盛り上がるかたちでつくられ、期限通りに準備が進むことを強く願っている」と述べました。

また、海外のパビリオンの建設申請が大阪市に1件も行われていないことについて、物価や資材の高騰、それに建設に携わる人材確保の問題などを踏まえ、早めに発注しなければならないという日本の建設業界をめぐる状況が、海外の参加国に認識されていないことも要因ではないかとした上で「ただ、指をくわえて待っているだけではなく、問題がある部分を関係者などにしっかり聞いて、大阪市としてもできるかぎりスムーズに審査、建設が進むような取り組みをしていきたい」と述べました。

大阪府 吉村知事「タイトになっているのは間違いない」

大阪府の吉村知事は記者団に対し「時期がタイトになっているのは間違いないので、できるだけ早く着工していく必要がある。いま、博覧会協会が中心となって調整を進めているが、大阪府と大阪市も協力関係のもとで進めていく。ありとあらゆる方法を尽くして必ず間に合わせなければならない」と述べました。

政府は強い危機感

政府は、参加国の施設の建設を加速させるため、外交ルートなどを通じて予算の増額やデザインの簡素化を通じたコストの削減、それに工期の短縮を要請しているということです。

さらに、先月末には建設業界に対して、施設建設への協力を求める文書も送っています。この中では「参加国のパビリオン建設が開幕までに間に合わない場合には国際博覧会として成立しなくなることが危惧される」と強い危機感を示した上で、事業者が参加国との間でトラブルなどがあった場合は、政府として対応する姿勢を伝え、協力を呼びかけています。

このほか、実施主体の博覧会協会に対しては、参加国ごとに担当者を配置し、建設実務に精通した外国語に対応できる人材による窓口を設けるなどして、参加国と事業者の契約締結を後押しするよう呼びかけています。

岡田万博担当相「開催を遅らせる考えは持っていない」

岡田万博担当大臣は閣議のあとの記者会見で「博覧会協会に国ごとの担当者を配置し、当該の国の課題を明確化した上で予算の増額やデザインの簡素化によるコスト削減と工期短縮化の要請を行っている。建設実務に精通した外国語での対応可能な人材による窓口の設置なども行っているところだ」と述べました。

また、記者団からパビリオンの建設の遅れで開催を延期する可能性があるか問われたのに対し「参加国と施工事業者の双方の話を聞き、建設の加速化を図っているところであり、現時点で開催を遅らせるという考えは持っていない」と述べました。

経団連会長「建設費も高騰 工期的にも非常に厳しい」

博覧会協会のトップを務める経団連の十倉会長は、パビリオンの建設をめぐって、今週、関西企業の経営者と懇談したあとの記者会見で「建設費も高騰の方向で工期的にも非常に厳しいものがある。万博の開幕まで時間が限られているので準備の加速化が必要だ」と述べ、政府や日本の建設業界にも働きかけながら、経済界として支えていく考えを示しています。

ミャクミャク 海外で万博PR

一方で、公式キャラクターのミャクミャクは、世界に向けてPRを続けています。

13日には、フランスのパリ近郊で開かれているアニメやゲームなど、日本の文化を幅広く紹介するヨーロッパ最大級のイベント「ジャパンエキスポ」に登場。

博覧会協会が近畿経済産業局とともに出展したブースで、初めての海外での任務となるミャクミャクが手を振ったり、笑顔を振りまいたりしてPRしていました。

大阪・関西万博では、半年間の開催中に予想される2800万人余りの来場者のうち、およそ350万人が海外から訪れると見込まれていて、博覧会協会は今後、海外向けの発信を強化することにしています。

万博まであと2年、ミャクミャクの努力は実るでしょうか。