社会

「イプシロンS」燃焼試験の途中で爆発 JAXA 原因究明急ぐ

14日午前、秋田県能代市で行われた小型ロケット「イプシロン」の改良型「イプシロンS」の燃焼試験の途中で爆発が起き、炎が上がりました。

JAXA=宇宙航空研究開発機構は原因究明を急ぐ考えですが、来年度に予定している初号機の打ち上げのスケジュールが遅れる可能性もあるとしています。

「イプシロンS」は日本の主力ロケットのひとつで、これまで運用されてきた固体燃料式の小型ロケット「イプシロン」の改良型としてJAXAなどが開発を進めています。

秋田県能代市のJAXA能代ロケット実験場で、14日午前9時から「イプシロンS」のエンジン部分にあたる二段目のロケットの燃焼試験が行われました。

試験の開始直後は、炎と共に煙が勢いよく噴射しましたが、およそ1分後にボンという爆発音が聞こえて施設の一部が吹き飛びました。

その後、炎と黒い煙が上がりました。

消防が消火にあたり、およそ2時間後に火は消し止められ、警察によりますと、けが人はいないということです。

JAXAによりますと、データからは点火から20秒が過ぎたころから圧力が予測より高くなっていて、異常が発生した57秒後あたりで圧力が開放されたということで、何らかの理由で圧力容器が破壊されたことがひとつの原因と考えられるとしています。

そのうえで、今後、再び燃焼試験を行う必要があるとして、来年度に予定している初号機の打ち上げのスケジュールが遅れる可能性もあるとしています。

近くで見ていた人「今までと違うことが起きている」

神奈川県から小学3年生の娘と訪れていた40代の女性は「ボンという爆発音がして今までと違うことが起きていると思いました。おそらく失敗かもしれませんが諦めずにロケットを完成させてほしいです」と話していました。

「イプシロンS」ロケットとは

「イプシロンS」ロケットは日本の主力ロケットのひとつで、JAXAとIHIエアロスペースが開発中の小型ロケットです。

2013年から去年まで運用された小型ロケット「イプシロン」を改良した、全長およそ27メートルの固体燃料を使う3段式のロケットです。

打ち上げ能力が向上し、「イプシロン」と比べて200キロほど高い、高さ700キロ付近まで人工衛星を運ぶことができます。

小型衛星の打ち上げの需要が国内外で高まる中、ロケットの打ち上げビジネスで海外に対抗することを目指していて、初号機はベトナムの地球観測衛星を載せ、来年度打ち上げられる予定です。

これまでに1段目と3段目のロケットの燃焼試験などが行われていて、今回は2段目のロケットを横倒しにした状態で2分間の燃焼を行い、その間に、着火や燃焼の特性のほか、ノズル部分や断熱材の性能、それに、振動や衝撃などのデータを測定することが目的でした。

「イプシロンS」の前身にあたる「イプシロン」をめぐっては2013年に初号機が打ち上げ中止になり、そのあと、5号機までは成功したものの、去年10月、最終号機となった6号機が打ち上げに失敗していました。

今回の燃焼試験の結果で、「イプシロンS」の開発に遅れが出ることが懸念されます。

JAXA プロジェクトマネージャ「二段目のモーターで異常発生」

「イプシロンS」の燃焼試験で爆発が起きたことについて、JAXAの井元隆行プロジェクトマネージャは秋田県能代市の実験場で取材に応じ、「二段目のモーターの最後の試験で異常が発生してしまったのは非常に残念だ。失敗が続いているので、反省すべき点はしっかり反省しなければいけない。原因を究明して設計に反映していくことが信頼性の確保につながる」と述べました。

また、「点火から20秒が過ぎたころから圧力が予測より高くなっていて、異常が発生した57秒後あたりで圧力が開放された。何らかの理由で圧力容器が破壊されたことが考えられるひとつの原因だ」と述べました。

そのうえで、今後、再び燃焼試験を行う必要があるとして、来年度に予定している初号機の打ち上げのスケジュールが遅れる可能性もあると説明しました。

専門家「時間かからずに原因わかると思う」

三菱重工業でH2Aロケットなどのエンジン開発に携わった名古屋大学の松山行一特任教授は「イプシロンS」の燃焼試験中の爆発について「うまくいくと思っていたので爆発と聞いて驚いた」としたうえで、今後の開発や打ち上げへの影響については「今回は地上の燃焼試験なのでたくさんデータが取れているはずで、そんなに時間がかからずに原因がわかると思う。対策の程度にもよるが数か月から半年でリカバリーできると思うので、来年度の打ち上げ予定は維持できるのではないか」という見方を示しました。

爆発した原因としては「2段目のロケットの固体燃料が入っているモーターケースを大きくする新規の設計をしているようなので、この設計や製造に何らかの問題があると今回のような爆発が考えられる。また、燃焼が不安定になることで非常に大きな圧力の変動が発生し、圧力が高くなって爆発する「振動燃焼」という現象が知られており、第一報を聞いてそのどちらかが原因ではないかと感じた」と指摘しています。

失敗相次ぐ中で今回の爆発「背後要因を疑って分析を」

また、「イプシロン」6号機や「H3」初号機で打ち上げ失敗が相次ぐ中で今回の爆発が起きたことについては「イプシロンSはH3で使っている技術を導入して改良したということだが、既存のすでにあるものを新しいシステムに組み込む時に、何か確認が足りないとか、検証が足りないとか、そういうものが背後要因にないかと疑っている。短い期間に、こういうふうに立て続けに起きていることには何か背後要因があるかもしれないという目で疑って、分析して手を打っていただきたい」と話していました。

日本の宇宙開発 打ち上げ失敗など深刻な事態相次ぐ

日本の宇宙開発をめぐっては、去年10月以降、主力ロケットの打ち上げ失敗など深刻な事態が相次いでいます。

「イプシロン」6号機が打ち上げに失敗

まず、去年10月12日にJAXA=宇宙航空研究開発機構の固体燃料式の小型ロケット「イプシロン」の6号機が打ち上げに失敗しました。

JAXAは原因について、ロケットの向きを制御する装置に燃料を送り込む配管が別の部品でふさがったことで、「実績のある部品に対する確認不足があった」としています。

無人探査機「OMOTENASHI」は月面着陸を断念

また、11月には、日本初の月面着陸を目指した無人探査機「OMOTENASHI」が打ち上げられたあと、地上との通信が安定せず着陸を断念しました。

探査機の太陽電池パネルが光を受けられる方向に向かなかったことが原因でした。

「H3」初号機 2段目エンジンが着火せず

さらに、日本の宇宙開発の切り札と期待される新たな主力ロケット「H3」の初号機がことし2月17日に発射直前に打ち上げ中止になったあと、3月7日に再び打ち上げに臨んだものの、2段目のエンジンが着火せず、打ち上げに失敗しました。

2段目のエンジンの設計は運用中の「H2A」ロケットとほぼ同じで、エンジンに搭載された機器がショートなどを起こしたとみられています。

民間企業の月着陸船も

一方、民間企業でも、東京のベンチャー企業「ispace」が開発した月着陸船がことし4月26日、月面に向けて降下したあと、着陸船が高度を誤って認識し燃料がつきて落下しました。

初号機打ち上げ予定の鹿児島 肝付町「予定通り打ち上がって」

燃焼試験で爆発が起きた「イプシロンS」は、鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所で来年度、初号機の打ち上げが予定されていました。

ロケット産業を町の発展につなげようと、ことし4月に新設された肝付町の「宇宙のまちづくり推進課」の吉崎浩司課長は「まさかこのようなことが起きるとは思っていなかったので、ショックです。町としては見守ることしかできませんが、来年度は、予定通り打ち上がってほしい」と話していました。

松野官房長官「着実に開発進めてほしい」

松野官房長官は、午後の記者会見で「開発の全体スケジュールへの影響などはJAXA=宇宙航空研究開発機構で精査する。基幹ロケット開発はわが国の宇宙活動の自立性などの観点から極めて重要であり、JAXAには着実に開発を進めてもらいたい」と述べました。

永岡文科相「影響などを精査」

永岡文部科学大臣は、閣議のあとの記者会見で「燃焼実験はあらかじめ実験管理をされた立ち入り規制エリア内において実施されており、現時点で人的被害の情報は入っていないが、引き続き情報収集を進めたい。研究開発の途中での爆発ということなので、まず影響などの精査をしていく」と述べました。

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