神奈川県厚木市に住む若山英雄さん(64)は、60歳の定年後も電機関連の企業で契約社員として働いています。
最低賃金は企業が労働者に最低限、支払わなければならない賃金で、都道府県ごとに金額が決められ、現在、全国平均は時給961円です。
最低賃金 どうなる!? 物価高での生活は 企業の実情は
今年度の最低賃金の引き上げについて議論する厚生労働省の審議会で、労使双方が意見を述べる本格的な議論が始まりました。
最低賃金で働く人からは「物価が上がり生活が苦しい状況が続いている」として大幅な引き上げを求める声が聞かれます。
一方の企業側にも厳しい実情が…
「モノが高く賃金が追いつかず…」


若山さんは、週5日、朝から夕方まで事務の仕事などを行って月給は16万5000円ほど、時給に換算すると1071円で神奈川県の最低賃金と同じです。
手取りは13万円余りで、1人で暮らす賃貸アパートの家賃が6万円ほどかかる上、物価の高騰や光熱費の値上がりなども家計を圧迫していて手元にはほとんど残りません。

このため、生活費を切り詰めようと近くのスーパーで値下げ品を探して買いだめし、外出や趣味も控えているということです。
預金も50万円ほどで、去年からは、受け取れる総額が少なくなることを覚悟の上で年金を繰り上げて受給していますが、蓄えに回す余裕はなく、老後のことも考えると体が動くかぎり働き続けなくてはいけないと考えています。
(若山英雄さん)
「モノが高くなっているのに賃金が全然、追いついていません。お金があれば無理して働くこともないですが、現実はそうではないので老後に備えて働くしかありません。世の中は賃上げ機運があるといいますが自分は全然感じていないので、最低賃金を引き上げ、同時に会社にも給料を上げてほしいとつくづく感じています」
時給上げた企業「賃金上昇 経営には厳しい」
パートやアルバイトを多く雇用する中小企業は、最低賃金の引き上げに理解を示す一方で、価格転嫁しやすい環境の整備など直面する厳しい状況を踏まえた対応を求めています。

企業の採用の受付などを代行している東京・町田市のコールセンターは、パートやアルバイトなどでおよそ30人を雇っています。
平均の時給は、ことし5月の時点で東京都の最低賃金より200円余り高い1284円です。

最低賃金の引き上げが続いて会社の時給に迫ってくると、求人を出してもなかなか人が集まりません。近年は人手不足でその傾向が顕著になっているということで、最低賃金に一定額を上乗せすることは避けられません。
この3年間でも平均の時給を80円近く上げました。
会社の売り上げに占める労務費の割合は6割から7割に上ります。
価格転嫁をしようとしても原材料価格の上昇に伴う場合に比べて取引先に理解を求めるのは簡単ではなく、取引を打ち切られたケースもあるといいます。
この会社では、賃上げの原資を確保するため従業員ごとの1日の業務量を明確化したり新たなシステムを開発したりして生産性の向上を図っていますが、最低賃金の引き上げが経営に及ぼす影響は大きいといいます。

(コールセンター運営会社「経営支援」茶谷武志代表取締役)
「長く働いている人が評価されて賃金が上がっていくのは当然だと思いますが、入り口段階の賃金がどんどん上がっていくのは経営には厳しい面があります。社会全体で賃金の底上げを図る意味では、引き上げ自体に反対はありませんが、企業の利益が上がらないと給与は増えません。中小企業と言っても業界、業種はさまざまで、最低賃金の議論をする際には、労務費を含めた価格転嫁など、中小企業が成長できる土壌を作ることも検討してもらいたいです」
近年は大幅な引き上げ続く
最低賃金は、近年、大幅な引き上げが続いています。

新型コロナの影響で経済状況が悪化した2020年は1円の引き上げでしたが、去年までの10年間で引き上げ幅は6回、過去最大を更新し、この間、全国平均の時給は、212円、上昇しました。
最低賃金の引き上げ額の目安は、労使の代表などで作る審議会が、物価の推移や春闘を通じた賃上げの状況、企業の支払い能力などのデータを参考に決めますが、政府も家計の所得の底上げや格差の是正といった観点から議論を注視しています。
先月、決定したいわゆる「骨太の方針」には「ことしは全国平均で時給1000円を達成することを含めて審議会でしっかりと議論を行う」と明記しました。
また、この夏以降は、1000円を達成したあとの最低賃金の引き上げの方針についても政府の会議で議論するとしています。
厚生労働省によりますとことし全国平均1000円を達成するためには、過去最大だった去年の31円をさらに上回る39円以上の引き上げが必要になるということです。
どうなる!? 今年度の引き上げ議論

今年度の引き上げに関する議論は先月から厚生労働省の審議会で始まり、12日に開かれた2回目の会議で労使双方が意見を表明しました。
労働者側は「ことしの春闘は去年を大幅に上回る水準となったが、物価上昇が高い水準で推移し実質賃金はマイナスの状況が続いている。最低賃金近くで働く労働者の生活は苦しい」として大幅な引き上げが必要だという姿勢を示しました。
一方、企業側は「業績の改善が伴わないまま人手確保のために賃上げをしている企業もあり、最低賃金の大幅な引き上げとなれば、地方の中小企業を中心に負担感がますます高まることが懸念される」として引き上げそのものには反対しないものの、引き上げ幅については慎重な議論を求めました。
最低賃金をめぐっては、政府がことし中に全国平均1000円を達成することに言及していて、そのためには過去最大となった昨年度を上回る39円以上の引き上げが必要になります。
ことしの春闘では労働団体「連合」の集計で賃上げ率はおよそ30年ぶりの高い水準となりましたがこの流れを引き継ぐことになるのか、今月下旬をめどに結論がまとめられる見通しです。