梅毒感染者数 過去最多ペース上回る “身近な”病気に!?

性感染症の梅毒の感染者数が急増しています。

ことし上半期に報告された感染者数は7448人と、去年の同じ時期を上回る速いペースで増加しています。

専門家は「梅毒はもはや身近な病気になったという実感だ。リスクのある性行動を取ったときなどには、積極的に検査を受けてほしい」と話しています。

※記事の後半に梅毒の症状や注意点についてのQ&Aを掲載しています。

梅毒トレポネーマ

梅毒は主に性的な接触によって広がる細菌性の感染症で、治療せずに放置すると深刻な症状を引き起こすことがあります。また、妊婦が感染すると、死産や流産につながるリスクがあるほか、子どもが「先天梅毒」になり皮膚の異常や難聴といった症状が出るおそれもあります。

感染者上半期7448人 過去最多ペース上回る

国立感染症研究所によりますと、7月2日までのことし上半期に報告された梅毒の感染者数は、全国で7448人と去年の同じ時期の1.3倍となっています。

梅毒の感染者はここ数年増加が続き、去年は現在の方法で統計を取り始めた1999年以降最も多い1万3228人となりましたが、ことしはさらに速いペースとなっています。

感染者の報告が多いのは東京都や大阪府など人口の多い都道府県ですが、
ほかにも
▽佐賀県は48人で去年の同じ時期の3.7倍、
▽宮崎県は96人で2.7倍、
▽石川県は29人で2.6倍など急増しているところがあります。

梅毒対策の責任者 “もはや身近な病気になった”

日本性感染症学会で梅毒対策の責任者を務める愛知医科大学の三鴨廣繁教授は「梅毒はもはや身近な病気になったという実感だ。リスクのある性行動を取ったときだけでなく、パートナーがリスクのある性行動を取ったと判明したときや、新たなパートナーができたときは積極的に検査を受けてほしい」と話しています。

現場の医師 “知らない間にうつす可能性も”

日本性感染症学会で梅毒の診療ガイドラインの策定に携わるなど、梅毒に詳しい、大阪・北区にある「そねざき古林診療所」の古林敬一医師は、ここ数年、診療所を訪れる梅毒の患者が増えていると話しています。

古林医師によりますと、梅毒への感染が確認される患者は、10年ほど前は1か月に1人程度でしたが、最近では1週間に1人はいるということです。

古林医師が診察した患者には性交渉の相手に目立った症状が無く、感染に気付いていなかったとみられるケースが複数あったほか、患者自身にも症状がなく、感染に気付いていないケースもあったということで「梅毒はしこりや潰瘍が有名な症状だが、症状が出ない人もいる。症状がなかったり、無自覚だったりする人は性交渉をためらう理由がなく、知らないうちに梅毒をうつしてしまうのではないか」と話しています。

古林医師は「感染しているかどうかは検査をしないと、分からないので、全く検査を受けたことがなければ、一度は検査を受けてみてほしい」として、医療機関での検査に加えて、保健所などで行われている無料で匿名の検査も活用してほしいと話しています。

【Q&A】梅毒の症状や注意点は?

専門家2人に詳しく聞きました。

Q.なぜこれほど急増しているのですか?
A.愛知医科大学の三鴨教授は「はっきりした原因は分かっていない」とした上で、
▽性風俗産業で性感染症の検査が十分に行われていないところが増えている可能性や、
▽SNSやマッチングアプリを介して不特定の人と性交渉を持つ人が増え、梅毒を含む性感染症が広がっている可能性があると指摘しています。

また、大都市だけでなく、人口の少ないところでも感染者が増えている理由として、出かけた先の大都市で性交渉をして感染するケースなどが考えられるとして「日本全国どこでも感染しうる病気だと考えるべきだ」と話しています。

さらに三鴨教授は「厚生労働省の研究班の調査では、今の調査方法では把握しきれない患者が数多くいる可能性も示された。これまで梅毒の患者を診察したことがなかったというような医師でも、梅毒の患者をしばしば見るようになったという声を聞く。梅毒を身近な病気としてとらえるべき時代になったのだと考えている」と話しています。

Q.梅毒の症状はどのようなものですか?
A.梅毒に感染すると、通常、3週間から6週間程度の潜伏期間を経てから最初の症状が出てきます。ただ、症状が出ない人もいるほか、症状が出てもすぐに消えてしまう人もいます。

このため、感染していることに気付かないうちに、病気が進行することがあります。症状の写真は痛々しく見えるものもありますが、痛みやかゆみを感じず、症状に気付かなかったり、症状が現れなかったりすることもあるということです。

梅毒に詳しい古林医師は「血液検査で陽性となってよく調べても、特に症状が出ていないというケースもある。梅毒の患者は無症状の人から、目立つ症状が出る人まで幅広くいて『これが典型的な症状だ』と必ずしも言えないのが難しい」と話しています。

Q.進行するとどうなるの?
A.日本性感染症学会のガイドラインなどによりますと、梅毒は大きく3つの段階を経て進行します。

早期梅毒の時期は

感染から1年未満の梅毒は「早期梅毒」と言って、感染力が強いとされています。

▽「第1期」:感染から1か月程度たった時期。原因となる細菌が入り込んだ場所を中心に、3ミリから3センチほどの腫れや潰瘍ができます。

この症状は数週間で消えてしまうことがありますが、梅毒が治ったわけではありません。痛みやかゆみを感じることはほとんどないとされています。

▽「第2期」:感染から1~3か月程度たった時期。細菌が血液によって全身に運ばれるため、手や足をはじめ、全身に赤い発疹が現れることがあります。発疹がバラの花に似ているとして「バラ疹」と呼ばれています。

このほか、発熱やけん怠感など、さまざまな症状が出ることがあります。この段階でも、症状が自然に消えることがありますが、梅毒が治ったわけではありません。

後期梅毒の時期は

感染から1年以上たった梅毒は「後期梅毒」と言って、性的接触での感染力はないとされていますが、臓器などに深刻な症状が出ることがあります。

▽「第3期」:感染から3年程度たって以降。全身で炎症が起こり、骨や臓器に「ゴム腫」と呼ばれるゴムのような腫瘍ができることがあるほか、治療薬が普及していない時代は、大きなできものができたり、鼻がかけたりすることがありました。

さらに進行すると、脳や心臓、血管に症状が現れ、まひが起きたり、動脈りゅうの症状が出たりすることがあります。梅毒を治療せずに放置すると、第3期のような深刻な症状につながるので、早期に発見することが大事です。

妊婦は特に注意を

妊娠中の女性が梅毒に感染すると、流産や死産のリスクが高まります。日本大学などのグループの研究では、感染した妊婦は、治療をしても2割程度の割合で、胎児に梅毒がうつる「母子感染」が起きることが分かりました。

母子感染すると、赤ちゃんは「先天梅毒」になってしまいます。生まれてまもない時期に発疹が出たり、骨に異常が起きたりすることがあるため、注射などで治療を行います。生まれてすぐに症状がなくても、数年後に、目の炎症や難聴などの症状が出ることもあります。

Q.感染しても治りますか?
A.梅毒は治療法が確立している病気です。飲み薬を一定の期間、飲み続ける方法が一般的です。症状が消えても、自己判断で薬を飲むのをやめずに決められた期間、最後まで飲みきることが大切です。

2022年からは新たな注射薬も販売され、1回の注射で治療を終えることもできます。

三鴨教授は「梅毒は治すことができる病気だ。早期に治療すれば『後期梅毒』まで進むことはないので、梅毒の早い段階で治療することが重要だ」と話しています。