フランスのパリで開かれているパラ陸上の世界選手権は、4位以内に入ると来年のパリパラリンピックの出場枠を獲得できます。
大会3日目の10日は、女子走り幅跳び、義足のクラスの決勝が行われ、大会2連覇を目指す38歳のベテラン、中西選手が出場しました。
中西選手は、2回目の跳躍で4メートル99センチをマークすると、その後は徐々に記録を伸ばし、最後の跳躍では、磨いてきた助走でしっかりスピードに乗って踏み切ると、今シーズンの自己ベストとなる5メートル38センチをマークし、銅メダルを獲得しました。
中西選手は、前回大会の金メダルに続いて2大会連続のメダルで、この結果、今大会、日本勢では初めて、来年のパリパラリンピックの出場枠を獲得しました。
優勝は、両足が義足で東京パラリンピックの金メダリスト、オランダのフラー・ヨング選手で6メートル28センチでした。
このほか、男子400メートル脳性まひなどのクラスの予選には初出場の21歳、松本武尊選手が出場しました。
松本選手は、得意の後半に加速し、今シーズン自己ベストの56秒80をマークして3位に入り、決勝進出を決めました。
![](http://www3r.nhk.or.jp/news/r/html/20230710/K10014124501_2307101800_0710183216_01_02.jpg)
パラ陸上 世界選手権 中西麻耶が銅 女子走り幅跳び 義足クラス
フランス・パリで開かれているパラ陸上の世界選手権で、女子走り幅跳び、義足のクラスの中西麻耶選手が銅メダルを獲得し、来年のパリパラリンピックの出場枠を獲得しました。
![](http://www3r.nhk.or.jp/news/r/html/20230710/K10014124501_2307101800_0710183216_01_03.jpg)
中西麻耶「最後まで負けずに安定した跳躍ができた」
中西麻耶選手は「金メダルを見せたかったというのが自分の中ではあるので、そこは戒めだが、日本に帰ったらみんなで銅メダルを喜びたいと思う」と話していました。
中西選手はコーチがいない状況で1人で練習を重ね、今大会に臨んでいて「こんなに準備ができずに挑んだ世界選手権は初めてだったが、ほかの国の選手といい時間を過ごして、最後まで負けずに安定した跳躍ができたので、よかった」と安心した表情を見せました。
そして、来年のパリパラリンピックの出場枠を獲得したことについて「東京パラリンピック以降、何が変わったのか、皆さんにぜひ見せたいという気持ちがあるので、1大会1大会、自分にできるベストを尽くしてやっていきたい」と話しました。
6メートルの跳躍を目指して 1人で試行錯誤
38歳の中西麻耶選手は、21歳の時に仕事中の事故で右足を失い、2007年にパラ陸上を始めました。
2008年の北京パラリンピックに出場して以来、15年近くパラ陸上をけん引してきた第一人者です。
前回、ドーハで行われた世界選手権で金メダルを獲得し、連覇のかかる今大会に「誠意を持ってひたむきに努力し、挑戦していく。その姿を皆さんに見てもらうことのほうがメダルよりも価値のあること」と特別な思いを持って臨みました。
中西選手は、自国開催となった東京パラリンピックの1年ほど前にアジア記録を更新、東京大会でのメダル獲得に大きな期待がかかりましたが、結果は6位。
さらに、コーチと契約を解消するなど、東京大会後は取り巻く環境が大きく変わりました。
中西選手は現在、コーチがおらず、1人で毎日、様々な練習場所を転々としています。
今大会の1か月前は、高校のグラウンドで練習を行い、体育の授業をする高校生の隣で、黙々と練習に励む姿がありました。
それでも中西選手は、この状況を逆手にとって、1人だからこそ「さまざまなことを試せるチャンス」と自由な発想で独自の練習に取り組んできました。
38歳の中西選手は年齢を重ねたことで体力の低下を感じることも多くなり、助走のスピードが落ちてきたといいます。
これをカバーし、効率のいい走りを模索しようと取り入れたのが、子ども向けの陸上用の練習器具。
右腕が横に流れてしまう癖を直して、スピードにつながる腕の推進力を高めようというものです。
さらに、最近導入したというのが、ピンク色のガムテープです。
義足は感覚が及ばず、踏み切りの位置を把握するのが難しいといいます。
このため、鮮やかな色のテープを踏み切りの位置に貼って、義足の先端の位置を把握しようというものです。
スピードを最大限に生かす踏み切りの技術を追求しています。
中西選手が1人で試行錯誤を続けるのは、今だ到達していない6メートルの跳躍を目指しているからです。
「オリンピックも含めた幅跳びの選手にとって、1つの壁が6メートル。私もそれをクリアして違った景色を見てみたい。パラアスリートとしてでなく、1人の幅跳びの女子選手として味わってみたい」。
今回の世界選手権では、目標の6メートルには届きませんでしたが、大舞台で今シーズンの自己ベストを更新する跳躍を見せました。
大会後には「諦めずにベストを尽くせば何かが手に入るというのは、見せられたのかなと思う。6メートルに手が届く位置にあって、その準備はできている。その手応えを感じている」と充実した表情で語った中西選手。
まだ見ぬ景色を求めて、さらなる飛躍を誓っていました。