介護保険料 高齢者の負担引き上げなどの議論を再開 厚労省部会

65歳以上の高齢者が負担する介護保険料の見直しなどについて厚生労働省の専門家部会は10日、半年ぶりに議論を再開しました。
物価高騰などの影響で先送りされてきましたが、来年度の制度改正に向けて、一定以上の所得がある高齢者の保険料の引き上げなどについて検討し、年内をめどに結論をとりまとめる方針です。

介護保険制度は、3年に1度、内容や負担額などを見直していて来年度の制度改正に向けて厚生労働省の専門家部会で議論が行われています。

介護にかかる費用が増え続け、持続可能な仕組みをつくることが急務となる中、高齢者の負担の引き上げなどについて検討されてきましたが、物価高騰などを受けて「生活への影響を慎重に検討する必要がある」として、結論が先送りされていました。

10日、半年ぶりに議論が再開され、65歳以上の高齢者が負担する介護保険料について、一定以上の所得がある人の負担額を引き上げた上で、低所得者の負担額を引き下げることや介護サービスを受けた際の自己負担を所得に応じて引き上げるかどうかについて意見が交わされました。

委員からは「現役世代がどれほど制度を支えられるのか社会全体で納得できるよう負担の議論を行うべきだ」という意見や、「支払い能力に応じた負担はすべきだが、負担増により、介護サービスの利用を控えることにならないよう、慎重に議論すべきだ」という意見が出されました。

部会では年内をめどに結論をとりまとめる方針で、この秋から本格的に始まる介護事業者に支払われる介護報酬の改定に向けた議論と並行して検討が進められます。

専門家「高齢者世代の中で負担の分配が求められる」

介護の問題について詳しい東洋大学の高野龍昭教授は今後も介護保険制度を維持していく上で、誰がどう負担をしていくかについて「介護保険制度に関して若い人からたくさん負担を求めるのはそろそろ限界だ。一定程度は負担をお願いするとしても、高齢者世代の中で負担を分け合い分配することが求められる新しいフェーズに入っている」と述べました。

その上で、「物価の上昇やコロナ禍以降の生活の困難さを考えると、生活が成り立つ形での保険料負担を考えないといけない。どのレベルで負担いただくべきなのか、生活実態をとらえた上で、慎重に議論する必要がある」と話していました。

2つの負担の見直しについて検討

来年度の介護保険制度の改正に向けては、2つの負担の見直しについて検討が行われています。

1つ目は65歳以上の高齢者が負担する介護保険料の見直しです。

介護保険料は40歳から64歳までの現役世代が支払う保険料と、65歳以上の高齢者が支払う保険料の2種類あります。

このうち、65歳以上の高齢者が負担する介護保険料について、一定以上の所得がある高齢者は負担額を引き上げる一方、低所得の高齢者については負担額を引き下げる方向で、どのくらいの収入の人を対象に、どの程度負担額を引き上げるかなどについて検討が行われます。

介護保険料は、介護保険制度が始まった23年前の2000年度は全国平均で月2911円でしたが、急速な高齢化が進む中、現在は月6014円と2倍以上になり、2040年度には月9000円程度になると推計されています。

物価高なども重なって、所得が低い高齢者の実質的な負担が増す中で、高齢者どうしで負担を分け合い、制度を持続可能なものにしたいとしています。

2つ目は介護サービスを利用した際に支払う自己負担額の見直しです。

現在、介護サービスを利用した際の自己負担の割合は原則1割で、所得に応じて2割または3割と段階的に定められています。

介護を必要とする人は年々増加し、それに伴って介護サービスにかかる費用も増えていることから、制度を持続可能なものとするため、2割または3割を負担する対象者を増やすことができないか検討されています。

議論の経緯は

介護保険制度は、3年に一度、負担のあり方などについて見直しが行われていて、来年度の改定内容については、去年秋から厚生労働省の専門家部会で議論が始まりました。

当初は、去年の年末に結論を取りまとめる予定でしたが、物価高騰の影響などを考慮すると、負担額が増加した場合の高齢者の生活への影響を慎重に検討する必要があるとして議論を継続することになり、ことし夏までに結論を出すことになりました。

しかしその後、ことしの春闘で他職種の賃上げの動きが広がり、今後、介護職員の報酬も上げることを考えると、この秋から行われる介護報酬の改定の議論と同時に進める必要があるとして、結論を取りまとめる時期が再び延期され、ことしの年末まで検討を続けることになりました。

そして10日、半年ぶりに高齢者の負担のあり方についての専門家の議論が再開されました。

年々増加する要介護者と介護サービス費用

介護が必要な高齢者の数は高齢化に伴い年々増加し、ことし3月末時点で、およそ694万人と、介護保険制度が始まった2000年4月末時点の3倍以上に増えました。

これに伴い、介護サービスにかかる費用も年々増加し、今年度の総額は予算ベースで13兆8000億円で、機械的な試算では、2025年度にはおよそ15兆円に、さらに団塊ジュニアの世代が65歳以上になる2040年度にはおよそ26兆円になると推計されています。

一方、保険料を高齢者とともに支払い、制度を支えている40歳から64歳までの現役世代は減少傾向で、このままでは財源を確保できなくなるおそれがあり、費用を抑制し制度を持続可能なものにすることが課題となっています。