ロシア敵視のアゾフ大隊元指揮官 トルコからウクライナへ

ロシアが敵視してきたウクライナ側の部隊の元指揮官らが、トルコからウクライナに帰国することが明らかになりました。
ロシア側は不快感を示していて、仲介役を果たしてきたトルコとロシアとの関係も注目されそうです。

ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、訪問先のトルコで、ロシアとウクライナの仲介にあたるエルドアン大統領と会談し、その後の記者会見でエルドアン大統領はウクライナのNATO=北大西洋条約機構への加盟を支持する考えを示しました。

ゼレンスキー大統領はこれを歓迎したのに続いて、8日にはSNSで、ウクライナ東部の要衝マリウポリなどで防衛に関わった当時の「アゾフ大隊」の指揮官ら5人がトルコからウクライナに帰国することを明らかにしました。

元指揮官らはロシア軍の捕虜になったあと、トルコが仲介したロシアとウクライナの捕虜交換で解放され、その後、トルコで生活を続けていたということです。

捕虜交換にあたっては、元指揮官らがトルコにとどまることが条件になっていたとされ、ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日、国営のロシア通信に対し、捕虜交換の合意に反する行為だと不快感を示しました。

トルコのエルドアン大統領は、来月にもロシアのプーチン大統領を招いて会談を行いたい考えを示していますが、ロシアとトルコとの今後の関係に影響が出るのか注目されそうです。

ゼレンスキー大統領「帰国を心から喜ぶ」

ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、自身のSNS上に訪問先のトルコのイスタンブールの空港で撮影した新たな動画を投稿しました。

動画には車から降りてくる5人をゼレンスキー大統領が握手で迎え、抱擁を交わす様子が写っています。

ウクライナ大統領府によりますと、5人はロシアによる軍事侵攻当初、激戦となった東部の要衝マリウポリなどの防衛に関わった準軍事組織「アゾフ大隊」の元指揮官らで、一時はロシア軍の捕虜となっていましたが、解放されたあとはトルコにいたということです。

今回、トルコとの交渉の結果、ウクライナに帰国することになり、ゼレンスキー大統領は「あなたたちはわれわれの英雄だ。祖国への帰国を心から喜んでいる」と話したということです。

専門家「輸出合意の延長など ロシアとの交渉カードに」

トルコの政治や外交が専門のジェトロ・アジア経済研究所の今井宏平研究員は、トルコ側のねらいについて、ウクライナ産の農産物の輸出合意の延長など、ロシアとの交渉に当たるうえでのカードにしたい思惑があると分析しています。

エルドアン大統領がウクライナのNATO=北大西洋条約機構への加盟を支持したことについて、今井研究員は「ウクライナのNATO加盟は承認プロセスに入っているわけではなく、将来のこととして考えていて、リップサービスとしての要素が強い。ロシアに対して圧力をかけるねらいもあると考えられる」と述べ、7月17日に期限を迎える、ウクライナ産の農産物輸出を可能にする合意の延長に応じない構えを示しているロシアへのけん制だという見方を示しました。

そのうえで、捕虜交換でトルコにとどまることが条件となっていたとされる当時の「アゾフ大隊」の指揮官らがウクライナに帰国したことについては、「この範ちゅうならロシア側ものむだろうと確認したうえでの行動だと思われる。仲介に重きを置くトルコの考えに変わりはなく、みずからその役割を放棄することは考えにくい」として、8月、プーチン大統領をトルコに招きたい考えをエルドアン大統領が示す中、トルコとしてバランス外交を続ける方針に変わりはないと指摘しました。