西日本豪雨から5年 いまも7割が心身への影響訴える 愛媛

5年前の西日本豪雨では、愛媛県内で災害関連死を含めて33人が亡くなる甚大な被害が出ました。

NHKが愛媛県の被災者100人余りにアンケートを行ったところ、いまも7割の人が心身への影響などを訴えていることがわかりました。いまも被災者に寄り添った継続的な支援が求められています。

2018年の西日本豪雨で、愛媛県では7月7日に川の氾濫や土砂災害などが相次ぎ、災害関連死の6人を含む33人が亡くなり、建物の被害は6600棟余りにのぼりました。

災害公営住宅に入居した被災者は70世帯131人で、賃貸住宅を活用した「みなし仮設」には住宅近くの砂防ダムの工事が完了していないとして、現在も宇和島市の5世帯14人が暮らしています。

豪雨から5年を前に、NHKは愛媛県内で特に被害が甚大だった西予市や宇和島市、大洲市などの被災者およそ200人を対象にアンケートを行い、102人から回答を得ました。

その結果、いまも心身への影響を訴える被災者が71%にのぼることが分かりました。

具体的な影響を複数回答で尋ねたところ、「不安感やストレスが高まった」が48人、「孤独感を感じる」が18人、「よく眠れない」が15人などとなっています。

また、経済的な影響について、5年前より悪化したと回答した人は40%、地域の復興の遅れや停滞を感じている人は32%でした。

心身への影響訴える被災者は

愛媛県宇和島市で1人暮らしをする宮本好さん(83)は、アンケートでいまも心身への影響があると訴えていました。

5年前の西日本豪雨では、宮本さんの自宅の脇を流れる白井谷川があふれ、自宅が床上10センチまで浸水しました。

この川は幅2メートルほどの小さな川で、ふだんは水の量も少ないということですが、当時は濁流が激しい音とともに流れていたということです。

その後、宮本さんは自宅に戻れないまま3か月間、避難所での生活を送りましたが、このころから不眠になったり、急に不安を感じたりすることが出始めたということです。

また、川の濁流の音が頭の中を響きわたることもあると言います。

精神的に不安定な状況が続く中、宮本さんは地元のNPO団体「宇和島NPOセンター」を定期的に訪れて、悩みや不安など心の胸の内を相談しています。

宮本さんは「5年が過ぎても完全によくなったということはありませんが、相談して、じっくり話を聞いてもらうことで、心の負担が楽になります」と話していました。

災害公営住宅で暮らす被災者「この先どうなるか不安」

愛媛県西予市の災害公営住宅で暮らす山本信子さん(86)は、5年前より経済的な状況が悪化しているとアンケートに回答していました。

山本さんの収入は年金で1か月あたり7万円ほどで、心臓などの病気の医療費を差し引くと、毎月6万円ほどの生活費で暮らしているということです。

災害公営住宅の家賃について、市は被災者の経済状況に配慮し5年間は家賃の段階的な減額を行っています。

山本さんは豪雨で被災した自宅が再建できなくなり、仮設住宅で生活したあと、2021年に災害公営住宅に入居しました。

入居直後の家賃は毎月2900円でしたが、現在8700円に上がっていて、減額が終了する3年後には、1万7400円になります。

山本さんは高くなる家賃に備えて貯金をするため、知人からもらう野菜で献立を決めたり、値引きされた総菜を購入したりしています。

また光熱費を抑えるため、長時間電気を使う煮物料理は控えていて、生活を切り詰めているといいます。

山本さんは「この先どうなるか不安なので微々たる金額ですが、生活を切り詰めて貯金して、高くなる家賃に備えています」と話していました。

宇和島市のみかん農家「復興はまだ道半ば」

愛媛県宇和島市のみかん農家、中島利昌さん(63)は、西日本豪雨でみかん畑が土砂崩れの被害を受けました。

30年以上、育ててきたみかんの木が土砂に流されたほか、スプリンクラーや農業用のモノレールも失いました。

復旧した畑でおととしから栽培を再開しましたが、被災前の品質のみかんを収穫するにはあと8年はかかるといいます。

収入は3割減という厳しい状況が続き、肥料の高騰も追い打ちをかけています。

中島さんは「栽培に時間がかかる農家にとって、まだまだ厳しい状況が続いていて、復興はまだ道半ばだと感じています」と話していました。

専門家「支援を続けることが大切」

アンケートの結果について愛媛大学防災情報研究センターの二神透副センター長は、「多くの被災者がいまもPTSDのような症状を訴えていて、非常に驚いた。コロナ禍で人間関係が制限されたことで、豪雨被害の精神的なダメージが回復できなかった人もいるのではないか。被災者に寄り添い、支援を続けることが大切だ」と話しています。

被災者の経済的な状況については、「5年が経過し補助制度も縮小されてきた中、免税などを通して被災者を支援する措置を検討すべきだ。被災者が復興を感じられない最大の理由は、歯止めがかからない人口減少にあると思う。地域を活性化させる若い人を被災地に呼び込む移住策を打ち出すことが必要だ」と話していました。