「2024年問題」の切り札に?新幹線で輸送するのは…

「2024年問題」の切り札に?新幹線で輸送するのは…
新幹線で青森県産のホタテやウニを運ぶ。これまでも、同様の取り組みを行ってきたJR東日本だが、今回は、ねらいが違う。積んだ荷物は過去最大となる600箱。「2024年問題」の解消に一役買おうと行われた実証実験なのだ。取材を通して見えてきたのは、多くの課題と、それと同じくらい大きな期待だった。(青森放送局記者 早瀬翔)

早朝の取材開始

取材は朝早かった。

午前5時、青森県漁連の流通施設で箱詰めされる生きたホタテを取材した。
養殖ホタテ日本一、ホタテ王国の青森。

新幹線だと青森から首都圏まで実輸送時間で4時間かからずに届けられる。

この日行われたのは、新幹線を使った多量輸送の実証実験だ。

ホタテを通して、JR東日本の取り組みを追ってみようと考えた。
おいしそうなホタテ、ホヤ、ウニ。

それに、朝、県内各地の港から水揚げされたばかりのアマダイやノドグロ。

ホタテは生けすから取り出され、すぐにこん包されていった。

朝早い取材をねぎらわれ、ホタテを1ついただいた。
朝食を食べ損なった私の眠い体にホタテの甘みが染み渡り、幸せな気分だ。

「青森の味」、取れたてのおいしいホタテを首都圏の多くの人に味わってもらいたいと、改めて感じた。

新幹線輸送にむけて、ホタテなどの魚介類が、トラックに積み込まれ向かったのは、新青森駅…。

ではなく、新青森駅に程近い東北新幹線の車両基地だ。
今回の取り組み、これまでJR東日本が新幹線で運んでいた荷物のおよそ3倍、600箱にのぼる。

ホタテなどの魚介類をはじめ、電子部品から生花まで、荷物の種類もさまざまだ。

ダイヤに追われる新幹線のホームで積み込み作業をしていては、時間は制限されるし、作業スペースも限られている。

そこで、車両基地での積み込みを行うことになった。

トラックから降ろされた荷物は、無人の運搬車で100メートルほど運ぶ。
建物の2階くらいの高さのスロープも、難なく上っていく。

人手も時間もかけずに作業を行い、より多くの荷物をなるべくコストをかけずに運ぶ。

今回の実証実験のテーマでもある。

車両基地での積み込み、そして、無人の運搬車とも、JR東日本にとって今回が初めてだという。

コロナ禍も一段落して、乗客も戻りつつある新幹線。

今なぜこうした実験を行うのか。

「2024年問題」東北にも大きな影響

背景にあるのが、物流業界の「2024年問題」だ。
労働環境の改善に向けて、来年4月にトラックドライバーの時間外労働の規制が強化されることから、輸送力の減少が懸念されている。

野村総合研究所の試算では、このまま対策を打たなければ、全国で2030年には35%の荷物が運べなくなるとしていて、青森県でも44%の荷物が運べなくなるという。

青森県特産のホタテなどは、多くがトラックで首都圏に運ばれて、販売されている。
しかし、輸送量が減れば、これまでどおりにこうした特産品が首都圏などに運べなくなるおそれもある。

消費地から遠い青森県にとって、この「2024年問題」は深刻な問題だ。

県漁連の流通施設でこん包作業を行っていた運送業者の男性。

2024年問題について、こう吐露した。
「『2024年問題』は非常に大きな問題だ。ドライバーの労働時間を考えると、今のような運行は厳しい。さらに長距離ドライバーの年齢も、だいぶ高くなっていて、特に魚を運ぶドライバーは、だいぶ減っている」
この問題に一役買おうと行われたのが今回の実証実験だ。

トラックに比べ費用はかかるが、新幹線でこれまで以上に多くの荷物を一度に運ぶことで、新たな輸送手段を探ろうというのだ。
「2024問題の遠距離が非常に輸送しづらくなるという部分で言えば、JR東日本は、これだけ長い距離のレールを持っている。そういう部分の一助を担って対応できていけばいいかなと考えている」

新鮮なホタテ、そりゃ人気です

話を新幹線に戻そう。

実証実験で使われたのは通常ダイヤにはない臨時列車だ。
5両目までは利用客、そのあとの3つの車両に荷物が積まれた。

午前9時半すぎに新青森駅を出発し、雨の中、走ることおよそ3時間。
午後0時半ごろ、予定どおりの時刻に大宮駅に到着した。

ホームにおろされた荷物は屋上駐車場に運ばれ、目的地ごとに分類されてトラックに乗せられ出発していく。

このあと私が向かったのは、千葉県のスーパーだ。

そこには、新幹線で運ばれたことなどを示すポップともに、ホタテなどの魚介類が早速店頭にならんだ。
青森県漁連の施設を出て8時間、青森を出て5時間余りで、千葉県に並んだホタテ。

早速店を訪れた千葉の人たちが手に取っていった。
「千葉まで(新鮮なホタテが)来るとは思わなかった。鮮度があって、地元に行って食べているみたい」

課題、そして期待と不安

新函館北斗駅まで寝過ごさないか、不安を抱えながら青森への帰りの新幹線に乗り、一日の取材を振り返ってみた。

多くの人に話を聞いたが、よく聞かれたのが、「速さ」への期待の声だ。
「普通のトラックで配送するとだいたい一昼夜かかって東京・関東方面に行くが、新幹線を使えば最短で3時間半、結構なメリットはあると思う」
「長距離のトラックドライバーが減っている中で、かかる時間が大幅に減ることが、やはりなにより期待される」
「地元で消費されちゃってる商品とか、けっこうある。そういったものを新幹線物流でスピーディーに運んで販売するという形は客にとって受けるのではないか」
一方で、同じ人たちからは、課題を指摘する声もあった。
「新幹線で運ぶためには厳重にこん包しなければならず、今回の200箱で、ふだんより2時間近く余分に時間がかかった。人件費がもったいないし、せっかく鮮度いいものがこん包作業で時間がかかってしまうのがもったいない」
「トラックには、常温、冷蔵、冷凍と用途に分けて種類があるが、新幹線は常に常温だ。コストも、新幹線だとトラックの4倍から5倍くらいかかる」
新幹線輸送のネックはやはり、速さ、安定性ゆえのコストだ。

さらに、輸送にかかる手間などを指摘する声もあった。

JR東日本は、今年度中に複数回の実証実験を行い、新幹線を使った多量輸送の実用化を目指すとしている。
JR東日本 マーケティング本部 堤口貴子マネージャー
「実証実験をすることでどこで、どのくらい費用がかかるかこれから調べたい。基本は既存インフラを使ってやっていくので、あまり増コストという形は余り考えず対応したい」
海なし県の埼玉県出身の私が青森に来て、なにがよかったと考えると、まず新鮮な魚、果物、野菜といった生鮮品が思い浮かぶ。

そして、これを多くの人に、鮮度のよい状態で食べてもらいたいとも思う。
青森県は、こうした県産品について、「攻めの農林水産業」と銘打って、ブランド化を進め、付加価値を高めてきた。

しかし、果物や魚介類など、せっかくいいものがとれても消費地に運ぶことができなければ売ることができない。

来年4月には、物流の「2024年問題」が顕在化するが、もう1年を切っている。

今回のような取り組みが問題解消の一助となるのか。

引き続き注目していきたい。
青森放送局記者
早瀬 翔
2016年入局
名古屋放送局を経て2020年から青森放送局
県政、原子力や青森ねぶた祭の取材を担当
青森にきてホタテを食べられるようになった