ウクライナ ダム決壊から1か月 深刻な水不足で生活ひっ迫も

ウクライナ南部のカホウカ水力発電所のダムが決壊してから6日で1か月です。

決壊の影響でこれまでに少なくとも21人が死亡し、さらに決壊でダムの貯水池の水位が大きく低下。上流では、赤ちゃんの服を洗うのも困難なほど、深刻な水不足が起きています。

地域の住民の生活はいま、どうなっているのか。衛星画像の分析とともに詳しくお伝えします。

水不足 給水でしのぐ村

人口およそ1万1000の村、ドニプロペトロウシク州の村シュロケでは、ダムの決壊以降、水道の水圧が3分の1程度になり水が出にくい状態が続いていて、地元の当局は6月19日からペットボトルに入った飲料水を提供しています。

3日も水を受け取りに住民たちが配給場所となっている地元政府の庁舎を次々と訪ねていました。

31歳の男性は「ダムの決壊以降、水道の水圧が弱まり、全く水が出なくなった集落もある。地元当局による水の提供はありがたい」と話していました。

地元当局の責任者は「別の水源から水が供給できるよう水道の工事が行われている。住民は水不足を懸念しているが誰も取り残されないようにしていきたい」と話していました。

衛星画像には 干上がったダムの姿

ESA=ヨーロッパ宇宙機関の人工衛星が7月3日にダムの貯水池を撮影した画像です。

6月3日の画像と比較するとダムが決壊した場所から160キロほどさかのぼった上流の部分まで、濃い青だった貯水池のほぼ全体が白く見えます。

貯水池の底はむき出しに

拡大して見てみると、貯水池の水がなくなって、わずかに流れる部分を残して干上がり、貯水池の底がむき出しになっているのがわかります。

ドニプロペトロウシク州の村、ビルネからおよそ40キロ離れた場所では、周囲の都市や村の水路とつながる部分がほとんど干上がり、周辺に十分な水を供給できなくなっていることがうかがえます。

決壊したカホウカ水力発電所のダムは貯水池の水量が、びわ湖の3分の2にあたり、流域の広大な範囲に生活用水や工業用水、それに農業用水を供給してきました。

しかし、ウクライナ政府によりますと、水量は先月6月11日の時点で7割ほど失われたということです。

ダム決壊で死者21人 避難者は2700人余に

決壊によって下流のヘルソン州では直後から大規模な洪水が起き、ウクライナ政府は、避難中にロシア軍の攻撃で死亡した人も含めこれまでに少なくとも21人の死亡が確認されたと発表しています。

ヘルソン州だけで避難を余儀なくされた人は2700人以上にのぼるということです。さらに、800棟を超える住宅が被害を受けました。

また、ロシアが占領するドニプロ川の南東側でも、甚大な被害が出ていると指摘されていて、ウクライナ政府は6月28日、「ロシアが60人以上の遺体を見つけた」と発表しましたが、ロシア側は国連などの立ち入りを認めておらず、洪水の被害の全容は今もわかっていません。

節水迫られる村民は

ダムの決壊後、これまで通り水道水が使えない事態に直面する村もあります。

ダムから北に100キロあまり離れたドニプロペトロウシク州の村、ビルネでは、これまでダムの貯水池とつながる水路から水を引いて生活用水や農業用水として利用してきました。

しかし、地元の人によりますと村にある水路の水位は2メートルほど低下しているということで、十分な水を供給できなくなっています。

村では節水のため、朝と夕方の限られた時間だけ水道水を供給する措置をとっていて、このうち村で1人暮らしをするマヤ・ダシュコさん(81)は、朝と夕方にバケツに水をためてやりくりする生活を強いられています。

週末には次男のアンドリーさんが自宅のある首都キーウから訪れて支援にあたっていました。

ダシュコさんは、「水をバケツにためて、運ぶのは大変な作業なので、とても助かる」と話していました。

アンドリーさんは「ロシアはインフラを破壊し、ウクライナの人々を屈服させたいのだろうが、ここは私たちの土地であり、絶対に屈しない」と話していました。

赤ちゃんの服 洗うことも難しく

また、同じビルネに住むスビトラーナ・ドマシェンコさん(68)は、6月産まれたばかりの孫の服を洗う水にも困る事態に直面しています。

ドマシェンコさんはミルクを売り生活の糧とするため12頭のヤギを飼っていますが水道が使える時間が限られていることから、水の確保に追われる毎日だと言います。

さらに、村では節水のため、洗車や庭に水をまくことが厳しく禁じられるようになりました。

ドマシェンコさんは水やりが出来ず、長年育ててきた庭の花が枯れ始めたということで「この先はいったいどうなるのか。私にとって花はとても大切ですが、いまの一番の問題は生き残ることだ」と不安をもらしていました。

21万人が深刻な水不足に 国連が推計

決壊から7月6日で1か月となり浸水している地域は大幅に減っていますが、ダムより上流の地域では貯水池の水位の低下によって広い地域に十分な水が供給できなくなり、国連は21万人が深刻な水不足に陥っていると推計しています。

洪水の被害のあったヘルソン州などでの支援活動を指揮する国連のカロリーナ・リンドホルム人道調整官は、4日、オンラインでNHKのインタビューに応じ、「今後は住宅の修復への支援も必要だが、この地域はいまだに定期的な砲撃を受けていて、安全上のリスクが高い」と述べロシア側による攻撃で人道支援が難しい状態に陥っていると指摘しました。

国連「長期的な支援必要」

そして「人々が飲む水や農地をかんがいする水の源が失われ、日常的に水を使えない地域になっている。われわれはいまダムの決壊がもたらす長期的な被害を目の当たりにしている」と述べ水道やかんがい施設の復旧など長期的な支援が必要だとの認識を示しました。

さらに、ロシアが占領するドニプロ川の南東側では被害の全容が依然としてつかめていないとして「われわれは立ち入りを要求し続けているが、現時点では、物資の配布や立ち入りは認められていない」と述べ、ロシア側が引き続き、国連の人道支援を受け入れていない状況に危機感をあらわにしました。