密着!地方スーパー生き残りの模索

密着!地方スーパー生き残りの模索
私たちの生活に身近なスーパーマーケット。毎日通っているという人も多いでしょうし、いわゆる“買い物弱者”の強い味方ともされています。しかし今、苦境に陥る中小スーパーが相次いでいます。記録的な物価高のあおりもあって倒産が増加。特に地方では、その影響が深刻です。それでも、何とか巻き返しを図ろうとする現場の取り組みを追いました。(松江放送局記者 奥野葉月)

地方スーパーを襲う“ダブルパンチ”

「起死回生のリニューアルに踏み出すスーパーがある」

ことし4月、ある金融関係者からそんな情報を耳にし、取材を始めることにしました。

その店は松江市郊外にあるとのこと。
“起死回生”ということばにひかれ、取材に向かいました。

社長に話を聞くと、リニューアルの目的についてこう語りました。
「時代に合った新しい形のスーパーをつくらなければならない」
ことしで21周年を迎えるこのスーパー。地域密着のスーパーとして営業を続けてきました。

オープン当時の写真を見せてもらうと、開店前から行列が。
以来、長きにわたって地域の食を支えてきたといいますが、今、2つの苦境にさらされているといいます。

その1つが、ライバルとの競争激化。

オープン当時、食料品を扱う店はわずか数件でしたが、近年は、大型スーパーをはじめ、コンビニやドラッグストアなど、ライバル企業が続々と進出。消費者の奪い合いが激しくなっています。

こうした動きもあって売り上げは減少に転じ、去年は前の年より10%ほど下がりました。

もう1つが、エネルギー価格の高騰です。

ウクライナ侵攻などによるエネルギー価格の高騰で、電気代は右肩上がりに上昇。

去年の電気代は、前の年と比べると、およそ1000万円も増加し、もはや節電だけでは吸収し切れないといいます。
岸本 代表取締役
「食品を扱う店や業種が増え、競合が非常に厳しくなっている一方で、電気代をはじめ、経費はどんどん上がり続けている。企業努力で減らせるところは減らしてきたが、構造を変えないと難しい」

コロナ禍の勝ち組だったのでは…?

そもそも、スーパーと言えば、コロナ禍の巣ごもり需要をうまく取り込んだ、いわゆる“勝ち組”のイメージが強いという人もいるかもしれません。

ただ、民間の信用調査会社「帝国データバンク」によりますと、業績が好調なスーパーの多くは、都市部に集中し、地方、特に過疎地では苦しい経営を迫られているところも少なくないと言います。

要因の1つが、食料品をはじめとする物価の高騰です。

大手のスーパーであれば、商品を大量に仕入れて価格を抑えることができますが、体力のない地方の中小企業にはそれができません。

しかもスーパーは、値上げによる“客離れ”が起こりやすい業種とされていて、価格転嫁が難しいという側面もあります。

倒産という最悪の事態を防ぐためには、会社の構造そのものを変えなければならない。

このスーパーでは、社運をかけたリニューアルを決意します。

いったいどのような取り組みを進めたのでしょうか。

冷凍庫を一気に見直し

掲げた目標の1つが、“電気代の3割カット。

まず目をつけたのは、消費電力が特に多い冷凍庫です。

スーパーといえば、客が商品を見やすく取り出しやすい、フタがないタイプの冷凍庫がおなじみです。
しかし店では、この冷凍庫にかかる電気代が、店全体の大半を占めていました。

そこでこうしたタイプの冷凍庫を、11台から2台まで一気に削減。

代わりに、扉つきで冷気を逃しにくく電気代も抑制できる、新たな冷凍庫に入れ替えることにしました。
岸本 代表取締役
「電気を消したり、温度を上げたりいろいろ工夫し、(電気代を)10%くらいは下げることができた。ただあと20%というと、大きく何かをかえていかないとできないということでオープンケースを減らすしかないと。スーパーは夏に電気代が一番上がるので、なんとしてでも夏までに改装したいと思った」
さらに、フロア面積を3割ほど縮小しました。

店自体をコンパクトにすることで、電気代のさらなる削減もねらいます。

地域密着のスーパーとしての強みを生かそうと、リニューアルは多くの地元関係者を巻き込んで行われました。

商工会が関係者の調整に奔走。

5000万円という改装資金は地元の金融機関が支援することになりました。

総菜の開発にあたっては、飲食店関係者がスタート段階から加わり、メニューや味を検討。
地元の食材も積極的に取り扱い、素材から手作りした総菜の数も大幅に増やしました。

店頭に並べた商品には、新たに店員手書きのポップを添え、魅力をアピールしています。
そして、取り組みの中でも特に力を入れたのが、従業員の意識改革です。

経営デザイナーのアドバイスのもと、精肉や青果などの各コーナーを、独立した“商店”として扱い、責任者の肩書も“店主”に改めました。
“店主”は、“商店”ごとに振り分けられた予算を元に、商品の仕入れを主体的に行うとともに、陳列方法から売れ行きまで責任を持つことになりました。

そして迎えた5月下旬のリニューアルオープン当日。

店の外には、開店前から50人を超える客の行列ができていました。
午前10時の開店とともに一斉に入店し、店内は大にぎわいに。

売り場に新たに設置された対面式のカウンターでは、“店主”たちが客と直接やりとりしながらおすすめ商品を盛んに売り出し、利用客の評判も上々でした。
買い物客
「以前より雰囲気が明るくなりました。お祭りみたいなにぎやかな感じで子どもも喜んでいます。こういう店が近くにあると助かります」
店では今後も“スーパーの常識”にとらわれず、生き残りをかけた努力を続けていくとしています。
岸本 代表取締役
「スピード感をわれわれの武器にして、時代の流れ、客のニーズに応えられるようにしていきたい」

どうなる?地方スーパーの未来

時代が大きく変わる中、今後、地方スーパーが生き残っていくにはどうするべきなのか。

地域の企業活動に詳しい帝国データバンク松江支店の豊田貴志支店長は、「その地域で、その店にしかできない役割を担うことがカギになる」と指摘しています。
豊田 支店長
「大手スーパーの地方進出は今後も続く見込みで、単純な価格競争では地方の小さなスーパーに勝ち目はない。品ぞろえやサービスの独自性はもちろん、地域との連携や地元への貢献など、県外資本の店にはなかなかできないような戦略を打ち出し、存在感を示していくことが必要になる」
記録的な物価高が続く昨今、消費者としては、ついつい“安さ”に目がいきがちです。

もちろん価格も大切ですが、地域に密着した店舗としての魅力を最大限生かそうというリニューアルには、スーパーという業種を超え、地方の中小企業が生き残っていくためのヒントをかいま見たように思います。

これが地方スーパーの“逆転物語”の始まりになるのか、注目したいと思います。
松江放送局記者
奥野葉月
2018年入局
初任地の島根でさまざまな地元企業を取材
スーパーでは「島根産」を探しがち