ハワイ・ホノルルの新鉄道乗ってみたよ!高まる期待と課題は?

ハワイ・ホノルルの新鉄道乗ってみたよ!高まる期待と課題は?
窓いっぱいに広がる常夏ハワイの大自然。展望台からの景色ではありません。これまで見たことのない、高架を走る鉄道の車窓からの風景に、一瞬で目を奪われました。

6月30日から地元の人たちが待ちわびていた、ハワイ初の本格的な鉄道の運行が始まったのです。

日本人観光客にも人気のハワイでの鉄道導入。体験乗車をしつつ、この島に及ぼす経済的なメリットと課題を見てみます。

(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

ハワイらしさ満点!

ハワイにとって、初めてとなる高架式の本格的な旅客鉄道事業。

私も現地に赴き、乗車してみました。印象的なのは、車窓から見えるダイヤモンドヘッドなどの雄大な景色。
観光PRのYouTube動画では見たことがありましたが、自分の肉眼で、この高さからこのような雄大な景色を見ることができるとは思いませんでした。

車内はとっても静か。座席に座らず立って景色を眺めていても、比較的スムーズな乗り心地です。
車内アナウンスは、英語だけではありません。「ドアが開きます、ご注意ください」などハワイ語でも放送がありました。

さらに車内には無料のWi-Fiも完備。通勤中のメールの返信などにも便利だと思いました。

この路線、高架鉄道の車窓から見える雄大な風景にちなんで「スカイライン」と名付けられています。

車内にもハワイらしさが満点。

ハワイでは、サーフィンやサイクリングを楽しむ人が多いため、サーフボードや自転車を置くことができる幅の広い棚も用意されていました。

車両は日立製 完全自動運転

電車に乗ると、運転席がないことに気がつきます。
この電車、運転士などが乗っていない完全自動運転で運行されているのです。

車両とこの自動運転システムを納入したのは、日本の大手電機メーカー、日立製作所のグループ会社。アメリカで初めての完全自動運転の鉄道に、日立の技術が活用されています。
完全自動運転の電車はどのように運行されているのか。このシステムの中枢、オペレーションズセンターを取材しました。
列車の間隔や車両、それに線路の状態などに問題がないか、24時間体制で監視しています。
日立製作所 アリステア・ドーマー執行役副社長
「ホノルルのような都市が最新の技術を導入し、より多くの人が車ではなく、環境に優しい効率的な交通システムを利用できるようになったのはすばらしい。アメリカは重要な市場の1つだ」

鉄道が走るルートは

この電車の路線、計画されているのは島の南部およそ30キロ、19駅の区間です。

ホノルル郊外の住宅街や地元の大学がある地域から空港を経由し、ホノルル中心部までを結ぶ予定です。

この鉄道プロジェクトは3段階に分かれていて、今回6月30日から運行を開始したのは全体のおよそ半分にあたる、ホノルル郊外のイースト・カポレイ駅からアロハスタジアム駅までの17キロ余り、9駅の区間となっています。
2025年までに空港を含むさらに4つの駅の区間で運行を開始し、ダウンタウンなど中心部を通る残りの6つの駅の区間を含め、2031年までに全線開通する見通しです。

ホノルル市によりますと、専門家の見立てでは、全線開通で1日当たり8万5000人が利用するようになるとみられているといいます。
運行開始から5日間は誰でも無料で乗車できましたが、通常は、市営バスでも使われている交通系ICカードの「HOLO(ホロ)カード」を使って乗ります。
HOLOはハワイ語で「歩く」「進む」などという意味です。

日本のSuicaなどと同じように、事前にチャージして使います。料金は大人の場合1回の乗車で3ドル、1日乗車券だと7ドル50セントなどとなっています。

平日は午前5時から午後7時まで、土日と祝日は午前8時から午後7時まで、10分間隔で運行されます。

地元の期待は 渋滞と環境

アメリカメディアによりますと、初日だけで9000人近くの人が乗車したといいます。

運行初日、電車に初めて乗った人たちに話を聞くことができました。

多くの人が口にしたのが、渋滞の緩和への期待。

ホノルルは、全米でも最も渋滞が深刻な場所の1つで、中には朝4時ごろから通勤や通学の渋滞が始まる地域もあるほどです。
通勤やショッピングに利用したいという声を多く耳にしました。

車から電車へと移動手段のシフトが進めば、二酸化炭素などの温室効果ガスの削減につながり、環境にもプラスだと期待されています。
日立によりますと、列車1編成で運ぶことができるのは最大800人で、これはホノルルの市営バス10台分の利用者にあたり、車の利用も減れば渋滞の緩和にも貢献できるほか、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量の削減にもつながると期待されています。
中にはこんな人も。

ホノルル郊外に住むビッキー・ケネディさん(78)。23年前、病気で視力を完全に失ったため、盲導犬と一緒に暮らしています。
用事がある時には、毎回、夫や友人に車での送迎をお願いしてきました。

みんな快く送迎してくれるものの、忙しそうな時には気が引けるというケネディさん。電車で自由を手に入れられると感じています。
ホノルル市民 ビッキー・ケネディさん
「建設に時間がかかったので、私が生きているうちに完成するのか、半信半疑だったが、運行が始まってうれしい。盲導犬と一緒に電車に乗って行きたいところへ行けることで自分は自立していると感じることができる」

全米で最も高い鉄道に

一方で課題もあります。

ハワイの公共政策の課題などについて研究している、グラスルーツ・インスティチュート・オブ・ハワイによると、この鉄道プロジェクトの構想が持ち上がった2006年時点では総事業費は25億ドル、日本円にして3600億円余りとされていました。

しかし、最新のデータでは、その4倍近くにあたるおよそ100億ドル、1兆4000億円余りに膨れ上がっています。
ロンドンや東京、ニューヨークなど1990年代以降に実施された世界の大都市の鉄道事業と比較しても、市民1人当たりのコストが最も高くなるという試算もあります。

背景にあるとされるのが、たび重なる事業計画の変更による工事の大幅な遅れや、記録的なインフレを背景にした資材価格や人件費の高騰などです。

2011年に起工式を実施、2014年に着工しましたが、10年近くが経ち、ようやく一部区間の運行にこぎつけました。
グラスルーツ・インスティチュート・オブ・ハワイ ジョー・ケント副社長
「道路や橋、学校、地域の安全を守る警察などに費やすことができるお金が減ってしまいます。多くの税金がこの鉄道事業に費やされることになります」

完成未定の区間も?

さらに心配なことがもう1つあります。

この鉄道事業は2031年までの全線開通を目指していますが、実は、路線図を見ると、その先にもう2つ駅があるのがわかります。
実は、ホノルル中心部のカカアコ駅と日本人観光客も多く訪れる巨大ショッピングモール、アラモアナショッピングセンター駅の2つです。

2年ほど前までは他の駅と同様に、2031年までに完成を目指すとされていました。

それが、建設に大幅な遅れが生じたことなどでコストがかさんでしまい、現時点ではこの2つの駅と路線の完成時期が未定となっているのです。
ホノルル高速鉄道輸送機構 ロリ・カヒキナCEO
「アラモアナショッピングセンターは、買い物を楽しむための場所なだけでなく、多くの人がバスの乗り換えを行うオアフ島の交通の要でもあり、鉄道の開通は不可欠だと考えている。そのために必要な資金を集めるのは私の重要な任務の1つであり、なんとか開通させたい」
ホノルル市のブランジャルディ市長も「この鉄道の開通は地域経済にとって、とてもよい影響があると考えている。鉄道の駅の周辺に新しいコミュニティーが生まれ、これまでになかったものを生み出せるようになる」と話していました。
日本人観光客にも人気のハワイ・ホノルル。

鉄道の開通はどのような経済的な効果を生み出すのか、そしてこの島の未来をどう変えていくのか、線路の行方を見つめ続けます。
ロサンゼルス支局記者
山田奈々
2009年入局
長崎局、経済部、国際部などを経て現所属