高校生のみなさん、うちで働きませんか?

来年春に卒業する高校生の就職活動がスタートした。
高卒人材は、人手不足が深刻化する中で企業から熱い視線を集めている。
その一方で、早期離職者が多いことが課題だ。
さまざまな制約があり大卒人材とは大きく異なる高校生の就職活動。
就職先にミスマッチを防ぐには?働き続けられる職場とは?
(経済部記者 河崎眞子)
高卒人材は、人手不足が深刻化する中で企業から熱い視線を集めている。
その一方で、早期離職者が多いことが課題だ。
さまざまな制約があり大卒人材とは大きく異なる高校生の就職活動。
就職先にミスマッチを防ぐには?働き続けられる職場とは?
(経済部記者 河崎眞子)
住宅建設現場で見た 働く10代のこころざし
「就活解禁前にはハウスメーカーに絞っていました」。
こう語るのは、大手住宅メーカーの積水ハウスグループで働く松井拓実さん(19)。
こう語るのは、大手住宅メーカーの積水ハウスグループで働く松井拓実さん(19)。

高校卒業後の2022年に採用された2年目の社員で、建設現場で住宅の梁や柱、外壁などの骨組みを担う“建方(たてかた)”と呼ばれる仕事を任されている。
松井さんは小学生のころから建設業に興味があったという。
松井さんは小学生のころから建設業に興味があったという。
松井拓実さん
「兵庫県出身なのですが、小学校の特別授業で阪神・淡路大震災のビデオを見ました。いっぱい家が流されたり、倒壊したりしているのを見て、倒れない家を建てたいと思いました」
「兵庫県出身なのですが、小学校の特別授業で阪神・淡路大震災のビデオを見ました。いっぱい家が流されたり、倒壊したりしているのを見て、倒れない家を建てたいと思いました」
兵庫県尼崎市内の集合住宅の建設現場。
この日、松井さんはクレーンで引き上げた外壁を建物の2階にはめ込む作業をしていた。
この日、松井さんはクレーンで引き上げた外壁を建物の2階にはめ込む作業をしていた。

テキパキと現場を立ち回り、資材の整頓や次の人の作業の準備もこなす。
細かい気遣いにあふれる仕事ぶりだった。
細かい気遣いにあふれる仕事ぶりだった。
松井拓実さん
「1つの作業が終わったら、どう手待ち時間を少なくできるのか、先輩の動きを見て学んでいます。特に夏は、みんながしんどい時期なので、手待ちになってしまうとみんなにストレスを与えてしまうかなと思って。よく『遅い!遅い!』って怒られるんですけれど、連携しないと全体の動きが遅くなってしまうし、工期もあるのでそれぐらい速くないと。まだペースについていくのに必死です」
「1つの作業が終わったら、どう手待ち時間を少なくできるのか、先輩の動きを見て学んでいます。特に夏は、みんながしんどい時期なので、手待ちになってしまうとみんなにストレスを与えてしまうかなと思って。よく『遅い!遅い!』って怒られるんですけれど、連携しないと全体の動きが遅くなってしまうし、工期もあるのでそれぐらい速くないと。まだペースについていくのに必死です」
長年夢見てきた仕事。
松井さんの仕事に対するやりがいの大きさを感じた。
例えば、耐震基準を満たす施工方法を部材ごとに頭に入れて作業するなど、日々の1つひとつの仕事が耐震性の担保に直接つながっている実感があるという。
松井さんは将来について、現場監督になるのか、建方以外の技能を学ぶのか、まだ悩んでいて、まずは現場でさらなるスキルを体に叩き込みたいそうだ。
松井さんの仕事に対するやりがいの大きさを感じた。
例えば、耐震基準を満たす施工方法を部材ごとに頭に入れて作業するなど、日々の1つひとつの仕事が耐震性の担保に直接つながっている実感があるという。
松井さんは将来について、現場監督になるのか、建方以外の技能を学ぶのか、まだ悩んでいて、まずは現場でさらなるスキルを体に叩き込みたいそうだ。
拡大を続ける高卒人材の採用枠
このグループ会社では、高卒人材が全従業員の43%を占めている。
管理職の人数も大卒人材を上回り、重要な戦力となっている。
来年度以降の高卒と専門学校卒の採用計画では、さらに拡充を進める。
管理職の人数も大卒人材を上回り、重要な戦力となっている。
来年度以降の高卒と専門学校卒の採用計画では、さらに拡充を進める。

来年度は95人と今年度の2倍以上、再来年度は133人と今年度の3倍以上を目指す。
高卒人材の多くは、採用後は「技能工」と呼ばれる職に就き、住宅の建設現場で施工を任される。
国内の建設業界では、耐震補強に伴うリフォームなども含めた住宅需要が2030年ごろまで底堅いとみられている。
その一方で、人手不足はさらに深刻化する見通しだ。
高卒人材の多くは、採用後は「技能工」と呼ばれる職に就き、住宅の建設現場で施工を任される。
国内の建設業界では、耐震補強に伴うリフォームなども含めた住宅需要が2030年ごろまで底堅いとみられている。
その一方で、人手不足はさらに深刻化する見通しだ。

人事責任者 岸本久樹さん
「そもそも業界全体が高齢化している上、若手の人材が少なくなっています。来年4月からは、建設業でも時間外労働の上限規制が適用されて、労働時間にキャップがかかってくるので、労働者1人ひとりが働ける時間を短くせざるを得ないということになってきますから、採用人数を増やす必要があるんです」
「そもそも業界全体が高齢化している上、若手の人材が少なくなっています。来年4月からは、建設業でも時間外労働の上限規制が適用されて、労働時間にキャップがかかってくるので、労働者1人ひとりが働ける時間を短くせざるを得ないということになってきますから、採用人数を増やす必要があるんです」
“3K”はもう時代遅れ
この会社では、待遇の改善に力を入れてきたという。
来年春に入社する高卒人材の初任給を19万5000円に引き上げることを決めた。
高卒社員の初任給アップは2年連続で、いずれも前年度より10%前後高く設定した。
さらに、来年度からは昇進や昇給に必要なスキルを可視化する仕組みを新たに導入し、モチベーションの維持も促すねらいだ。
来年春に入社する高卒人材の初任給を19万5000円に引き上げることを決めた。
高卒社員の初任給アップは2年連続で、いずれも前年度より10%前後高く設定した。
さらに、来年度からは昇進や昇給に必要なスキルを可視化する仕組みを新たに導入し、モチベーションの維持も促すねらいだ。

高い早期離職率 改善に向けて取り組む企業も
高卒人材は早期離職率の高さが大きな課題となっている。
厚生労働省の調査によると、入社後1年以内の早期離職率は2021年度卒の高卒人材で16.6%にのぼる。
大卒人材より4ポイント高い。
高卒人材を長年採用している企業では、定着率の上昇にもつながる取り組みを行っている。
アイリスオーヤマは、高卒人材の内定者を対象に入社前からビジネスマナーなどを学ぶ研修を行っている。
厚生労働省の調査によると、入社後1年以内の早期離職率は2021年度卒の高卒人材で16.6%にのぼる。
大卒人材より4ポイント高い。
高卒人材を長年採用している企業では、定着率の上昇にもつながる取り組みを行っている。
アイリスオーヤマは、高卒人材の内定者を対象に入社前からビジネスマナーなどを学ぶ研修を行っている。

スキルアップにつながるだけでなく、早期離職の原因のひとつと指摘される高校生活から社会人になる際のギャップを少しでも埋めるねらいもあるという。
ファンケルグループでは、内定者が保護者とともに職場を見学する機会を設けている。
ファンケルグループでは、内定者が保護者とともに職場を見学する機会を設けている。

保護者にも安心感を持ってもらうことがねらいだ。
また、これまで高卒の新入社員を1つの工場に1人配属させることが多かったが、来年度からは2人以上にすることも決めた。
勤務の時間帯が交代制で異なることや、1人で1つの機械を操作する仕事もあり、工場は社員が孤立しやすい環境でもあるとして、同じ職場に同期入社の社員が2人以上配属されることで、日常的なコミュニケーションを深めやすくすることにつなげたいという。
また、これまで高卒の新入社員を1つの工場に1人配属させることが多かったが、来年度からは2人以上にすることも決めた。
勤務の時間帯が交代制で異なることや、1人で1つの機械を操作する仕事もあり、工場は社員が孤立しやすい環境でもあるとして、同じ職場に同期入社の社員が2人以上配属されることで、日常的なコミュニケーションを深めやすくすることにつなげたいという。
就活の“情報過疎”を解消したい
求人票の閲覧が始まる就職活動のスタートから採用面接までの期間がおよそ2か月間と短い高校生の就活。
活動のスタートよりも前の期間に、さまざまな企業の情報に触れてもらうイベントも去年から始まっている。
その会場を取材した。
高卒人材の支援を行う会社「ジンジブ」が主催し、会場ではさまざまな参加企業がブースを設け、高校生が仕事内容の説明を受けたり、その場で簡易的に仕事を体験したりできる。
活動のスタートよりも前の期間に、さまざまな企業の情報に触れてもらうイベントも去年から始まっている。
その会場を取材した。
高卒人材の支援を行う会社「ジンジブ」が主催し、会場ではさまざまな参加企業がブースを設け、高校生が仕事内容の説明を受けたり、その場で簡易的に仕事を体験したりできる。

メモを取りながら企業担当者の説明を聞いていたある通信制の高校3年生に声を掛けた。
どの会社でもパソコンのスキルが必要だと考えて、資格を取ったという。
どの会社でもパソコンのスキルが必要だと考えて、資格を取ったという。
就活イベントに参加した高校生
「アルバイトを通して接客が苦手だと気付いたので、それ以外で人の役に立てる仕事を探しています。きょうは会社とじっくり話すことができて、興味のある会社も見つかってよかったです」
「アルバイトを通して接客が苦手だと気付いたので、それ以外で人の役に立てる仕事を探しています。きょうは会社とじっくり話すことができて、興味のある会社も見つかってよかったです」
ことしは全国14会場で行われ、あわせて384社が参加。
学校に対しても参加を呼びかけ、あわせておよそ2800人の高校生が会場を訪れたという。
就職先の判断材料となるさまざまな企業の情報に直接触れる機会を作ることで、短期離職のミスマッチを防ぐことがねらいだ。
学校に対しても参加を呼びかけ、あわせておよそ2800人の高校生が会場を訪れたという。
就職先の判断材料となるさまざまな企業の情報に直接触れる機会を作ることで、短期離職のミスマッチを防ぐことがねらいだ。

ジンジブ 近藤海里さん
「1社を見学し、1社を受験してそこに就職することを決めることが多いことが現状で、複数の会社を比較検討する時間も機会も少ない。ミスマッチになりやすい短いスケジュールで就活がスタートする前に企業の魅力を知ることでミスマッチを防ぐことがねらいであり、自分に会う会社を見つける第一歩になる。高校生に自分の知らない会社を知って幅を広げられるいい機会となっている」
「1社を見学し、1社を受験してそこに就職することを決めることが多いことが現状で、複数の会社を比較検討する時間も機会も少ない。ミスマッチになりやすい短いスケジュールで就活がスタートする前に企業の魅力を知ることでミスマッチを防ぐことがねらいであり、自分に会う会社を見つける第一歩になる。高校生に自分の知らない会社を知って幅を広げられるいい機会となっている」
取材後記
いま振り返ると大学時代の私は就活に全力だった。
就活解禁までの4年間で、選択授業やサークル、アルバイト、インターンシップ、すべてをジャーナリズムに関連付けたが、それでもいまだに私自身がこの場にあっているのか自信を持てない。
高卒人材の就活のいまの仕組みでは、入社前後でギャップを感じてしまうのは当然だと思う。
大阪府教育委員会と大阪労働局、それに経済団体などは今の制度を見直し、去年の選考から1人2社まで併願できる「1人2社制」を導入している。
ただ、その一方で、現状の制度のもとでも、企業との接点を増やして情報をより集めやすくする環境を企業、行政、学校が整えることはできるのではないか。
就活解禁までの4年間で、選択授業やサークル、アルバイト、インターンシップ、すべてをジャーナリズムに関連付けたが、それでもいまだに私自身がこの場にあっているのか自信を持てない。
高卒人材の就活のいまの仕組みでは、入社前後でギャップを感じてしまうのは当然だと思う。
大阪府教育委員会と大阪労働局、それに経済団体などは今の制度を見直し、去年の選考から1人2社まで併願できる「1人2社制」を導入している。
ただ、その一方で、現状の制度のもとでも、企業との接点を増やして情報をより集めやすくする環境を企業、行政、学校が整えることはできるのではないか。

経済部記者
河崎眞子
2017年入局
松山局を経て現所属
河崎眞子
2017年入局
松山局を経て現所属